Wednesday, May 17, 2023

G7広島サミット 主なテーマは?「首脳宣言」はどうなる?|NHK - nhk.or.jp

G7広島サミット 主なテーマは?「首脳宣言」はどうなる?

G7サミットでは、国際社会に協調姿勢をアピールするため、例年、各国の合意のもと、議論した成果を「首脳宣言」としてとりまとめています。広島サミットでは、議長国の日本が、先に長野県軽井沢町で開かれた外相会合の共同声明などを踏まえて原案を作成し、首脳どうしの討議の内容を反映させながら各国と文言調整にあたります。

ロシアによるウクライナ侵攻への対応や中国を含めたインド太平洋地域の情勢、それに物価高騰が及ぼす世界経済への影響などをめぐり、どのような内容が盛り込まれるかが焦点となります。

一方、サミットでは、議長国の意向で特定のテーマを取り上げた複数の成果文書が発表されるのが慣例です。去年、ドイツで開かれたサミットでは「ウクライナ支援」や「食料安全保障」に関する文書がまとめられました。被爆地・広島で開かれる今回は、岸田総理大臣が核廃絶に向けた強いメッセージを打ち出したいとしていて「首脳宣言」とは別に核軍縮・不拡散に関する文書を発表することが検討されています。

広島サミットでの主なテーマは次の通りです。

ウクライナ情勢

ウクライナ東部での激戦

G7=主要7か国は去年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、結束して、ロシアに制裁を科すとともに、ウクライナへの支援を行ってきました。ウクライナ情勢は広島サミットの主要な議題と位置づけられ、初日の19日にゼレンスキー大統領もオンラインで参加し意見が交わされます。そして、議論の成果は、首脳宣言と、それとは別に発表する声明にも盛り込む方向で調整が進められています。

ロシア プーチン大統領

成果文書にはG7としてロシアによる侵攻は明らかな国際法違反だと強く非難するとともに、核兵器の使用や威嚇は決して認めず、軍の即時かつ無条件での撤退を求めることが盛り込まれる見通しです。その上で、対ロ制裁とウクライナ支援を継続し、第三国に対しロシアへの武器の供給などを止めることや制裁を逃れる動きへの対応も明記する方向です。

さらに、深刻な打撃を受けているウクライナの社会経済インフラなどの復興を支援していく姿勢も強調するものとみられます。サミットを前に岸田総理大臣はNHKのインタビューで「力による一方的な現状変更を許してはならない。核兵器による威嚇、ましてや使用は許してはならない。こうしたことを訴え、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化していくG7の強い思いを発信するサミットにしたい」と述べていて、国際社会に対してどのようなメッセージを発信するのか注目されます。

中国への対応 覇権主義に繰り返し懸念表明

広島サミットでは中国への対応も主要な議題のひとつとなります。経済成長を背景に軍事力を増大させ、覇権主義的な動きを強める中国に対し、G7各国はこれまで繰り返し懸念を表明し、国際社会の一員として責任ある行動をとるよう求めてきました。

G7外相会議(2023年4月)

広島サミットに先立って先月開かれた外相会合の共同声明では、中国について、東シナ海や南シナ海の状況を深刻に懸念し、力や威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対した上で、台湾海峡の平和と安定の重要性を改めて強調しています。また、新疆ウイグル自治区や香港での人権侵害に懸念を表明したほか、大手製薬会社の日本人男性らが拘束されていることなどを念頭に領事関係に関するウィーン条約に従って行動するよう求めました。さらに、透明性を欠く形で核戦力を拡大させているとして、リスクを減らすためにも、アメリカとの対話に速やかに関与すべきだとしています。

一方、G7各国は中国とは経済的な結びつきも踏まえ、決定的な対立は避けたいとしていて、サミットでは対話を通じて建設的かつ安定的な関係を構築し、気候変動対策など国際社会が直面する課題に共に取り組む必要があるという認識を共有する見通しです。日本としてはG7の議長国として、またアジア唯一のメンバーとして、中国をめぐる議論を主導し、首脳宣言に成果を盛り込みたい考えです。

