Wednesday, June 1, 2022

バイデン氏が失敗した対ロシア「準軍事同盟化」計画 | | 佐藤優 - 毎日新聞

 ロシアのウクライナ侵攻が、国際社会のゲームのルールを変えつつある。国連の安全保障理事会は、ロシアと中国が拒否権を行使することができるので、米国の世界戦略を遂行する上で障害となることが、これまでに幾度もあった。

 ロシアのウクライナ侵攻で安保理が機能不全になっている現状を踏まえ、バイデン米大統領は国連を迂回(うかい)して、米国の世界戦略を遂行する新たな仕組みを作ろうとしている。

米国が重視する「クアッド」

 欧州方面においては、北大西洋条約機構(NATO)の機能を強化することだ。ドイツのショルツ政権が重火器を含む武器をウクライナに供与する、スウェーデン、フィンランドがNATOへの加盟を申請するなど、事態は米国の思う方向に進んでいる。

 もっともスウェーデン、フィンランドがNATOに加盟しても、当面、両国に米軍が展開されることは想定されないので、ロシアは、安全保障上の脅威が劇的に高まったとは見ていない。むしろウクライナに対して武器供給のみならず、兵員の訓練を精力的に行っているポーランドに対する警戒感をロシアは強めている。

 インド・太平洋地域において米国が重視しているのは、日本、米国、オーストラリア、インド4カ国による協力枠組み「クアッド」だ。

 クアッドについて、日本政府は、<日米豪印は、基本的価値を共有し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の強化にコミット。「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、ワクチン、インフラ、気候変動、重要・新興技術などの幅広い分野で実践的な協力を進めてきており、4か国の間では、地域に前向きな形で貢献していくことの重要性で一致している。>(外務省HP)と説明している。

 この規定によると、クアッドは自由や民主主義という基本的価値観を共有した4カ国の協力体制ということになる。ならばロシアによるウクライナ侵攻に対して、クアッドとして明確な立場表明をしなくてはならない。

 基本的価値観を共有していることを基盤にしてクアッドを中国とロシアに対抗する準軍事同盟化することをバイデン大統領は志向していた。

ロシアを巡る共同声明の表現は

 5月24日、東京で日米豪印(クアッド)首脳会合が行われた。ここで発表された共同声明では、ロシアが名指しで非難されていないのみならず、ロシアがウクライナを「侵攻」もしくは「侵略」したという認識すら示されていない。「ウクライナにおける紛争」という表現になっている。具体的文言を見てみよう。

 <我々は、ウクライナにおける紛争及び進行中の悲劇的な人道的危機に対するそれぞれの対応について議論し、そのインド太平洋への影響を評価した。4か国の首脳は、地域における平和と安定を維持するという我々の強い決意を改めて表明した。我々は、国際秩序の中心は国連憲章を含む国際法及び全ての国家の主権と領土一体性の尊重であることを明確に強調した。我々はまた、全ての国が、国際法に従って紛争の平和的解決を追求しなければならないことを強調した>(外務省HP)

 「紛争」「悲劇的な人道的危機」という文言ならばウクライナ、ロシアのどちらに責任があるかという価値判断が加わらない。内容としても、ロシアの主張と軋轢(あつれき)を引き起こさないようにする配慮がなされている。

 ロシアの理屈では、クリミアは住民投票に基づいて合法的にロシア領となり、ウクライナのドネツク州とルガンスク州には独立国家である「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」が成立している。ロシアの武力行使は、両「人民共和国」の主権と領土の一体性を確保するために、両国の要請に基づいて、国連憲章第51条に規定された集団的自衛権を行使しているということになる。

 われわれには受け入れられない乱暴な論理だが、ロシアはそれを押し通すつもりだ。ロシアは、国際法を完全に無視するのではなく、無理筋の解釈で濫用(らんよう)しているのだ。いずれにせよクアッドの共同声明は、ロシアの論理と矛盾しない構成になっている。

岸田首相の認識は

 この点についての岸田文雄首相の認識を見てみよう。首脳会談後の記者会見の…

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