言葉が貧困化する先には何があるのか、言葉を育てるために必要なこととは(写真:【Tig.】Tokyo image groups/PIXTA)
「神」「ヤバい」――。日々無数に投稿されるSNSだが、実は同じような言葉であふれかえっている。言葉が貧困化する先には何があるのか。本稿では出版社・新聞社勤務を経て、読書や情報整理などを主なテーマとして執筆や講演活動などを行う奥野宣之氏が、「読むこと」を通して言葉を育てる重要性について説く(本稿は、『ちゃんと「読む」ための本』より抜粋・編集を加えたものです)。
「1984年」で描かれた世界
「難しい話なんてわからなくても大丈夫。スマホで検索すればいい」と主張する人がいます。私はこの意見に反対です。使える言葉が少なくなれば「考えられること」も少なくなっていくから。よって、知識や語彙は増え続けるよう、学びながら生きていかねばならない。でなければ、そのうち検索ワードすら思い浮かばなくなってしまうでしょう。
もう少しだけ言葉をめぐる現代社会の問題について考えてみましょう。
『1984年』という有名な小説があります。1948年にイギリスの作家ジョージ・オーウェルが、(年号の下2桁を入れ替えた)未来社会を描いたものです。
1984年のオセアニア国では、独裁者のビッグ・ブラザーが「テレスクリーン」という機械で家の中まで見張っている。そして寝言ひとつ漏らすだけで思想警察に逮捕される。よく「現代のIT監視社会を先取りしていた」と評価される作品です。
作中のオセアニアでは、ニュースピーク(新語法)と呼ばれる「言語」が使われています。特定の言葉の使用を禁じたりするのは古今東西の専制国家がやってきたことですが、ビッグ・ブラザーは、検閲どころか言語体系を丸ごと作り替えようとしているのです。
目的は国民の肉体だけでなく精神まで支配すること。「ニュースピークは思考の範囲を拡大するのではなく縮小するために考案された」(『1984年【新訳版】』)というわけです。
私は、今の社会を考えるうえで注目すべきなのは「テレスクリーン」ではなく、こちらの「ニュースピーク」だと思っています。
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