医療が発達した現在、「湯治」という言葉を聞いたことはあっても、実践経験のある人は少ないかもしれない。そんな中、常陸太田市・里美地区の横川温泉に、古くからの湯治文化を再定義した「モダン湯治」を提唱する温泉宿がある。二百七十年の歴史を誇る老舗、山田屋旅館だ。
水戸市からは車で一時間強。道中に看板らしきものはほとんどなく、知る人ぞ知る秘湯という雰囲気に期待が高まる。
現館主の小林康昭さん(43)は、江戸時代中期の一七五三(宝暦三)年に開業した初代・小林長五郎から数えて二十代目。創業期から先代まで、主な客層は近隣の農家だった。かつての農村では、農閑期に温泉宿で骨休めする習慣があり、山田屋も湯治宿として栄えてきた。
そうした文化は廃れたものの、小林さんは「日頃の疲れを癒やしたり、体だけでなく精神を休ませる場所として、目指すところは昔と変わらない」と話す。モダン湯治とは、現代人の生活に合った温泉との付き合い方を表現したものなのだ。
横川「温泉」といっても、厳密な分類は温泉成分を含むが温度の低い「鉱泉」で、「横川鉱泉」と表記されることも。山田屋の他に二つの宿が、同じ源泉を引いて営業している。
横川の名称にはいわれがある。平安時代後期の前九年の役で源義家が東北地方の豪族・安倍氏を滅ぼした帰りに立ち寄り、岩肌に湧く清水で傷を癒やしたところ、四日で全治した−との故事から「四日の湯」と呼ばれるようになり、次第に「よっか」が「よこかわ」に転じたとか。地元では、今でも「四日の湯」と呼ぶ人がいるという。
一昨年来の新型コロナ禍で、近場の県内旅行が奨励されている。だが、小林さんはそれ以前から県内客をターゲットにした宿づくりを進めてきた。歴代館主が地元の農民たちをもてなしてきたのと同じように。
自慢の温泉につかってみた。源泉はぬるい鉱泉だが、ちょうど良い湯加減に加温してある。無色透明なのにぬるぬるした肌触りで、疲れが取れるだけでなく肌にも良さそうだ。酸性・アルカリ性の度合いを示すpH値は一〇・一と県内トップクラスの強アルカリ性で、滑らかでよく温まるのが特長という。
こんなにも素晴らしい湯を楽しめるのに、本県の温泉が近隣県と比べてぱっとしないイメージなのはなぜなのだろう。温泉ソムリエの資格も持つ小林さんに尋ねると、「泉質では引けを取らないと思いますが、火山が近くにないため鉱泉が多く、湯量も少ないからでしょう」と説明してくれた。
「でも、それでいいんです」と小林さん。「派手さはなくても、ひっそりとした場所にこんないい温泉があるという隠れ家的な雰囲気。それが茨城の温泉の魅力ですから」(長崎高大)
<ご案内>元湯 山田屋旅館
常陸太田市折橋町1409
午前10時半〜午後3時(不定休)
宿泊1万5000円程度から。日帰り可
電話 0294(82)2236
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からの記事と詳細 ( <いばらき温泉探訪>(3)横川温泉(常陸太田市) 現代の湯治文化を提唱 - 東京新聞 )
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