令和4年6月17日
証券取引等監視委員会
1.勧告の内容
関東財務局長があい証券株式会社(東京都港区、法人番号9010401057968、代表取締役会長 黎瑞芬(ライ スイファン)、代表取締役社長 加藤丈典、資本金3億円、常勤役職員21名、第一種金融商品取引業、第二種金融商品取引業)を検査した結果、下記のとおり、当該金融商品取引業者に係る問題が認められたので、本日、証券取引等監視委員会は、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、金融庁設置法第20条第1項の規定に基づき、行政処分を行うよう勧告した。
2.事実関係
⑴ 無登録で投資運用業を行っている状況 あい証券株式会社(以下「当社」という。)は、ARBITRAGE SYSTEM FUND COMPANY LIMITED(英国領ケイマン諸島籍の法人、以下「AS社」という。)を営業者とする匿名組合「裁定システムファンド(Arbitrage System Fund)」(以下「裁定ファンドⅠ」という。)に対し、唯一の適格機関投資家として出資するとともに、平成23年10月31日付で、AS社と販売委託契約及び事務管理に係る覚書(以下「本件覚書」という。)を締結し、検査基準日(令和2年8月24日)現在、裁定ファンドⅠに係る出資持分の私募の取扱いや出資金の管理等を行っているとしている。
また、AS社は、関東財務局長に対し、平成23年11月2日付で適格機関投資家等特例業務(以下「特例業務」という。)に関する届出書(以下「特例届出書」という。)を提出するとともに、平成28年8月31日付で金融商品取引法の一部を改正する法律(平成27年法律第32号)附則第3条第1項に基づく特例届出書を提出するなどして、検査基準日現在、特例業務として、裁定ファンドⅠの自己運用業務を行っているとしている。
さらに、裁定ファンドⅠは、営業者であるAS社の投資判断に基づき、外国投資法人Ⅹ(以下「本件外国投資法人」という。)が発行する外国投資証券Powerfund(以下「本件外国投資証券」という。)への投資を通じたファンド・オブ・ファンズ形式により、外国為替取引及び外国為替オプション取引等を主な投資対象として運用されるとしている。
しかしながら、AS社の唯一の役職員である藤代勝雄氏(以下「藤代氏」という。)は、裁定ファンドⅠの運営に関し、投資先候補の発掘や投資先候補との投資に係る交渉のほか、投資判断に基づく投資先の決定・投資実行・投資後の運用管理・投資により取得した有価証券の処分等の投資運用に関する業務について行っておらず、これら業務を全て当社が行っている状況が認められた。
具体的には、当社は、遅くとも平成23年8月頃までに、本件外国投資法人に係る資産の運用者STI Wealth Management (Cayman) Limited(英国領ケイマン諸島籍の法人、平成29年9月にSTI PF Limitedに商号変更、以下「STI社」という。)から、本件外国投資証券に係る説明を受けたことにより、その存在を認知し、その後、STI社から本件外国投資証券に関する資料を入手の上、本件外国投資証券の内容を調査・分析するなどして、裁定ファンドⅠに係る投資先候補の発掘や投資先候補との投資に係る交渉を行った。
また、当社は、本件外国投資証券に関する調査・分析を踏まえ、遅くとも平成23年10月頃までに、藤代氏に対する説明や同人との協議を行うことなく、当社自身の投資判断に基づき、裁定ファンドⅠに係る匿名組合契約書(以下「本件匿名組合契約書」という。)や特例届出書を作成するなどして、特例業務の制度を利用し、AS社を名目上の営業者とする裁定ファンドⅠの組成を通じた本件外国投資証券への投資を決定した。
なお、藤代氏は、平成22年8月にAS社の代表者に就任しているが、この際、当社は、藤代氏に対し、同社業務の一切を当社が行うと約し、同社の代表者となるよう依頼した。
さらに、当社は、裁定ファンドⅠに係る出資持分の私募の取扱いを開始した平成23年11月から令和2年8月までの間(以下「本件期間中」という。)、裁定ファンドⅠの運用財産を以って本件外国投資証券を取得するため、藤代氏に対して判断を仰ぐことなく、当社自身の投資判断に基づき、反復継続して、AS社名義の出資金管理口座から、本件外国投資証券の取得代金を送金するなどして、投資を実行した。
また、当社は、本件期間中、裁定ファンドⅠの出資者に対する解約金又は分配金の支払いを行うため、藤代氏に対して判断を仰ぐことなく、当社自身の投資判断に基づき、反復継続して、裁定ファンドⅠの財産にて保有する本件外国投資証券を売却するなどして、投資により取得した有価証券の処分を行った。
このほか、当社は、本件覚書において、AS社が行うとされている裁定ファンドⅠの運用管理業務に関し、本件期間中、藤代氏に対して判断を仰ぐことなく、STI社から、反復継続して、本件外国投資法人に係る資産の運用状況に関する資料を入手し、これを分析することにより、当該運用状況を管理・把握した上で、当社自身の投資判断に基づき、本件外国投資証券への投資を継続するなどして、裁定ファンドⅠに係る運用管理を行っていた。
なお、AS社は、本件匿名組合契約書において、裁定ファンドⅠの管理報酬として、各計算期間末日における純資産総額の年率2.0%相当額を受領するものとされているほか、本件覚書において、当該報酬額計算を行うとされているところ、当社は、本件覚書等に特段の定めがない中、藤代氏の了承を得ることなく、AS社に対する報酬額を年率0.2%として計算し、その上、残りの年率1.8%相当額について、事務管理受託報酬名目でこれを受領している。
このように、AS社は、裁定ファンドⅠの名目上の営業者となっているに過ぎないものであり、当社が行った上記一連の行為を実質的に評価すれば、当社が裁定ファンドⅠの営業者として、本件外国投資証券の価値等の分析に基づく投資判断に基づいて、主として本件外国投資証券に対する投資として、裁定ファンドⅠの出資者から拠出を受けた金銭の運用を行っていたものと認められる。
当社による上記行為は、金融商品取引法第28条第4項に規定する投資運用業(同法第2条第8項第15号に掲げる行為)に該当するものであり、当社が同法第31条第4項に基づく変更登録を受けることなく投資運用業を行うことは、同法第29条に違反するものと認められる。
⑵ 投資者保護上問題のある業務運営
