
約1メートル四方の絵図を拝む。人生を表す山があり、仏がいる浄土と、死者が苦しむ地獄が描かれている。
人はいずれ老いて死に、体は滅び、魂は別世界に生まれ変わり、生と死を繰り返す輪廻(りんね)の宗教観を表している。
兵庫県淡路市池ノ内、高野山真言宗地蔵寺の大木裕文住職(62)は、こうした絵図をもとに仏の世界を語る「絵解き」を続けている。
「生前の行いに応じて、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人道、天道のいずれかの世界で生まれ変わる」
「地獄に落ちた人は、体を炎で焼かれたり、血の池でおぼれたりして壮絶な罰を味わう」
おどろおどろしい地獄の世界を、落語のように軽快なテンポで。人として徳を積む大切さと、地獄に落ちた先祖を救うために毎日供養する必要性を説く。
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地蔵寺では毎年8月、子どもの無病息災を願う伝統行事「地蔵盆」に力を入れていた。約30年前、檀家(だんか)が酒を持って集まるだけになっていたのを、大木さんが子どもが主役の行事として復活させたものだった。
仏教の教えを伝えるため、言葉だけでなく、視覚的に分かりやすい絵解きを利用した。江戸時代の女性宗教者が布教に使っていたとされる絵図を拡大コピーし、落語家の口調をまねて、聞き取りやすい語りのテンポを研究した。専門用語を分かりやすい言葉に置き換え、子どもに伝わるよう意識した。
地獄の話をすると、子どもたちは顔をこわばらせ、自分が地獄に落ちるんじゃないかと心配して尋ねてくる子もいたという。「自分の意志で悪いことをやめられることが大切。仏教の教えが心の教育の一助になれば」と話す。
淡路市内の別の真言宗寺院が子ども向けに開いていた泊まり込みの修行体験にも出向き、絵解きをした。ある参加者は大人になり、子どもを連れて地蔵寺を訪れてくれた。
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新型コロナウイルス感染拡大で、地蔵盆は2020年から3夏続けて実施できていない。感染が収まれば再開する考えだが、少子化で参加者は年々減っていただけに、「子どもの成長を地域で見守れるよう、小学校や保育園を通じて呼びかけるなどの働きかけをしていきたい」という。(吉田みなみ)
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