Sunday, July 3, 2022

映画『エルヴィス』アーティストとマネージャーの関係描く 現代のエンタメ界に通じる物語 - 中日新聞

映画『エルヴィス』(公開中)バズ・ラーマン監督 (C)ORICON NewS inc.

映画『エルヴィス』(公開中)バズ・ラーマン監督 (C)ORICON NewS inc.

 7月1日より劇場公開された映画『エルヴィス』は、世界で最も売れたソロアーティスト(ギネス認定)、エルヴィス・プレスリー(1935年-1977年)の物語であり、現代のエンターテイメント業界にもつながる物語だ。6月下旬に来日した、脚本・監督・製作を務めたバズ・ラーマン(59)にインタビューを行った際、「K-POPのこともいろいろリサーチしました」と明かしていた。

 エルヴィスを一夜にして有名人にしたカントリーミュージックショーでのパフォーマンス。エルヴィスが初めて公衆の面前で歌い、踊る姿に、観客の女性たちはいままでにない興奮を覚えて熱狂する。これは、時を越えて、BTSなどのK-POPグループがアメリカの音楽シーンを席巻する様子と重なるものがある。

 ラーマン監督は「K-POPのこともいろいろリサーチしました。急に有名になることによって、生じる問題や代償にどんなものがあるのか、現代の皆さんなら、いろいろ知っているでしょう。しかし、エルヴィスが登場するまで、ティーンアイドルは存在しなかったんです。50年代のアメリカは、ちょうどティーンネイジャーがお金を持つようになった時代で、その市場を見逃さなかったのが、エルヴィスの唯一のマネージャーであるトム・パーカーだったんです」。

 映画『エルヴィス』は、不世出のスーパースター、エルヴィス・プレスリー(オースティン・バトラー)と、彼の悪名高いマネージャーであるトム・パーカー(トム・ハンクス)の出会いから、前例のないスターダムを上り詰め、エルヴィスが42歳の若さで亡くなるまでの約20年間を、変わりゆく激動のアメリカ社会・文化を背景に描き出したもの。

 「この映画に取り組むことになる前からずっと、エルヴィスに興味を持っていたのと同時に、アメリカのことを探究したいと思っていました。それはつまりエルヴィスが生きた時代なんです。文化の中心に、彼がいました」と、ラーマン監督。

 白人のカントリーミュージックと黒人のリズム&ブルースを融合した禁断の音楽“ロック”を生み出し、マーチャンダイズ(アーティストグッズ)も、ライブの世界中継もこの人たちから始まった。

 ラーマン監督は、これまでの作品と同様に、「当時の客が感じた衝撃」を抽出して、「現代の客に同じ衝撃を体験させる」ことを『エルヴィス』でも目指した。それは、膨大で、徹底したリサーチをした上で、時に時代考証に忠実であることから外れた演出をすることも。

 『エルヴィス』は、コンサート映画と言ってもいいほど、音楽とパフォーマンスにあふれ、当時のスタイルをかなり正確に描きつつも、要所要所では当時の若い観客が感じたであろう衝撃を現代の観客にも感じてもらうために、歌詞と曲の雰囲気を今風に変えたり、時代錯誤と言われるようなアレンジを加えたりしている。

■悪役を引受けたトム・ハンクスも、過去に悪徳マネージャーを経験

 ラーマン監督は「エルヴィスは3人いる」という。「50年代のエルヴィス、60年代のエルヴィス、そして70年代のエルヴィスです。僕らはグレースランド(米テネシー州メンフィスにあるエルヴィス・プレスリーの邸宅だった建物を含む敷地)にしばらく滞在してエルヴィスについて深くリサーチしました。エルヴィスや彼の音楽について誰しもが何かしら知っているんだけど、私を含め、深くは理解していないかったことに気づきました。そして、掘り下げて調べれば調べるほど発見がありました」。

 50年代のエルヴィスは、「反逆児エルヴィス」だ。

 「エルヴィスは10代の頃、ミシシッピ州トゥペロの黒人居住地域にある数少ない白人専用住宅に住んでいて、そこで彼は黒人たちの音楽に触れ、吸収していったんです。それをもともと好きだった白人の音楽であるカントリーミュージックと融合させて、それまで聴いたことも見たこともない音楽、ロックをつくり出してしまった。しかもセンセーショナルなパフォーマンスで若者、特に若い女性を熱狂させる。当時の白人社会の大人たちにとっては、白人が黒人の音楽をやるなんてとんでもない反逆ですよ。それに若者たちが熱狂する。当局は彼のことを非常に恐れました。熱狂的に愛された一方で、中傷の的になり、警察の監視下に置かれることにもなるんです」。

 それでもエルヴィスは、アメリカを、ポップカルチャーを、世界を一変させてしまう。

 60年代のエルヴィスは「ハリウッドスター」。そして、70年代のエルヴィスは…。

 「完全に人生を詰んでしまいます。エルヴィスは、ワールドツアーを夢みていました。日本に行って、コンサートをしたいと言っていたんですが、それもかなわなかった。彼をだまして、だまして、アメリカに閉じ込めていたのは、マネージャーのパーカーです。彼は世界的大スターなのに、アメリカの以外の国で歌ったことが一度もなかったんです」

 観客は、3人のエルヴィスを目撃することになるが、常にその傍らにいるトム・パーカーは一貫している。

 「パーカーは、エルヴィスに金銭的な可能性を見出してからというもの、常に、どうやったらできるだけ多くの金を稼げるか、ということしか考えていないマネージャーでした。とてもじゃないけど好感の持てないパーカーという役を、トム・ハンクスは進んで引き受けてくれた。俳優としてこれまでとは違った雰囲気の役を演じてみたかったようですし、実際に悪徳マネージャーに振り回された経験があるとも言っていました。不安につけこみ、依存状態にして、支配する。名声を利用するためにどんなことでもする人がいる、という教訓めいたことも見せたかったみたいです」。

 エルヴィスが好んで使った言葉に「taking care of business」、略して「TCB」というのがある。「やるべきことをやる、ふさわしい役目を果たす」という意味だ。

 「ミュージシャンとしてだけでなく、やり手のビジネスマンでもあったB.B.キングが『ビジネスをしなければ、ビジネスにやられる』とエルヴィスに助言するシーンがあります。エルヴィスはTCBに努めましたが、結局、“ビジネスにやられて”しまいました。マネージメントとアーティストの関係が良好な時はいいけれど、マネージメント側の力が大きくなりすぎてビジネスに偏れば、アーティストが犠牲になる。どこでバランスをとるかが重要だし、それは、日本のアーティストにも、K-POPのアーティストにも言えることです」と、ラーマン監督は話していた。

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