Thursday, August 18, 2022

(175) 何に対してレンズを向けた? 永瀬正敏が撮った香港 - 朝日新聞デジタル

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回も香港で撮った一枚です。窓が開け放たれたフェリー乗り場で、永瀬さんがカメラに収めようとしたものは?

(175) 何に対してレンズを向けた? 永瀬正敏が撮った香港
©Masatoshi Nagase

香港のフェリー乗り場。

湾曲した建物に規則正しく配置された窓。
年季を感じるコンクリートの壁。
薄暗い蛍光灯が照らす天井。
踏みしめられた床。
この時、その窓は全て開け放たれて、かすかな風が吹き込んでいた。
この場所でさまざまな人々が交錯し、時を重ねて来たのだろう。
いったいどれくらいの人々がここを通過し、また戻ってきたのだろう。

しかし、この時はたった一人の男性しかその場にいなかった。
薄暗くまだゲートの閉まったこの場所には、
喧騒(けんそう)もおびただしい足音もたくさんの息遣いもなく、
ひっそりと静まり返っていた。

普段見せる顔と違う表情を目の当たりにすると、
僕はいつも物悲しさを感じてしまう。
忍び寄るタナトスを感じる。
例えば真夜中の校庭、誰もいないスタジアム、
最終便が飛び立った後のエアポート、クローズされた駅のホーム……。

そして、その表情をカメラに収めようと試みる。
記憶として本来の姿が染み付いた建物、
それがまるで深い眠りについているようなその場所……。
レンズを向ける。
静けさから想像する何かに向けて。

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