Friday, September 30, 2022

漢詩で現代の風物詠みやすく 7月死去の石川忠久さん遺作 詩語集を出版 - 中日新聞

石川さんが監修した『漢詩創作のための詩語集』

石川さんが監修した『漢詩創作のための詩語集』

  • 石川さんが監修した『漢詩創作のための詩語集』
  • 石川忠久氏(学校法人二松学舎提供)

 NHKのラジオやテレビの漢詩番組の講師として親しまれ、7月に90歳で死去した中国古典学者、石川忠久さんが編集、監修した『漢詩創作のための詩語集』(大修館書店)が出版された。日本語から中国語の熟語を検索し、漢詩を作るための辞書だ。石川さんは、日本人が漢詩を詠む約1300年の伝統が絶えることを危ぶんでいた。詩語集には、現代人の詩情を表す言葉でも容易に見つけられるよう、工夫を凝らしている。(林啓太)

 二松学舎大の元学長で、「平成」に代わる新元号として最終候補の六案に残った「万和」を提案した石川さん。詩語集の編集は二〇一五年ごろから、弟子の中国古典学者ら七人の編集委員とともに始めた。

 五文字や七文字の句を並べて作る漢詩は古典の中国語の発音に基づき、漢字の順番などに細かい決まりがある。詩語集では「虫声」「千里春」など、中国や日本の漢詩で使われてきた二文字や三文字の熟語を約二万五千語、抽出。日本語から相当する意味の詩語を引き当てられるようにした。詩語を組み合わせれば、決まりに沿った句を作れる。

 日本では江戸期以来、複数の詩語集が編まれてきた。だが、今作の編集委員で法政大講師の後藤淳一さんによると収録語は「石川先生の詩語集が最大級」という。内容は伝統的な花鳥風月にとどまらない。「生老病死」「恋愛」「戦争・軍事」などの項目を立て、日常の生活や社会について詠むための熟語を探しやすくした。

 たとえば「詩語集の言葉だけを拾い、クリスマスについて詠むこともできる」と後藤さんは説明する。

 聖夜千家歓酔中 
 街衢岑寂雪玲瓏 
 橇車高挙動征鐸 
 遥見白髯紅襖翁

 聖夜千家歓酔の中 
 街衢岑寂として雪玲瓏たり 
 橇車高く挙りて征鐸を動かす 
 遥かに見る白髯紅襖の翁を

 鈴をシャンシャンと響かせながら、そりのサンタクロースが空を駆ける様子を表現してみせた。


 古代以来、短歌と並ぶ短詩型文学だった漢詩は、大正期から衰退した。石川さんは、その流れに抗するように、市民向けの講座で、漢詩の作り方を教えてきた。〇三年には全日本漢詩連盟を設立。会長に就き創作の愛好家を増やす取り組みを続けた。大修館書店で、詩語集の編集に携わった正木千恵・企画推進部長によると、石川さんは生前に「新しい詩語集で現代のことを詠みやすくし、間口を広げたい」と語っていた。

 約千八百人の連盟の会員は七十代以上の高齢者が大半。一方で、一八年告示の高校の国語の学習指導要領では、漢詩の読解力を鍛える方法に「漢詩を創作」することが盛り込まれた。わずかだが教師が生徒らに漢詩を作らせる試みもある。

 連盟の常務理事も務めている後藤さんは「今回の詩語集が、教師をさらに後押ししてくれるはず」と期待する。連盟の設立二十年目の節目に出した同書をてこに「石川先生の遺志を引き継ぎ、漢詩作りをさらに広めていきたい」と力を込めた。

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