長編作品は5本。その5本の濃縮度はすごい。ただし、気負っていない。ここまで押し付けがましさがなく、「生きる」というテーマにとことんフォーカスできる監督はなかなかいないと思う。ひと組のゲイカップルとひとりの女性(後に彼らの代理母となる)の物語『ハッシュ!』(2001)は第54回「カンヌ国際映画祭」で喝采され、50カ国を超える国で作品が上映されるという快挙を成した。2010年代後半に入り同性愛者を主軸とした作品が急増してきたが、とある映画監督の「『ハッシュ!』ほど嘘がなく、リアルにゲイを描いた日本作品はない。それ以降の作品は、どこか不自然さを感じてしまう」という意見を聞くと、深く頷かないわけにはいかない。人間の不器用さ、可愛らしさ、愛くるしさ、そして誰もが内側に秘めている“強さ”をドキュメンタリータッチに描く、という意味では『ハッシュ!』はLGBTQ作品の枠には留まらない。
約10年間のとある夫婦の姿を、したたり落ちる雫のように描写する『ぐるりのこと。』(2008)は、国内での高い評価が集まる。深い深い闇へと潜っていく妻と、それを見守るように愛する夫。相手を思いやる姿や傷ついていく過程がまるでノンフィクションのような真実味を帯びている。現段階での最新作『恋人たち』(2015)もしかり。社会と人に傷ついたり窮屈さ覚える3人の男女が、それぞれの世界でもがきながらも呼吸をする姿に、やさしくやさしく鼓舞される。さらに、橋口監督のワークショップに参加した当時の無名の俳優たちがメインキャスト。そのためか、妙なリアリティが湧き、シニカルな笑いがさりげなく散りばめられ、喜怒哀楽すべての感情を網羅されていく。鑑賞後、スクリーンを前にして座席から立つことができない。エンドロールで咀嚼し始め、物語が終わった瞬間に涙が止まらなくなる。そんな稀な体験をさせてくれた。インタビューや書籍『まっすぐ』を読んでいくと、監督自身もさまざまな出来事で世の中に傷ついてきたことがわかる。でも、それでも立ち上がり映画を作る。その情熱が押し付けがましくなく投影されており、「それでも、生きる」というシンプルなメッセージが温かくゆったりと胸に届く。橋口監督が生み出す作品には、そんなメッセージがある。日本人だけではなく、世界中の人に届いて欲しい。
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