Monday, January 23, 2023

第211回国会における林外務大臣の外交演説 - Ministry of Foreign Affairs of Japan

 第211回国会に当たり、外交政策の所信を申し述べます。

(歴史の転換期における日本外交の指針)
 今、世界は、歴史の転換期にあります。ポスト冷戦時代の平和と繁栄を支えた法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序は、パワーバランスの歴史的変化と地政学的競争の激化に伴い、重大な挑戦にさらされています。

 ロシアによるウクライナ侵略は、引き続き国際秩序の根幹を揺るがしています。ウクライナの一部地域の違法な「併合」や無辜の民間人の殺害等の一連のロシアによる行為は、許されざる国際法違反です。また、日本は唯一の戦争被爆国として、ロシアによる核の威嚇は断じて受け入れることはできません。ましてや、その使用はあってはなりません。

 欧州とインド太平洋地域の安全保障を切り離して論じることはもはやできません。日本は、いかなる地域においても、力による一方的な現状変更の試みを許さないという強い決意を持って、G7を始めとする国際社会と引き続き緊密に連携しながら、対露制裁とウクライナ支援を強力に推し進めます。

 北朝鮮による核・ミサイル活動も活発化しています。昨年は、前例のない頻度と態様での弾道ミサイル等の発射がありました。核実験に向けた動きもあります。これらの一連の行為は、日本の安全保障への脅威のみならず、国際社会に対する明白かつ深刻な挑戦であり、断じて許されません。今後とも、日米、日米韓で安保理の場を含め緊密に連携して対応していきます。

 中国は、政治、経済、軍事等様々な面で、国際社会への影響力を増し、それに伴い様々な難しい諸問題を提起しています。そのような中国に対し、日本は、国際社会のルールに則り大国としての責任を果たすよう働きかけていきます。

 このような挑戦に加え、国際社会が価値観の相違、利害の衝突を乗り越えて協力すべき諸課題も一層急迫の度を増しています。

 こうした情勢の中で、引き続き、普遍的価値を守り抜く覚悟、日本の平和と安全を守り抜く覚悟、そして、地球規模の課題に向き合い国際社会を主導する覚悟、これら三つの覚悟を持って、対応力の高い、「低重心の姿勢」で外交を展開していきます。

(法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化)
 まず、G7議長国及び安保理非常任理事国として、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するための取組を更に推進します。

 今回のウクライナ危機に際し、緊密に連携し、最も効果的に対応してきたのがG7です。本年、日本がG7議長国として開催する広島サミットでは、力による一方的な現状変更の試みや核兵器による威嚇、その使用を断固として拒否し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜くというG7の意志を、力強く示していきます。同時に、エネルギー・食料安全保障を含む世界経済、ウクライナやインド太平洋を含む地域情勢、核軍縮・不拡散、経済安全保障、また、気候変動、保健、開発などといった地球規模の課題などへの対応を主導していきます。私自身、昨年は11回のG7外相会合に参加しました。本年は、私が議長を務めるG7長野県軽井沢外相会合などを通じ、G7の緊密な連携を推進していきます。G20議長国であるインドとの連携も重視してまいります。

 日米豪印での連携も格段に強化してきました。力による一方的な現状変更をいかなる地域においても許さないとの決意を示しながら、「自由で開かれたインド太平洋」、FOIPの実現に向けた幅広い分野の実践的協力を進めていきます。

 法の支配に基づくFOIPの重要性は一層高まっています。日本は、外交的取組を強化する新たなFOIPプランの策定を進めるとともに、日米豪印に加え、ASEANや欧州、大洋州、中南米などのパートナーとの間で、FOIPの実現に向けた連携を強化します。特に、友好協力50周年を迎えるASEANとは、12月を目途に東京で開催する特別首脳会議の機会に、日ASEAN関係の将来のビジョンを打ち出す考えです。

 国際秩序の動揺がもたらす危機は、世界のいずれの国・地域にとっても「対岸の火事」ではありません。ロシアによる侵略は、食料・エネルギー価格の高騰などにより、中東・アフリカ等にも深刻な影響を与えています。偽情報による分断の試みという課題にも目を向けねばなりません。私自身、昨年8月のTICAD8、年末の東京での「中央アジア+日本」対話・第9回外相会合、さらに先日の中南米訪問も通じ、幅広い国との対話を強化してきました。日本として、あらゆる地域の国々との間で築き上げてきたきめ細やかな地域外交を礎に、地域・国際社会の安定化のため、法の支配に基づく秩序の重要性を共有し、共に維持・強化していくための努力を継続します。

 ロシアによるウクライナ侵略は、多国間主義をも脅かしています。この現状を踏まえ、私自身、先日ニューヨークで主催した「法の支配」に関する安保理閣僚級公開討論において、国際社会が複合的な危機に直面する中、法の支配の下に結束するよう各国に呼びかけました。