北朝鮮への対応

広島サミットでは核・ミサイル開発を進める北朝鮮への対応をめぐっても意見が交わされる見通しです。北朝鮮は去年1年間で弾道ミサイルなどを過去最多となる37回発射し、ことしに入ってからもこれまでに12回発射を行っています。

こうした中、先月開かれたG7の外相会合では、前例のない頻度で繰り返されるミサイル発射を強く非難するとともに、国連安全保障理事会の決議に沿った北朝鮮の完全な非核化に向けて関与していくことで一致しました。また、北朝鮮に対して日本やアメリカなどからの対話の申し出に応じるよう求め、国際社会が連携してサイバー攻撃などに対応することも確認しました。

これを踏まえ、日本はG7の議長国として、またアジア唯一のメンバーとして広島サミットで北朝鮮への対応をめぐる議論を主導し、結束して対応する強いメッセージを打ち出したい考えです。

一方、サミットにあわせて、岸田総理大臣とアメリカのバイデン大統領、韓国のユン・ソンニョル大統領による日米韓3か国の首脳会談も予定されています。日韓関係の改善に前向きなユン大統領の就任以降、日米韓3か国は、安全保障分野での協力強化に向けた議論を進めています。具体的には北朝鮮のミサイル発射に関するデータを即時に共有することやミサイル防衛訓練などの定例化が検討されていて、こうした議論に進展があるかも注目されます。

核軍縮・不拡散 国際社会に強いメッセージを

G7広島サミットの開催にあたって岸田総理大臣は、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐって、核の威嚇を行っていることも踏まえ、核兵器による惨禍を2度と起こさないため、国際社会に強いメッセージを発信する場にしたいという認識を示してきました。さらにサミットの開催にあたり、被爆の実相を直接伝えたいとして、G7首脳による初めての原爆資料館訪問や被爆者との面会実現に向けて、最終調整を進めています。

被爆地・広島が地元の岸田総理大臣は、核廃絶を目指すことをライフワークに掲げ、具体的な考えや政策などをまとめた著書『核兵器のない世界へ』も出版しています。外務大臣時代の2016年には、オバマ大統領がアメリカの現職大統領として初めて広島を訪問した際には、その実現に尽力し、安倍総理大臣とともに原爆資料館などで被害の実態を説明しました。おととし10月の総理大臣就任後も、核廃絶や国際政治の専門家との定期的な勉強会を続けるなどしています。

また、去年8月9日に長崎を訪れた際には平和祈念式典に出席したあと、現職の総理大臣としては初めて、長崎市の原爆資料館を訪れました。同じ8月には、アメリカで開かれたNPT=核拡散防止条約の再検討会議で、日本の総理大臣として初めて演説し、核保有国に戦力の透明化を促すことなどを明記した、核廃絶への日本の行動計画「ヒロシマ・アクション・プラン」を発表しました。

経済安全保障 安定供給へ向けて

G7広島サミットでは、電気自動車のバッテリーの材料となる重要鉱物のほか、半導体などの安定供給に向け、各国が連携してサプライチェーン=供給網をどう強化していくかといった「経済安全保障」も重要なテーマです。

アメリカと中国の覇権争いやロシアによるウクライナ侵攻などを背景に、去年、ドイツで開かれたG7サミットの首脳宣言に初めて「経済安全保障」の文言が盛り込まれ、今回のサミットでも重要テーマに位置づけられています。

今回のサミットでは、電気自動車のバッテリーの材料などとなる重要鉱物のほか、自動車やスマートフォンなどの生産に欠かせない半導体などのサプライチェーンの強じん化に向けてどのように体制づくりを進めるかや、重要鉱物の産出国でもある「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国との協力をいかに深めるかなどが議論される見通しです。

