米国テキサス州のグレッグ・アボット知事(共和党)は6月27日、米国環境保庁(EPA)がパーミアン盆地の大気汚染物質の排出規制を求める動きに対して、ジョー・バイデン大統領に見直しを求める書簡を出した。
パーミアン盆地は、テキサス州西部とニューメキシコ州南東部にまたがり、国内有数のシェールオイルとシェールガスの生産地として知られている。米国エネルギー情報局(EIA)によると、パーミアン盆地は、米国の石油供給の約25%に当たる日量520万バレルの石油を生産しており、日量約9,500万ガロン(約3億6,000万リットル)のガソリンに精製可能としている。
石油・ガス掘削時に発生する揮発性有機化合物(VOC)は、窒素酸化物や太陽光線に含まれる紫外線と反応してオゾンを発生させる。EPAは、大気清浄法(CAA)に基づいて同庁が設定する6つの主要汚染物質の環境大気質基準(NAAQS、注)を設定しており、EPAは同盆地のオゾン濃度がNAAQS基準に適合していないとして、州政府に対応を求めると発表していた。
アボット知事は書簡の中で、「バイデン大統領は、制御不能なガソリン価格に懸念を表明しているが、EPAはガソリン価格をさらに上昇させると脅している」と批判し、「EPAによるテキサス州の石油生産への干渉により、生産量を減らすか、生産コストを上げるか、あるいはその両方によって、ガソリン価格の高騰につながる可能性がある」「バイデン大統領には本措置を止める権限がある。そうしなければ、輸入する外国産エネルギーへの依存度をさらに高め、米国の消費者に経済的負担をさらに強いることによって、懸案の経済不況を加速させる要因になり得る」と強く牽制している。
書簡では、テキサス州の石油・ガス産業は、42万2,000人以上の州民を直接雇用しているほか、直接・間接合わせて、州内で合計137万人の雇用を支えていると同産業の重要性を示した上で、バイデン政権の本件に対する今後の対応により、今後のガソリン価格やエネルギー関連の雇用に大きな影響を及ぼす可能性がある、と警告している。併せて本書簡に関し、バイデン政権に対して、2022年7月29日までの回答を要求しており、バイデン政権側がEPAの計画を停止しない場合、テキサス州は石油の生産を保護するために必要な措置を講じるとしている。
バイデン政権は、2050年までの温室効果ガス(GHG)排出ネットゼロを目標に掲げる一方で、ロシアのウクライナ侵攻などによるエネルギー価格高騰を受け、石油・ガス大手各社に対して供給量を増やすための増産を要請していた(2022年6月17日記事参照)。これに対して各社は反発したものの、グランホルム・エネルギー長官は6月23日、各社幹部を招いての会合を開き(2022年6月29日記事参照)、増産への協力を求めていただけに、今回のEPAによる排出規制適用の動きはバイデン政権に冷や水を浴びせたかたちだ。また、EPAをめぐっては、6月30日に米国最高裁がEPAの規制権限を限定する判決を示しており(2022年7月1日記事参照)、今回のEPAによる要請が覆されるようなことになれば、連邦政府内の方針不一致が際立ち、バイデン大統領の政権運営能力にも疑問符がつきかねない。バイデン政権にとっては困難な対応を強いられることになりそうだ。
(注)EPAは、米国民の健康福祉保護を目的とする大気清浄法(Clean Air Act:CAA)に基づき、大気汚染物質などの排出を規制するために、公衆衛生および環境に有害な6つの主要汚染物質〔一酸化炭素(CO)、鉛(Pb)、二酸化窒素(NO2)、オゾン(O3)、粒子状物質(PM)、二酸化硫黄(SO2)〕に関する環境大気質基準(National Ambient Air Quality Standards:NAAQS)を設定している。
(沖本憲司、葛西泰介)
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