当社は、上記⑴記載のとおり、実際には、裁定ファンドⅠの実質的な営業者となって、長期間に亘り、無登録で裁定ファンドⅠの運用を行っていたにもかかわらず、出資者に対し、AS社が裁定ファンドⅠの営業者として運用を行う旨を記載した資料を用いて説明するなどして、私募の取扱い等を行っていた。
また、当社は、検査基準日現在、裁定ファンドⅠのほか、A.S.PRODUCT Ⅱ COMPANY LIMITED(英国領ヴァージン諸島籍の法人)を営業者とし、本件外国投資証券を投資対象とする匿名組合「裁定システムファンドⅡ(Arbitrage System FundⅡ)」(以下、同ファンド及び裁定ファンドⅠを合わせて「本件特例2ファンド」という。)に係る出資持分の私募の取扱い等を行っているほか、あいグローバル・アセット・マネジメント株式会社(東京都港区、法人番号9010001065933、金融商品取引業者であった者(令和3年12月24日、金融庁長官より金融商品取引業の登録取消処分が行われた。)、発行済株式の40%を当社が保有。)が設定・運用する公募投資信託「あい・パワーファンド」(以下「本件公募投信」という。)の募集の取扱いを行っている。
しかしながら、当社は、金融商品取引業者として、新たな金融商品の販売に際して、適合性原則等を踏まえ、適正な投資勧誘の履行を確保する観点から、当該金融商品の特性やリスクの種類・大きさ等を適切に把握した上で、販売対象となる顧客を検討・評価するなどの必要性の認識が欠如していたことにより、商品審査の基準や手続き等を定めた社内規程を設けておらず、本件特例2ファンド及び本件公募投信の販売に際しても、こうした観点からの十分な商品審査を実施していない。
さらに、当社は、取り扱う金融商品の具体的なモニタリング方法について定めた社内規程を設けていない中、本件特例2ファンドに関し、STI社から本件外国投資法人に係る資産の運用状況に関する資料を入手し、これを確認・分析するなどして、モニタリングを実施していたとしている。
しかしながら、これら資料によれば、平成27年頃より、STI社によって、本件外国投資法人に係る資産の運用方法が大幅に変更されているなど、本件特例2ファンドの商品性に重大な影響を及ぼす事象が発生していたにもかかわらず、当社は、これらを看過しており、出資者に対する説明も適時に行っていない。
このほか、平成30年6月頃、当時の管理部長において、本件特例2ファンドに係る法令上必要な運用報告書がこれまで一切作成・交付されていないことについて認識するなど、問題意識を有していたにもかかわらず、当社は、特段の措置を講じることなく、これを放置している。
このように、当社は、極めて杜撰な経営管理態勢・内部管理態勢の下、顧客に対し、投資判断を行う上で重要となる情報を適時・適切に説明することなく、本件特例2ファンドについて、それぞれ48名に販売(総額約4.7億円)していたほか、本件公募投信について、145名に販売(総額約15億円)していた。
当社における上記業務運営の状況は、金融商品取引法第51条に規定する「業務の運営に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であるとき」に該当するものと認められる。
(参考条文)
○ 金融商品取引法(昭和23年法律第25号)(抄)
(定義)
第二条 この法律において「有価証券」とは、次に掲げるものをいう。
一~十 (略)
十一 投資信託及び投資法人に関する法律に規定する投資証券、新投資口予約権証券若しくは投資法人債券又は外国投資証券
十二~二十一 (略)
2~7 (略)
8 この法律において「金融商品取引業」とは、次に掲げる行為(その内容等を勘案し、投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるもの及び銀行、優先出資法第二条第一項に規定する協同組織金融機関(以下「協同組織金融機関」という。)その他政令で定める金融機関が行う第十二号、第十四号、第十五号又は第二十八条第八項各号に掲げるものを除く。)のいずれかを業として行うことをいう。
一~十四 (略)
十五 金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に基づいて主として有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資として、次に掲げる権利その他政令で定める権利を有する者から出資又は拠出を受けた金銭その他の財産の運用を行うこと(第十二号及び前号に掲げる行為に該当するものを除く。)。
イ・ロ (略)
ハ 第二項第五号又は第六号に掲げる権利
第二十八条
1~3 (略)
4 この章において「投資運用業」とは、金融商品取引業のうち、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、銀行、協同組織金融機関その他政令で定める金融機関が、当該行為のいずれかを業として行うことを含むものとする。
一・二 (略)
三 第二条第八項第十五号に掲げる行為
(登録)
第二十九条 金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行うことができない。
(変更登録等)
第三十一条
1~3 (略)
4 金融商品取引業者は、第二十九条の二第一項第五号、第六号、第七号ロ、第八号又は第九号に掲げる事項について変更をしようとするときは、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣の行う変更登録を受けなければならない。
(金融商品取引業者に対する業務改善命令)
第五十一条 内閣総理大臣は、金融商品取引業者の業務の運営又は財産の状況に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、その必要の限度において、当該金融商品取引業者に対し、業務の方法の変更その他業務の運営又は財産の状況の改善に必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
からの記事と詳細 ( 検査結果に基づく勧告について(令和4年6月17日):証券取引等監視委員会 - 金融庁 )
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