コアの部分は各商品に受け継がれながらも、商品自体は違うということはあり得る
佐宗純氏(以下、佐宗):会社としての方針があった上で、さらにブランドがそれぞれ独立して愛されていると、より強固な器になっていくのかなと感じています。
今までのタカヤの事例の中だと、例えばLUUPだったら電動バイク、青山ブックセンターだったら会社側の全体的なコーポレートブランディングという感じで、どちらかに振れているケースが多いなと思ったのですが、木村石鹸さんみたいなコーポレートブランディングと、SOMALIみたいな製品ブランディングの両方に携わるケースもあるんですか?
タカヤ・オオタ氏(以下、オオタ):今までだとやはり単一のプロダクト、ないしは1つの企業から同一のプロダクトが出るということが多いので、木村石鹸さんみたいに木村石鹸という器があって、そこから派生して複数の商品が出ているというのは、うちではまだないですね。
なので、すごくおもしろそうだなと思うし、今、木村さんがおっしゃっていた話で言うと、やはり木村石鹸という軸があって、そのコアの部分は、たぶん商品それぞれに脈々と受け継がれている。でもその商品自体、単体のコミュニケーションには、それぞれ違うキャラクターがあるというのは、あり得ると思っていました。
僕もよくわからないのですが、パーパス経営って、そういうことなんじゃない? とお話を聞いていて感じました。
佐宗:パーパス経営も、ビジネス的な文脈で使われることが多いですね。言っている本質は一緒だけれども、経営者目線とデザイナー目線では、使う言葉が違うというのはありそうだなと思っています。
オオタ:どこで1本筋を通すのか、みたいな話かなと思っています。
佐宗:まさにそうですね。
依頼者が商品のストーリーに気づいていない時のアプローチ法
佐宗:実は、事前に質問を20個ぐらいもらっているので、ちょっとここらへんを拾っていきたいと思います。
これはちょっと難しい質問かなと思いますが、「依頼者が商品ストーリーに気づいていない、ないしは知らない場合のヒアリング方法を知りたいです」。これはヒアリング方法だから、どちらかというとタカヤのデザイナー視点かな?
オオタ:一問一答のヒアリングを行うよりは、もっとフワッとお話をして、雑談というか議論を深めていく中で、お互い気づかない側面に触れていくというアプローチのほうがすごくいいなと思っています。
まだ世には出していない制作進行中の案件でも、複数のデザイナーが関わることで、「あらためて自分たちのブランドや企業のアイデンティティ、企業らしさとは何なんだろうというところから立ち返って考えました」というお言葉をいただくこともけっこうあります。 木村さんみたいに社長という立場だと、また少し別なのかもしれませんが、担当する人がすべてを知っているわけではないことのほうが多いので、そこは一緒に話しながら、どうやって自分たちの考えを整理していくのかというところから始めるのが、すごくいいんじゃないかなと思います。
「なにも伝えることがないことが実は正直さなんだ」とデザイナーさんに気づかせてもらった
佐宗:最終的には雑談的なアプローチにはなるとは思いますが、やはり経営者からヒアリングの時間をもらうのって、少し躊躇してしまう面があるとは思うんですよね。木村さんは、デザイナーやブランドを担うメンバーとの対話の機会が多いのかなと勝手に思っているんですが、どうですか?
木村祥一郎氏(以下、木村):もう雑談しかしていないですね(笑)。でも、気づいていないのもあるし、本当にデザイナーさんと僕らで新しく発見してしまうことってあるんですよね。
実は12/JU-NIのポテンシャルに、僕はクリエイターの方から気づかせてもらいました。シャンプーとしてのいわゆる売り文句がまったくないことが悩みだったんですよ。市販のシャンプーでよく語られているような語り口で語れる要素がぜんぜんない。ただいい商品だと。
この商品をどうやって位置付けたらいいんだろうと悩んで、開発者とデザイナーが話をしていた時に、デザイナーさんが「なにも伝えることがないことが実は正直さなんだ」と。もうその正直さ、取り立てて伝えることはないけれど、本当にいいものができたということを出すのが木村石鹸らしいんじゃないかと教えてくれたんですよね。
なにもないことをすごくネガティブに思っていたけど、なにもないことが実はプラスだったというのは、そういう雑談とか開発者と話をしている中で、デザイナーさんが見つけ出してくれたことでした。やはりきちんと対話をすると、いろいろな方向の解決案が出てくるから、必要だなといつも思っています。
ブランドや商品ストーリーのヒアリング機会を渋る担当者とは仕事をしない
佐宗:ちなみに、ヒアリングの時間はどういうアプローチで行われるんですか?
