2022年8月19日から公開の映画『ハウ』。ワンと鳴けない保護犬・ハウと、家まで購入したのに一方的に婚約破棄されてしまった気弱な青年・民夫(演:田中圭)の心温まる絆を描いた物語だ。
TV Bros.WEBでは映画『ハウ』を3日連続で特集、1日目は犬童一心監督にインタビュー。(インタビューの最後には直筆サイン入りポラの抽選プレゼント企画も実施中。詳しくは【プレゼント情報】欄をご覧ください。)
好きな青春恋愛映画に挙げる人の多い『ジョゼと虎と魚たち』(03)や、同じ脚本家(渡辺あや)と組んだ『メゾン・ド・ヒコミ』(05)で、デリケートかつ挑戦的なテーマで繊細な心の機微を描き、若者たちの心をガッツリ掴んだ映画監督・犬童一心。その後、『のぼうの城』(12)や『引っ越し大名!』(19)のようなエンターテインメント時代劇、さらに再直近ではドキュメンタリー映画『名付けようのない踊り』(22)を撮るなど、ジャンルレスな活躍を続けている。
多彩なフィルモグラフィの中でも目を引くのが、『いぬのえいが「ポチは待っていた」』(05)、『グーグーだって猫である』(08)、『猫は抱くもの』(18)、ドラマ「グーグーだって猫である」シリーズ(14、16)などの“犬・猫もの”。そんな犬童が映画『ハウ』で、再び犬の物語と向き合った。ワンと鳴けない保護犬のハウが、ひょんなことから本州最北まで運ばれてしまい、自分を引き取ってくれた飼い主の元を目指し、青森から横浜まで798キロの日本縦断の旅に出る――。
要所要所にピリッと社会問題を差し込みながら、涙腺崩壊あり、温かなジンワリあり。みんなにハウが幸せを運んで来る! 動物映画の達人・犬童に、本作の舞台裏、動物から名演を引き出すコツ、ハウの相棒を演じた田中圭とのこと、さらに動物をめぐる現場の変化を聞いた。
取材・文/折田千鶴子
撮影/倉持アユミ
【映画『ハウ』3日連続特集】
1日目 犬童 一心監督
2日目 池田 エライザ
3日目 長澤 樹
【Profile】
犬童 一心(いぬどう・いっしん)
●1960年、東京都生まれ。映画監督、CMディレクター、脚本家。監督作品に「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」「黄色い涙」「眉山」「のぼうの城」など。脚本作品に「大阪物語」「黄泉がえり」など。
動物を撮ることは「本当に楽しいし、
純粋に“スゴイなぁ~”と思いながら撮れるんです」
――とにかくハウの演技が素晴らしかったです。絶妙な表情や仕草などを、どのように引き出されたのですか?
犬童一心(以下、犬童):これまでCM含め色んな犬を撮って来ましたが、日本で撮影した中では、ハウ役のベックはこれまでで最高の犬でした。元々とても頭がいいのですが、加えてまだ一歳半でテンションが少し高く、その生き生きした感じがとても良かった。事前に時間を掛け、出演者も一緒に訓練ができたのも大きかったと思います。
――最初から、ハウの犬種(白い大型犬)を想定していましたか?
犬童:いえ、脚本に犬種までは書かれていませんでした。僕は勝手に、大型犬は大型犬でも和犬を想像していたんです。そうしたらプロデューサーさんとドッグトレーナーの宮(忠臣)さんに勧められたのが、この犬で。今まで知らなかったビジュアルなので、とても新鮮でした。なるほど、この犬だったら今まで観客も映画で見たことないしすごく良いぞと思いました。
――大型犬のハウが海沿いを走っている画など、フォトジェニックというか、その姿がとても映像で映えますよね。
犬童:そう、長く白い毛が風になびいて、フワ~ッとハウが走って来る姿は、『ネバーエンディング・ストーリー』のファルコンみたいなイメージでもありました(笑)。一種、動物離れしているというか、ファンタジーの世界に行けるようなニュアンスがあり、撮影をしていても、それがとても良かったですね。
――先の話に戻りますが、走る姿以外にも、各所で見せる名演技をどのように引き出したのでしょう。撮影する際、特にどんなことを心がけましたか?
犬童:本作は、青森から横浜まで順撮りで行いました。まずロケハンし(撮影場所を決め)、どんな画を撮るかを決め、絵コンテを作り、撮影でその画を押さえていく。ロケハンの時点で、カメラ位置からトレーナーさんの位置、スタート位置まで細かく決めておきました。というのも、普通は同じ犬種を2匹くらい用意しておくものですが、本作はベック一頭だけ。何が起きるか分からないのに、誰も不安にならない大らかな現場で(笑)。
それだけにベックが疲れたり飽きたりする前に、とにかくパッと撮ってしまうことが重要でした。決して深追いしない。もちろん例外はありましたが、一発OKですぐ終わる、という心づもりで臨みました。猫はその撮り方は無理ですが、犬の場合は準備してパッと撮ることが可能なので。
――犬だからこそ出てくる演技、醸せるものを感じる場面も多々ありましたか?