 国連と安保理が試練を迎える中、各国との緊密な対話を通じて安保理が本来の責任を果たせるよう積極的に貢献していきます。また、国連憲章の理念と原則に立ち戻り、国連の信頼を回復するため、国連自身の機能強化が必要です。安保理改革に向けては、議論のための議論ではなく、行動が必要です。日本、ドイツ、インド、ブラジルのG4に加え、米英仏、アフリカなど関係国とよく意思疎通しつつ、早期の進展のため引き続き努力します。また、PKOその他の国連の平和構築の取組にも引き続き貢献していきます。

 ルールに基づく自由で公正な経済秩序は、日本はもちろん、世界の成長と繁栄の基盤です。引き続き、自由貿易の旗振り役としてのリーダーシップを発揮し、CPTPPのハイスタンダードの維持やRCEP協定の完全な履行の確保に取り組むとともに、WTO改革を主導します。デジタル分野でも、信頼性のある自由なデータ流通の実現に向け、WTO電子商取引交渉など、国際的なルール作りで中心的な役割を果たします。インド太平洋地域の経済秩序の維持・強化のための重要な枠組みであるIPEFにおいても、IPEF参加国と緊密に連携しながら新たな枠組み作りに貢献します。

 日本企業の海外展開支援にも積極的に取り組むとともに、日本産食品に対する輸入規制措置の全廃に向け、政府一丸となって働きかけていきます。また、2025年大阪・関西万博の成功に向け引き続き力強く取り組みます。

(安全保障上の課題への対応)
 日本は、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面しています。

 日本の安全保障に関わる総合的な国力の要素の第一は外交力です。外交実施体制の抜本的強化に取り組みます。新たな国家安全保障戦略の下、防衛力の抜本的強化に裏打ちされた力強い外交を展開し、危機を未然に防ぎ、平和で安定した国際環境を能動的に創出していきます。同時に、日本を守り抜く意思と能力を表す防衛力もまた他の手段では代替できません。日本自身の防衛力の抜本的強化の議論に、引き続き貢献していきます。

 また、経済安全保障を推進するため、同志国との一層の連携強化や新たな課題に対応する国際的な規範の形成に積極的に取り組んでいきます。

 同時に、日本の外交・安全保障政策の基軸である日米同盟も更に深化させていきます。就任後初めてワシントンDCを訪れた岸田総理はつい先日、じっくりと時間をかけてバイデン大統領との間で日米首脳会談を行い、日米共同声明を発出しました。私自身も総理に同行したほか、浜田大臣と共にブリンケン国務長官、オースティン国防長官との間で「2+2」を行いました。

 米国とは、累次の会談機会を通じ、いかなる地域でも力による一方的な現状変更は決して受け入れられないことを確認してきました。日米にとって戦略的に最も重要なインド太平洋地域のポテンシャルを、安定と繁栄に繋げていかねばなりません。

 そのため、日米同盟の役割及び任務の進化も踏まえ、同盟の抑止力・対処力の強化に日米で共に取り組んでいきます。その際、同盟調整メカニズムを通じた二国間調整の更なる強化、平時における同盟の取組、日本の反撃能力の効果的な運用に向けた日米間の協力の深化、宇宙・サイバー・情報保全分野での協力、同盟の技術的優位性の確保のための技術協力や、新興技術への共同投資などを、重点的に進めていきます。また、米国による拡大抑止が信頼でき、強靱なものであり続けることを確保するための努力も続けていきます。さらに、日本における米軍の態勢の一層の最適化に向けた取組を進めるとともに、普天間飛行場の1日も早い辺野古移設を始め、地元の負担軽減と在日米軍の安定的駐留に全力を尽くします。

 また、昨年立ち上げた経済版「2+2」を通じて、外交・安全保障と経済を一体として議論し、経済安全保障、ルールに基づく経済秩序の維持・強化といった日米共通の課題について、一層連携を強化していきます。

 欧州諸国及びEU、NATOとも、この分野での連携が強化されています。昨年は、NATO首脳会合に日本の総理大臣として初めて岸田総理が、外相会合に日本の外務大臣として初めて私が出席したほか、12月には日英伊の3か国間による次期戦闘機の共同開発への合意を発表し、本年1月には日英円滑化協定に署名するなど、欧州諸国との防衛分野での協力も進展しています。引き続き、欧州諸国及びEU、NATOによるインド太平洋への関与に向けて具体的協力を進めていきます。

 核軍縮・不拡散については、引き続き同盟国である米国との信頼関係を基礎としつつ、岸田総理が昨年8月に提唱した「ヒロシマ・アクション・プラン」に沿って、「核兵器のない世界」に向けた現実的かつ実践的な取組を進めていきます。国際賢人会議等の「核兵器のない世界」に向けた国際社会の機運を高める取組を進めていくとともに、G7広島サミットでこうした観点から力強いメッセージを発信できるよう、G7メンバー等と議論を深めていきます。