また中国などを念頭に禁輸などの措置で他国の政策や意思決定に影響を与えようとする、いわゆる「経済的威圧」や自国の企業に比べて外国企業を不利な競争条件に置く「不公正な貿易措置」についてもG7で一致して対応にあたることを確認したいとしています。

議長国の日本としては、重要鉱物や半導体などのサプライチェーンは、民主主義や自由貿易体制といった価値観を共有する国々との協調なくして成り立たないとしていて、経済安全保障の強化を今回のサミットの成果にしたい考えです。

気候変動 各国の立場に隔たりも

G7広島サミットでは、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える目標の達成に向けて議論が行われる見通しですが、石炭火力発電の削減や電気自動車の導入目標などをめぐって各国の立場には隔たりがあります。

このうち石炭火力については、去年のG7サミットの首脳宣言で二酸化炭素の排出削減対策が取られていない石炭火力発電を段階的に廃止することが明記されましたが、具体的な廃止時期は盛り込まれませんでした。先月、札幌市で開かれた「G7気候・エネルギー・環境相会合」では、ヨーロッパなどが廃止時期を明記するよう求めたのに対して、日本はアジアの途上国などで石炭火力が利用されている現状を踏まえ反対の立場でした。日本としては、二酸化炭素を排出しないアンモニアを石炭などと混ぜて燃やす技術を実用化できれば、石炭火力の脱炭素化を進められるとしています。ただ、アンモニアの活用については、G7の一部の国から石炭火力の延命策だとして批判する声もあり、今回のサミットで各国の理解がどこまで得られるかが注目されます。

また、G7各国の間では、自動車の脱炭素化に向けた主張にも隔たりがあります。欧米の国々は電気自動車の導入目標を定めるべきと主張しているのに対して、ハイブリッド車が多い日本は慎重な考えです。このため日本としては、「G7気候・エネルギー・環境相会合」での合意に沿って、エンジン車やハイブリッド車も含む各国の保有台数をベースに二酸化炭素の排出削減目標を設定する方向で、合意を目指すことにしています。

このほか、太陽光や洋上風力など再生可能エネルギーの導入拡大に向けても次世代の技術開発や投資を加速させることを首脳宣言に明記する方向で調整が進められています。

エネルギー問題 安定供給と脱炭素をどう両立?

G7広島サミットでは、ロシアによるウクライナ侵攻が長期化するなか、エネルギーの安定供給と脱炭素社会の実現をどう両立させるかも焦点となっています。

ロシアの液化天然ガス施設

ウクライナ侵攻のあとG7各国などはロシアへの経済制裁に踏み切りましたが、ロシアが原油や天然ガスの供給を絞り込んだことなどから、エネルギー価格は上昇しました。なかでもLNG=液化天然ガスの獲得をめぐる競争は世界的に激しくなり、日本は火力発電の主な燃料としていることから、電気料金が高騰するなど、私たちの暮らしにも影響が及んでいます。

こうしたなか今回のサミットでは、各国が掲げる脱炭素の目標を実現しながら、どのように資源開発を進め、エネルギーを安定的に供給していくかなどが議論される見通しです。一方、原子力発電については、日本のほかアメリカやフランスなどは、脱炭素やエネルギー確保の観点から活用していく立場ですが、ドイツやイタリアは“脱原発”を実現させ、再生可能エネルギーのさらなる拡大を目指しています。

議長国の日本としては、原発を推進する国々との間で、次世代型の原子炉の研究開発や人材の育成などで協力を確認したい考えですが、立場の違いを乗り越えどのようなメッセージを打ち出せるかが注目されます。さらに日本は、東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水を基準を下回る濃度に薄めて海に放出する計画についても、工事の進捗や放出の方法などを説明し、各国の理解を得たい考えです。

食料安全保障 供給不安・価格高騰への対応

ロシアによるウクライナ侵攻で世界は食料の供給不安や価格が高騰する事態に直面しています。このため今回のサミットでは、農業生産の拡大や途上国への支援など、食料安全保障もテーマとなる見通しです。

