近代日本画の大家・鏑木清方(かぶらききよかた)をはじめ鰭崎英朋(ひれざきえいほう)、小村雪岱(こむらせったい)といった同時代の画家たちが挿絵や装丁を手掛けた作家泉鏡花の作品世界。その魅力は現代の画家たちの創作意欲も刺激するようだ。現代四人のアーティストによる鏡花本を、原画とともに紹介する展覧会「鏡花繚乱(りょうらん)−絵師たちの挑戦」が、金沢市の泉鏡花記念館で開かれている。二十六日まで。(松岡等)
現代の鏡花本を代表する一人が中川学さん。CGを駆使し、現代的な表現で鏡花世界を絵本にしてみせてきた。これまで「龍潭譚(りゅうたんだん)」「化鳥(けちょう)」「朱日記」「榲桲(まるめろ)に目鼻のつく話」と四作品を手掛けた。ブックデザイナー泉屋宏樹さんによる造本が国際的なブックデザイン賞も受賞している。
一方、耽美(たんび)的な表現で知られる山本タカトさんは、従来の鏡花本の伝統に連なるのかもしれない。二〇二一年に発表した「薬草取」で描かれた祈りをささげる少女のイメージは、コロナ禍に揺れる中で象徴的な作品にもなった。
モノクロで金沢の街と異界とが行き来する「絵本の春」の世界を表現したのが金井田英津子さん。下地が白のアクリル板を黒く塗りつぶした後、針や竹ぐしなどでひっかくようにして描く独特の「スクラッチ」という手法による、大胆な構図と精緻な表現が強烈な印象を残す。
対照的なのが、カラフルなオイルパステルを画材にするイラストレーター武藤良子さん。二〇年に本紙で「龍潭譚」の挿絵に挑戦し、斬新な感覚で新しい鏡花の世界を生み出した。作品の一部は描き直して、こだわりの書籍制作で知られる金沢市の一人版元「亀鳴屋」から出版された。
これら現代の鏡花本の多くで企画から関わる記念館の穴倉玉日(たまき)学芸員は「絵画的な想像力をかき立て、画家たちの創造意欲を刺激するのが鏡花作品。多様なメディア、表現の仕方によるそれぞれの『自分の鏡花』がある。今後も多様な表現が生まれてほしい」と話している。
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