(近隣外交)
 日本及び地域の平和と安全を維持すべく、近隣国等との間の難しい問題に正面から対応しつつ、安定的な関係を築いていきます。

 日本と中国の間には、様々な可能性と共に、尖閣諸島情勢を含む東シナ海、南シナ海における力による一方的な現状変更の試みや、中国による台湾周辺での一連の軍事活動、特に、排他的経済水域を含む日本近海への弾道ミサイルの着弾を含め、数多くの課題や懸案が存在しています。また、台湾海峡の平和と安定も重要です。さらに、新疆ウイグル自治区の人権状況や香港情勢についても深刻に懸念しています。同時に日中両国は、地域と世界の平和と繁栄に対して大きな責任を有しています。中国とは、主張すべきは主張し、責任ある行動を求めつつ、諸懸案も含め対話をしっかりと重ね、共通の諸課題については協力するという「建設的かつ安定的な日中関係」の構築を日中双方の努力で加速していくことが重要です。

 韓国は、国際社会における様々な課題への対応に協力していくべき重要な隣国です。北朝鮮への対応等を念頭に、安全保障面を含め、日韓・日米韓の戦略的連携を強化していくことの重要性は、論を俟ちません。国交正常化以来築いてきた友好協力関係の基盤に基づき、日韓関係を健全な関係に戻し、更に発展させていく必要があり、昨年11月の日韓首脳会談の結果も踏まえ、私と朴振長官との間を含め、韓国政府と緊密に意思疎通していきます。また、竹島は、歴史的事実に照らしても、かつ、国際法上も日本固有の領土です。この基本的な立場に基づき、毅然と対応していきます。

 ロシアとの関係については、日本の国益を守る形で対応していきます。日露関係は、ロシアによるウクライナ侵略によって厳しい状況であり、平和条約交渉の展望を語れる状況にはありませんが、日本として、領土問題を解決し、平和条約を締結するとの方針を堅持します。また、北方墓参を始めとした北方四島交流等事業の再開は、今後の日露関係の中でも最優先事項の一つです。

 北朝鮮との間では、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化の実現を目指します。最重要課題である拉致問題は時間的制約のある人道問題です。拉致問題の解決には一刻の猶予もありません。全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、全力で果断に取り組みます。

(人類共通の課題への対応)
 我々の擁護する国際秩序が世界の人々の信頼に足るものであるために、人類共通の課題への対応を主導していかねばなりません。国際社会の多数を占める開発途上国は、複雑化する国際情勢と地球規模課題の深刻化の中で、安定的な発展を見通すことが困難な状況に陥っています。こうした中で、新たな時代における人間の安全保障の理念に立脚しつつ、最も重要な外交ツールの一つであるODAをより一層拡充し、戦略的・効果的な活用を通じて、SDGsの達成やFOIPの理念の実現に向けた取組を加速します。そのために、開発協力大綱を本年前半を目処に改定します。

 ロシアのウクライナ侵略による食料価格の高騰に対しては、国際機関や同志国との連携に加え、TICADプロセス等を通じて、脆弱性を抱える国々の支援に取り組んでいきます。

 気候変動は人類共通の課題であり、国際社会全体が連携して取り組むべき重要な課題です。ウクライナ情勢を受けて、エネルギー安全保障の強化との両立が重要な課題となっていますが、昨年11月開催されたCOP27の成果の上に、引き続き気候変動問題に取り組むとともに、1.5度目標に沿った排出削減努力を含め、全締約国の更なる行動を呼びかけていきます。

 国際保健は、人々の健康のみならず、経済、社会、安全保障にも直結する重要な課題です。新型コロナの経験も踏まえつつ、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成に向け、将来の健康危機に対する予防・備え・対応の強化に資する国際的な枠組みの強化や、新型コロナで後退した国際保健課題への対応を主導していきます。

 プラスチック汚染、生物多様性の保全、深刻化する人道危機、難民・避難民、テロ・暴力的過激主義、男女共同参画などSDGs達成に向けた諸課題にも積極的に取り組みます。

 基本的な価値である人権の擁護のため、深刻な人権侵害に対してしっかり声を上げるとともに、努力をしている国に対しては、「対話と協力」によりその取組を促す、日本らしい人権外交を進めていきます。

 以上の諸課題について、着実に具体的な成果を挙げるためには、機動的な外交実施体制を確保するとともに、外交活動の最前線に立つ在外職員等の勤務環境や生活基盤を強化することが不可欠であり、為替・物価高の影響を受ける各種手当等の改善に取り組んでいきます。さらに、人的体制、ODAの一層の拡充を含む財政基盤、DX推進を含めた外交実施体制の抜本的強化と戦略的な対外発信に取り組むとともに、日本人国際機関職員の増加、親日派・知日派育成、日系社会との連携強化に努めます。また、「佐渡島の金山」の世界遺産登録に向け、外務省としてもしっかりと役割を果たしていきます。水際措置緩和に伴い国際的な交流が再活性化していることを踏まえ、在外邦人の安全確保にも、引き続き万全を期します。

 議員各位、そして国民の皆様の御理解と御協力を心よりお願い申し上げます。

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