ウクライナでの小麦の収穫

FAO=国連食糧農業機関は世界の食料価格を指数として発表していますが、2022年の平均は143.7ポイントと、前の年を18ポイント上回り、3年連続で上昇しました。コロナ禍からの経済活動の正常化が進んだほか、ウクライナ侵攻の影響などで小麦やとうもろこしといった穀物、それにパーム油などの価格が高騰したためで、途上国などでは必要な穀物や肥料を調達できなくなるなど、食料危機への懸念も高まっています。

こうしたなか開かれる今回のサミットでは、最新技術を取り入れ、持続可能な形で農業生産を拡大するための対応策やグローバル・サウスと呼ばれる途上国や新興国に対する農業支援などについて議論が行われる見通しです。日本は、食料危機に直面している国も多いグローバル・サウスの国々と食料安全保障の分野で連携強化を図りたい考えで、どのような成果が打ち出せるか注目されます。

国際保健 新型コロナの大流行で大きな課題に

「国際保健」の分野は、新型コロナの世界的大流行を背景に、大きな課題として認識されるようになり、今回のサミットでもテーマの1つとして議論されます。

岸田総理大臣は、先月開かれた国際会議で基調講演し、今回のサミットでは▼医薬品の迅速な研究開発や公平なアクセスの確保を可能にする仕組みづくりに加え▼将来の感染症危機に備えた国際的な体制強化のあり方などについて各国との議論を深めたいという考えを示しました。

そして、今月中旬、長崎市で開かれたG7保健相会合の共同声明には新型コロナ対応では、途上国にワクチンが届かないという課題に直面したとして、将来の危機に備え、ワクチンや治療薬、検査キットなどが公平で速やかに広く行き渡るよう取り組みを進めていくことが盛り込まれました。

また、持続可能な資金調達が極めて重要だとして、去年、世界銀行に設立された「パンデミック基金」を有効に運用できるよう、G7だけでなく、すべての国に対し、財政的、政治的支援を強化するとの約束を求めるとしています。

さらに、すべての人に、質の高い保健・医療サービスを提供する「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」を2030年までに実現するため、新しい行動計画を策定し、取り組んでいくとしています。政府は、これをもとに議論を進めることにしていて、岸田総理大臣としては、地球規模課題を取り上げることで新興国や途上国との連携強化にもつなげたい考えです。

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デジタルへの対応 生成AIのあり方も議論

ChatGPTなど生成AIの開発や利用が急拡大するなか、G7広島サミットでは、活用や規制のあり方などが議論される見通しです。生成AIの活用によって、文書や画像の作成、それに翻訳などの業務の省力化が期待される一方、誤った内容を回答する可能性や、著作権を侵害するおそれなどが指摘されています。

このため各国政府は対応に乗り出していて、アメリカ政府は、マイクロソフトやグーグルの親会社のアルファベット、それにChatGPTを開発したオープンAIなどのCEOに対して、AIの潜在的な危険から社会を守るよう要請しました。また、ヨーロッパではイタリア政府が、膨大な個人データの収集などが法律に違反している疑いがあるとして一時的に使用を禁止したほか、フランスでも複数の苦情がデータ保護当局に申し立てられ、当局が調査を行っていると伝えられています。議長国の日本は、企業の研究開発を重視し、法的な規制には慎重な姿勢で、各国の立場を尊重しながら「信頼できるAI」の普及に向けた議論をリードしたい考えです。

このほか、「DFFT」と呼ばれる信頼性のあるデータを国境を越えて流通させるための枠組みづくりがどこまで進むかも注目されています。ただこのテーマについて各国の立場は異なり、アメリカが経済成長やイノベーションを促すためデータの自由なやり取りを重視しているのに対して、EUは巨大IT企業によって域内の市場が支配されることを警戒しているほか、プライバシーの保護を重視する姿勢を打ち出しています。日本としては、それぞれの立場を踏まえ、国際的なデータのやり取りでの障壁を取り除き、新しい制度づくりに道筋をつけ、サミットの成果にしたい考えです。

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