昔からある原始的な乗り物と思われがちな自転車ですが、その歴史は意外と浅く、誕生から200年程しか経っていません。現代の自転車の原型を辿ります。
人の生活に寄り添い、身近な存在となった自転車
燃料を必要とせず人の力だけで進むことができる自転車は、シンプルな構造で昔からある原始的な乗り物だと思われがちですが、じつはその歴史は意外と浅く、誕生から200年程しか経っていません。
1800年代に発生した自転車の原点から、日本では「だるま自転車」と呼ばれ一時は国内でも製造された特徴的なフォルムの「オーディナリー型自転車」は、1870年頃まで流行していました。
1860年代に入って現在の小児用3輪車のように、前輪にペダルを直接取り付け、ペダルの回転がそのまま前輪の回転になる前輪駆動の2輪車が開発され、一大ブームを巻き起こしましたが、このブームに乗り遅れてなるものかと多くのメーカー・技術者が市場に参入し、ヨーロッパ各地でさまざまな新製品の開発がすすめられました。
そして1879年、ついにイギリスのヘンリー・ジョン・ローソンが、チェーンを使って後輪を回転させる後輪駆動の自転車を製作します。
後輪駆動のメリットは、ペダルについている歯車と、後輪についている歯車の大きさで車輪の回転数をコントロールできることです。例えば、ペダル側の歯車の歯の数が20で、後輪についている歯車の歯の数が10の場合、ペダルを1回転する間に後輪は2回転します。
ペダル1回転がそのまま車輪の1回転になる前輪駆動の場合は、スピードを出すために異様なまでに前輪の直径を大きくする必要がありましたが、後輪駆動だと前輪を大きくする必要がないので、前後のタイヤの大きさがほぼ同じ大きさになり、サドルも低くなります。乗る人の足もしっかり地面に届くようになったので、ようやく自転車が日常生活で使われるようになっていきます。
そして、1885年に後輪の直径より極端に大きな形状の前輪を持つ自転車「オーディナリー」を開発したジェームス・スターレーの甥であるジョン・ケンプ・スターレーが、後輪駆動でより安全性を考慮した「ローバー安全型自転車」の販売を開始します。
これが大ヒットし、とにかく危険だった「オーディナリー」を駆逐して自転車のスタンダードになり、現在まで続く自転車の原型となりました。
ちなみに、この「ローバー」という名前が世間に広く認知されたので、ジョン・ケンプ・スターレーは自社の名称をローバー・サイクル・カンパニー・リミテッドに改名しました。
そしてジョン・ケンプ・スターレー亡きあと、会社はモーターサイクル製造業に参入し、やがてイギリスを代表する自動車ブランド「ローバー」となります。2005年にブランドとしては消滅してしまいましたが、オフロードカーの「ランドローバー」や「レンジローバー」に、その名を残しています。
さて、この時点では車体に十分なサスペンションなどがなく、空気の入ったゴム製のタイヤもないので地面の衝撃が運転する人にダイレクトに伝わり、イギリスでは「ボーンシェイカー(骨ゆすり)」と呼ばれるほど乗り心地が最悪だったそうです。
それが1888年に世界的なタイヤメーカーの創設者として知られる、ジョン・ボイド・ダンロップが空気入りタイヤを実用化したことで劇的な変化が起こりました。すぐさま自転車にも使用された空気入りタイヤで自転車の乗り心地と速度は大幅に向上し、ここから自転車は恐るべきスピードで進化していきます。
1896年には、自転車の数ある技術的な発明のなかでも革新的なもののひとつと言われる「フリーホイール」が開発され、現代的な自転車の基本がほぼ完成しました。
それまでの自転車は「固定ギア」と呼ばれる、ペダルを漕ぐ足を止めると車輪も止まる仕組みだったので、走行中に足を止めてしまうと急ブレーキがかかって転倒してしまう恐れがありました。
しかし、フリーホイールはペダルの回転を止めても車輪が回り続ける仕組みになっているので、予期しない急ブレーキがなくなり、安心して運転できる自転車を誕生させたのです。
こうして1900年代に入ると、1903年にフランスで第1回ツール・ド・フランスが開催され、日本では1917年に保有台数が100万台を超えるなど、自転車は身近な存在として世界中に広がっていきます。燃料を必要とせず、人力だけで好きな場所に行ける自転車の普及は、人々の生活を大きく変えました。
ちなみに、1903年に飛行機を発明して世界で初めて有人動力飛行を成功させたライト兄弟の本業は自転車屋でした。また、「経営の神様」と呼ばれたパナソニックの創業者、松下幸之助のキャリアのスタートも自転車です。身近な存在でありながらさまざまな分野に影響を及ぼしている、そんな自転車の歴史を振り返ってみるのも面白いものです。
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本記事は「自転車文化センター」が所蔵する資料を基にしています。自転車に関する書籍約1万1500冊をはじめ、希少な歴史的自転車、部品やポスターなどの自転車に関する資料が所蔵されています。貴重な歴史的自転車を実際に見ることができるので、興味のある方は訪れてみてはいかがでしょうか。
■自転車文化センター(取材・撮影協力)
所在地:東京都品川区上大崎3-3-1 自転車総合ビル1F
入館料:無料
開館時間:9時30分~17時(最終入館16時45分)
定休日:月曜日(祭日の場合は翌平日)、年末年始
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