社会構造の変動に対応する、現実的なたばこ規制政策とは? Pyrosky-iStock
<たばこ規制枠組み条約が2003年に世界保健機関(WHO)で採択されて以来、たばこ消費者に対して厳しい北風を浴びせ続けてきたが、今、一体何が起きているのだろうか?>
世界保健機関(WHO)は、1970年にたばこ対策に関する初めての世界保健総会決議を実施したことを皮切りに、1988年に5月31日を「世界禁煙デー」と定めている。世界禁煙デーでは「喫煙しないこと」を求める趣旨となっており、世界中で24時間、あらゆる形態のタバコの摂取を控えることが推奨されている。そのため、WHO加盟国では、日本の厚生労働省のように禁煙週間などを設定し、たばこによる健康被害に関する普及啓発を通じて禁煙ムードを高める取り組みを行っている。
世界では約11億人の喫煙者が存在している
たばこ規制枠組み条約が2003年に世界保健機関(WHO)第56回総会において全会一致で採択されて以来、世界各国は北風と太陽の寓話のように、たばこ消費者に対して厳しい北風を浴びせ続けてきた。その結果として、一体何が起きているのだろうか。
喫煙は習慣化された行為であり、喫煙者にとっては日々の楽しみとなる娯楽である。喫煙者に簡単にたばこを嗜むことを止めさせることは、他者の自由を制約する行為とも言える。そして、何より「喫煙をやめろ」と啓発して喫煙が止まるなら、世界から喫煙者はとっくの昔にいなくなっている。しかし、世界の現実は道徳的な啓蒙主義者が望むほど簡単なものではない。
世界では約11億人の喫煙者が存在しており、グローバルサウスの一部の地域では喫煙者は急速に増加傾向にある。特にアフリカなでは経済成長に伴って喫煙率が増加しているとされており、少なくともWHOが主張している「禁煙」を進める環境とは程遠いものとなっている。それらの国々では禁煙は単なるお題目となっており、より現実的な対処が求められていることは確かだ。
一方、先進国では喫煙率は低下傾向にある。ただし、詳細に見てみると、日本のように若年の女性喫煙者はあまり変化していない国もある。女性の社会進出に伴う役割・認識の変化により、彼女たちのストレスを緩和するための手ごろな手段として喫煙が求められるようになったことも一因と考えられる。
紙巻きたばこから加熱式たばこなどへのシフトを
禁煙を闇雲に叫ぶだけの政策では、グローバルサウスでも先進国のいずれでも問題に十分に対処できるとは言えない。経済発展や男女間の役割・認識変化などの社会構造の変動は単純に「禁煙」を推進する政策よりも社会的な影響が大きい。そのため、現実の社会構造の変動に対応した政策が必要となっている。
そのため、喫煙による健康被害等を低減していく「ハームリダクション」の考え方を採用すべきだ。つまり、従来までの研究で、健康被害が発生することが明確に立証されている紙巻きたばこから加熱式たばこなどの新しい製品に、喫煙者のたばこ消費をシフトさせることが重要である。
実際、加熱式たばこは、たばこメーカーや英米の公的機関の一部の調査で紙巻きたばこよりも健康被害が少ないというデータも出てきている。具体的には、イギリスの公衆衛生局の報告書(2018年)によると、加熱式タバコはベストの選択肢ではないものの、可燃性タバコよりも少ない毒素を持つ可能性があると指摘されている。英国の下院科学技術委員会も加熱式たばこ製品が可燃性たばこ製品よりも90%害が少ないとも言及している。また、アメリカ癌協会の研究者は、2019年の調査で加熱式タバコの普及は喫煙率を下げることに繋がる結果を確認している。 研究者たちは、「新しいタバコ製品の導入は、タバコ製品の市場を大きく変えている」と強調している。
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