木村:人によりけりなんですが、コロナ前はとりあえず会います。それで雑談したり、抱えているものをとりあえずバーっと机の上に並べて、「どう?」みたいな感じのことをやっていました。
今は僕が直接やるケースは少ないですが、商品にまだなる前で、こういうネタがあったら、担当になった人には「とりあえず1回相談したら?」と言っています。
詰めて詰めて、自分たちで戦略やいろいろなものを形を作ってから相談するよりも、ネタのレベルから相談したほうが、いろいろなアイデアが出てくるし、おもしろいものができ上がる確率は上がるので、やったほうがいいよと言っていますね。
デザイナーさんにはもしかしたら負担をかけているかもしれないですけどね。仕事にならない前からいろいろな相談をしているので申し訳ないんですけど(笑)。
オオタ:その単体の時期だけ切り出すと負担ではありますが、最終的な仕上がりの精度は、やはりそういうところからやったほうが抜群に上がります。だから僕は、そういうお話をする機会をくださいと言って、「ちょっと忙しいから」という反応をする担当者や経営者の人との仕事はしないと決めています。
その2、3時間も割けないんだったら、その後、数十時間こっちは制作に時間を割くんだから、「それぐらいは当然じゃない?」という態度でいつも臨んでいます。
佐宗:おもしろい、いいですね。
ケルンが四半期ごとに期間を区切って制作を受けている理由
佐宗:今、関連した質問が来ました。時間を使って、クオリティを上げていくということは、ある程度の期間コミットしないといけないと思います。
そんな中で、「ケルンさんのWebを拝見しました。四半期ごとに期間を区切って制作を受けているようでしたが、1社1社としっかり向き合うためにそのようなスタイルをしているのですか?」と質問が来ています。どうですか?
オオタ:そうですね、建前と本音があります。まだ契約するかどうかもわからない人と、同時にいろいろな話を制作期間中にすると、うちみたいな小規模な事務所はロスがけっこう多いという側面があるので、効率化しようというのが本音というか、一応、効率化という側面ではあります。
そうしたほうが、「4ヶ月はあなたのために押さえているので、あなたもその期間はうちと向き合ってください」という話し方ができるのもあって、そういう区切り方をしていますね。
佐宗:なるほど。それにしても、この質問をされた方はよく気づきましたね。
オオタ:そうですね。よく見ていらっしゃいますね。
佐宗:kernさんのWebにもいろいろなデザインのストーリーが載っているので、ぜひみなさんに見てもらえばと思います。
オオタ:見てください。がんばって編集しています。
佐宗:木村さん、今みたいに、例えばデザイナーから「四半期コミットします」みたいなことを言われた時に、どう感じますか?
木村:信頼が出来上がっていれば、デザイナーさんがやりやすいやり方でやったほうがいいクオリティのものができるし、こっちも気兼ねなく相談できます。アウトプット単位のほうがいいと言う人もいますしね。制作物単位のほうがいいと言う人は、それでやります。
オオタ:いますよね。
木村:「月額費である程度固定してカバーしますよ」というほうがやりやすいのであれば、そのやり方を採りますし、そこには、あまりこだわりはありません。一緒に考えてもらえる、本当に伴走してもらえるやり方にしたいというのはあります。
想いをカタチにする上で木村石鹸が大事にしていること
佐宗:最後の質問にいきたいと思います。今回、「想いをカタチにするブランドストーリーとは」というテーマなので、この「想いをカタチにする」で最も大事にしていることは? というのをおうかがいしたいと思います。
また、「マーケターやプランナーではなく、デザイナーが見た目だけのデザインの前段階を担う意義をどのようにお考えか聞いてみたいです。デザイナーの役割が本当に広くなってきている中で、どのように本質のデザインを学んでいったらいいのかもお聞きしたいです」という質問が来ています。
お二人が想いをブランドとしてカタチにしていく過程で、大事にしていることは何か? そして、おそらくそれが本質のデザインにたどり着くと思うのですが、その本質のデザインをどのように学んでいくべきか。経営者視点、デザイナー視点、それぞれの視点からうかがいたいなと思っています。ちょっと難しいのですが、最後の質問にしたいと思います。いかがでしょうか?
木村:難しいですね。メッチャ難しいですよ(笑)。
佐宗:けっこう難しいです(笑)。質問のリテラシーが非常に高いですね。
オオタ:難しいですね。
木村:想いをカタチにする上で最も大事にしているもの……。そもそも自分が持っている考えや想いに対して、不満とか不安とかがあると自信が持てないじゃないですか(笑)。そこは、まず論外だなと思っています。
きちんと自分の想いに対して自信を持って向き合えるかどうかは、最終的に商品や形になったものを、誰か大切な人に自信を持ってあげられるか? ということにたぶんつながっていくと思います。
それを作る過程も含めて、自信を持って自分たちの商品としてきちんと提示できるかということかなと思って、そこはすごく大事にしていますね。なんか抽象的ですけど。
(次回へつづく)
<続きは近日公開>
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