犬童:僕、変な演技をしないので、動物を撮るのがすごく好きなんです(笑)! そこに居るだけで、説得されてしまう存在というか。それこそ、三國連太郎さんや山崎努さんレベル。だから本当に楽しいし、純粋に“スゴイなぁ~”と思いながら撮れるんです。但し、動物と人間の物語を描く際には、僕の場合、動物をどういう存在にするかの設定が重要です。例えば『グーグーだって猫である』では、リアル世界と自然世界、スピリチュアルの世界の境界線上に猫がいる、と決めました。
今回のハウの場合は、ハウを「聖なる犬」という存在にしたかったんです。人間にとってどういう存在かという設定があると、撮る時に視点が出来てスムーズになる。そこから見せ方を考えていく感じです。
主人公・民夫を演じる
田中圭のキャスティング理由
――ハウの飼い主・民夫役に、監督の強い意向で田中圭さんをキャスティングしたそうですが、どんな点がピッタリだと思われたのでしょう?
犬童:民夫さんって、ちょっと要領が悪く、不器用な人。演技をしてそういうキャラクターを作る以前に、田中さんにもどこかそういう一面を感じたというか、上手くいかなさ、みたいな感じが自然に見える印象がありました。また、動物ものって俳優との相性が最重要。今回、ハウと田中さんの関係の自然さが、映画にとてもよく出ていると思います。
田中さんは動物に対して160%くらい心を開ける人だったので、ベックも自然と上手く絡めたのだと思います。どんなに俳優がオープンにしようと心がけても、ダメな人は見破られるので、ある種の賭けでもありました。
――冒頭、民夫さんがいきなり婚約者にフラれてしまいますが、田中さんが演じると、もちろん可哀そうですが、同時にちょっと笑えてしまう。落ち込む姿がどこかコミカルというか、ある種の軽さや愛嬌が滲むのが、また良かったです。
犬童:僕の中だけの設定でもありますが(笑)、ドリュー・バリモア主演の大好きなラブコメディが何本もあって、そういうコメディ・タッチの始まりがいいな、と思ったんです。コメディ的なところから始まり、全然違うところに向かっていくのがいいな、と。だから冒頭は、ちょっとだけテンションが高い。僕、ドリューのインスタをフォローしていて、今朝もちゃんとチェックしてきましたよ(笑)!
――これまで数々の動物映画を撮られてきた中で、現場における動物の扱いにも変化があると感じますか? 例えば世界中で動物愛護の流れが大きく変化しています。
犬童:かなり昔は酷い扱いだったことも知っていますが、今は全然違います。ちゃんと動物のことも考え、撮影時間もその他も、無理がかからないように気をつけています。でもその方が、僕もやりやすい。昔と大きく違うのは、動物トレーナーさんがちゃんとダメだししてくれること。
「グーグー」もそうでしたが、本作のトレーナーの宮さんが、“もう無理だ”とキッパリ言ってくれるんです。どこでラインを引けばいいか計りかねずに無駄な深追いをすることなく、すぐ判断が出来てありがたいです。もっとも、たくさん動物ものを撮って来たので、僕自身の判断もどんどん早くなっていますが。
――本作には、社会的な問題や厳しい状況も描き込まれています。ハウの“ワンと鳴けない”設定もそうですし、ハウが道中で出会う主な女性3人も、みな傷を負った人たちです。監督はこの作品の客層を、どう想定して作られましたか。
犬童:自分の中では、どこまで下の年代に観てもらえるか、という気持ちがあります。というのも、自分が子どもの頃に観た映画を考えた時、例えば戦争映画にしても、結構シリアスな大人向けの内容でしたが、意外ときちんと受け止められていたと思うんです。だから本作も基本は大人向けではあっても、小学生が観ても大丈夫だろうと思うし、ぜひ観て欲しいと思っています。その上で、子供たちがどう思ったか、どう捉えたかを知りたいですね。
【作品情報】
(C)2022「ハウ」製作委員会
映画『ハウ』
2022年8月19日(金)全国ロードショー
原作:『ハウ』斉藤ひろし(朝日文庫)
出演:田中圭、池田エライザ、野間口徹、渡辺真起子、モトーラ世理奈、深川麻衣、長澤樹、田中要次、利重剛、伊勢志摩、市川実和子、田畑智子、石田ゆり子(ナレーション)、石橋蓮司、宮本信子
監督:犬童一心
脚本:斉藤ひろし 犬童一心
音楽:上野耕路
主題歌:GReeeeN「味方」(ユニバーサル ミュージック)
企画・プロデュース:小池賢太郎
プロデューサー:丸山文成 柳迫成彦
企画・製作プロダクション:ジョーカーフィルムズ
製作幹事:ハピネットファントム・スタジオ 東映
配給:東映
予告
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