2022年7月3日 08:00
バズ・ライトイヤーは「トイ・ストーリー」でアンディ少年のお気に入りに加わった、スペース・レンジャーのクールなおもちゃ。けれどこの映画はおもちゃの映画じゃない。95年にアンディが見て夢中になった、バズを主人公とするSFヒーローアドベンチャーそのもの、という設定だ。
まず、バズに髪の毛があることを新鮮に感じるだろう。頭巾を取ったバズは期待通り、自信満々で勇気と使命感に満ちたヒーロー気質人間として登場する。ところが、彼は自分を過信して宇宙で重大なミスを犯し、アッという間に時間を、友だちを、人生を失ってしまう。自分のせいで惑星に取り残された人々を地球に帰そうとする挑戦の代償として、大きな自己犠牲を払ったために。
バズがチャンレンジを続けたハイパー航行は1回4分ほどだが、惑星時間の4年分を費やすもの。気づけば彼だけ若いまま、惑星では60年以上の時間が経過していた。いわゆる「浦島効果」だ。ここの導入描写が、「カールじいさんの空飛ぶ家」の冒頭を思わせる見事さでシビレる。過ぎゆく時間をハイパースピードで描写しながら、大切な同僚で親友・アリーシャとの心のつながりがどんなものだったかをしっかりと感じさせ、自責の念や孤独といったエモーションのドラマを痛いほど丁寧に、的確に描き出しているのだ。
前半の感情的な助走モードを終えると、映画は転調し、視界もテンションも一気にアップ。ピクサーのお家芸が炸裂し、ダイナミックな創意と実写以上にリアルな映像美、魅力的なキャラクター、熱いメッセージが渾然となって、観客を歓喜と興奮と笑いの映画体験へと誘っていく。アリーシャの孫娘ら新たな仲間を得て、冒険の中で自分自身と向き合い、仲間との絆に生かされるバズ。失敗したら、すべては意味がなくなるのか? なかったことにできれば、それが最良の選択なのか……? 孤独を知り、自分と向き合ったバズがたどる人間としての成長は、「トイ・ストーリー」が持っていた価値観とも重なって、胸を熱くする。
そして何よりこの映画の魅力を支えているのが、アリーシャに贈られた猫型友だちロボット・ソックスの存在だ。もうこれは反則かってくらい、かわいくてオモシロ! スリルに次ぐスリルで手に汗握ったところで、絶妙にボケたりナイスアシストを発揮する彼に、どうして夢中にならずにいられるだろう。
ただこれ、「95年にアンディを夢中にさせた映画」という設定はいらなかったのではないか。レトロ味はあるが、これはどう見てもアップデートされた2022年の映画だ。たとえば、アリーシャのセクシュアリティ。彼女は黒人女性で、人生をともにするパートナーは同性なのだが、今でこそ当たり前に思えるこの描写が95年当時にすんなり受け入れられたかどうか。それに、この映画がヒットした「トイ・ストーリー」の世界にソックスのおもちゃが存在しないなんて、あり得ないんじゃないか?
しかし、設定に違和感があるというだけで映画の価値を下げてしまうなんてもったいない。ここは「バズのヒーロー映画:2022年版」としてぜひ、映画館で存分に体験してほしい。無限の彼方へ!
(若林ゆり)
(映画.com速報)
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