物を買うたびにポイントカードの有無を尋ねられる。ポイントを貯(た)めると、それが消費に使える。これは時に現代の人生そのものの比喩に思えてくる。幼児期から巻き込まれる受験戦争、少しでもいい待遇をめざす就活、職場での競争。私たちはいつから、ポイントを稼ぐことが人生の目的になったのだろうか。
この長編小説はそういう現代社会を極端に戯画化したディストピア(逆ユートピアの暗黒社会)作品だ。諦念を抱きながらも、その社会になんとか適応して、生きているように見える主人公の姿が複雑な味わいを残す。
舞台は未来の日本。主人公は福岡の出身で、今は東京で妻子と暮らしている。彼は三つの会社に勤めている(複数の会社に勤める例がよくあるらしい)。そのうちの一つではレンタルドローンの保守点検を仕事にしている。
ある日、彼は福岡への出張を命じられる。墜落したドローンを回収するためだ。そのドローンには害獣駆除のために銃が装備してあって、現地の人間には任せられないという事情があった。
リニアで福岡へ向かう主人公を追いながら、この社会の姿が浮き彫りにされていく。国の人口は約3600万人に減っている。安楽死する人が少なくない。一人一人は「タンマツ」を持っていて、その行動とポイントが冷酷に管理されている。多くの子供を産むとポイントが貯まる。
「企業」と呼ばれる組織が政府と一体になって、社会を支配している。人々は子供のころから「適性」を判断され、「重度不適性者」と判断された人は国に生体贈与(ギフトライフ)をすると、家族にポイントが与えられる。
物語はドローンに装備していた銃をめぐって、起伏の多い展開を見せる。作者が容易にこの社会を裁かないのが特徴的だ。「便利さで選ぶなら自由よりも管理してもらう方がよくないですか?」。主人公が冒頭近くで語る思いが、現代人の無意識にも通じるようで、少し怖くなった。(新潮社・1980円)
評・重里徹也(聖徳大特任教授)
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