つーっと垂れた鼻血が始まりだった。
理学療法士の川畑翔平さん(32)は2016年12月上旬の夜、鼻から血が流れてきたことに気づいた。自室のソファから起き上がったときのことだ。
血は1時間ほど止まらなかった。
翌17年11月と12月下旬にも鼻血は出た。
勤務している愛知県内の病院で、「鼻の奥にポリープがある」と言われ、取り除く手術を受けた。
半年後の18年6月には、交際していた同い年の医療職の女性と結婚することになっていた。
新婚旅行はどこへ。いつから一緒に暮らすか――。年末年始は、結婚について、彼女とよく話していた。
年が明け、1月下旬には互いの両親と6人で顔合わせの食事をした。
その数日後の2月1日、病院で仕事をしていると、耳鼻咽喉(いんこう)科の医師から電話があった。
「こちらにこられますか?」
医師のもとに行くと、手術でとった病変部の細胞に異常がないかを調べた検査の結果が出たという。
「悪性の腫瘍(しゅよう)が疑われます」と言われた。
「え? 悪性腫瘍? 自分が?」
翌日は仕事を休み、結婚式の打ち合わせのため、彼女と2人で式場に行く予定だった。
「どうしよう。病気のこと、どう伝えよう」
CT撮影をする間、考えていた。
病院を出て、実家の母(62)に電話した。
伝えられたことを話すと、母は「あす、彼女に会ったときに伝えないとね」と言った。
15~39歳のがん患者は、AYA「Adolescent and Young Adult(思春期・若年成人)」世代と呼ばれます。治療や合併症だけでなく、就職や結婚など、医療現場で解決しない特有の悩みが多い年代です。川畑さんも、婚約していた女性との結婚をどうすべきか、悩みます。
式場に行く予定が……
翌日、アパートに来た彼女に伝えた。
「昨日、悪性の腫瘍の可能性が高いと言われた」
「治療をすることになりそう。どれくらいの時間がかかるかわからない。結婚式は延期したほうがいいと思う」
理学療法士の川畑さんには、耳鼻咽喉科の医師がカルテに書いた英単語が意味する病名が、がんの一種だとわかった。
インターネットで、治療法や予後などを調べた。診断が確定し、治療が始まれば、結婚準備どころではないと思った。
式場に「きょうは行けなくなりました」と電話をし、近くの喫茶店で話を続けた。
命は続くのか。治るのか。彼女を幸せにできるのか。わからないことだらけだった。
「今後、自分がどうなるのかわからないので、将来について考え直したほうがいいと思う」
そんなことを伝えた。
彼女は「考えさせてほしい」などと話した。
悪性腫瘍の疑いと言われて1週間が経った。2月上旬、両親と一緒にMRIやCTの画像も踏まえた診断結果を聞きに行った。
100万人あたり0.4人の珍しい「がん」
耳鼻咽喉科の医師は言った。
「右の鼻の奥に腫瘍があります。嗅神経芽細胞腫(きゅうしんけいがさいぼうしゅ)という診断です」
みけんの奥、嗅上皮(きゅうじょうひ)という部分にできる腫瘍だった。100万人あたり0.4人が発症するというめずらしい、がんの一種だ。
10年以上経って再発する可能性があり、長期間経過をみていく必要がある。
「うちでは治療が難しいので、紹介状を書きます」。医師は愛知県がんセンターへの紹介状を書いた。
4カ月後に予定していた結婚式をどうするか。決断を迫られていた。
その日の夜、川畑さんと両親、彼女とその両親の6人で喫茶店に集まり、伝えた。
話しながら、涙が止まらなかった。
「治療が必要になり、いまは結婚式の準備をするのが難しい」
「いったん式はなしにしたい…
からの記事と詳細 ( 結婚式4カ月前、診断はがん 「幸せにします」の言葉が出てこない - 朝日新聞デジタル )
https://ift.tt/vQfRIql
0 Comments:
Post a Comment