Saturday, October 8, 2022

【編集者のおすすめ】『フィールダー』現代の問題「全部盛り」の力作 - 産経ニュース

『フィールダー』

『フィールダー』古谷田奈月著(集英社・2090円)

初めて小説の内容紹介を途中棄権し、本の帯文に「※以下のあらすじは、本書の凄(すさ)まじさの1割も表現できておりません」と断り書きを入れました。編集者の職務を投げ出したわけでは決してなく、世界の複雑さや矛盾と真剣に向き合い、何かを「簡潔に、わかりやすくまとめる」ことに全力で抵抗するこの新たな名著に応えるには、その方法しか思いつかなかったのです。

古谷田(こやた)奈月さんの最新長編『フィールダー』の主人公・橘泰介は、総合出版社で社会派オピニオン小冊子を編集する編集者です。ある日彼は、信頼をおく著者で児童福祉専門家の黒岩文子が、ある女児を触ったらしいという不穏な報(しら)せを耳にします。姿をくらました黒岩の捜索に奔走する橘を唯一癒やすのが、4人1組で敵モンスターを倒すスマホゲーム『リンドグランド』。その仮想空間には、橘がオンライン上でしか接触したことのない、あるかけがえのない存在がいるのですが…。

小児性愛、ソシャゲ中毒、ルッキズム、希死念慮、ネット炎上など、1作品/1テーマに切り分けても語りきることは難しいはずなのに、古谷田さんはあえて「全部盛り」という勇敢な暴挙に出られました。その意図は、本書を読めば腑(ふ)に落ちるはずです。

『フィールダー』の特筆すべき点は、何より「小説を読む喜び」を余すことなく体験させてくれるところにあります。小説の言葉でしかなしえない表現が、確かにここにある。読後に押し寄せる衝撃の波動、ぜひご堪能ください。

(集英社文芸書編集部 岸優希)

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