ブライダル業界に10年以上在籍し、プランナーとして、サービススタッフとして、1000件以上の結婚式を見てきました。
すべての結婚式に新郎新婦様とそのご両親、ゲストの皆様の想いがあって、どの結婚式も思い出深い結婚式ではありましたが、その中で、今でも忘れられない結婚式を紹介します。
※編集部註:本稿は筆者の体験をもとに記していますが、登場する個人が特定されないよう一部に変更を加えています。
■ Y夫妻との出会い
今から10年以上前に、私がホテルでプランナーとして働いていた時の出来事です。
当時20代前半でスタッフの中で最年少だった私は、ウエディングインフォメーションで、お客様を迎える仕事をしていました。ご予約のあるお客様をお迎えしたり、打ち合わせのお客様へのお茶出しなどが主な仕事です。
プランナーデビューはしていたものの、プランナーとしても、社会人としてもまだ2、3年程度の経験しかない未熟者。そんな私の前に現れたのが、今回の主役であるYご夫妻でした。
ある日、いつものようにインフォメーションで仕事をしていると、1組のカップルに声をかけられました。
「結婚式がしたいのですが」
中肉中背で、20代後半の愛くるしい感じのカップルです。彼の腕に手を回し、ずっと寄りかかっている彼女。「幸せそうだな」それがY夫妻への第一印象でした。予約のない突然の来店で、ほかのスタッフが出払っていたこともあり、運よく私が新規接客をさせて頂くことに。
Y夫妻の希望内容は、「招待客は20名程、教会で結婚式がしたいから素敵なチャペルがある会場を探していて、ドレスはどうしても持ち込みたい」とのことでした。
終始幸せそうなお二人でしたが、ひとつ、気になったことといえば、彼女の歩き方がぎこちなかったこと。初対面で二人がずっと腕を組んでいたのは、彼女の足を気遣ってのことでした。ドレスを持ち込みたいのは、足のことと関係あるのかな?と思いましたが、なんとなく聞きづらくて、足のことには触れませんでした。
とっても仲良しでハッピーオーラ全開な二人。説明が一通り終わる頃には、Y夫妻の魅力の虜に。二人の結婚式の担当がしたいと強く願いました。念願かなって、担当をさせて頂くことが決まった時は、とても嬉しかったのを覚えています。
■ 順調に進む打ち合わせ
結婚式当日までは、打ち合わせの日だけでなく、お買い物のついでなど、何度もご来館頂き、すっかりY夫妻と打ち解けた私。結婚式もお二人らしい、温かみのあるウエディングプランに仕上がりました。
イレギュラーなことといえば、ウエディングドレスが持ち込みなことと、バージンロードをお父様ではなく、知人にお願いしていること。
通常バージンロードはお父様と歩きます。お父様がいない場合は、新婦の兄弟や、叔父様などの親族と歩くか、新郎新婦で入場するのが一般的。血のつながっていない人とバージンロードを歩くのは珍しいことでした。
■ ウエディングドレスの代わりに持ち込まれたものは……
そしていよいよ結婚式の一週間前。お持ち込みのウエディングドレスを預かる日になりました。美容師に預かってもらったウエディングドレスを見た時、私は目を疑いました。それはウエディングドレスではなく、真っ黒なひざ丈のワンピースでした。
結婚式業界において、ウエディングドレスの代わりに黒いワンピースを着ることは聞いたことがありません。上司、担当美容師、カメラマンから「これはだめじゃない?」「ちゃんとアドバイスしたの?」など、たくさんの助言がありました。
直属の上司からのアドバイスもあり、Y夫妻に思い切ってアドバイスしました。「結婚式では、花嫁が黒色を着るのはあまり良くないとされています」「本当にこのワンピースで大丈夫ですか?」そう言っても、お二人はにこやかにこのワンピースで大丈夫と答えます。
私もそれ以上は何も言えず、上司とも相談した結果、ご両親たちにも了解を得ているようだから良いんじゃない?ということで、黒のワンピースで結婚式を行うことになりました。上司とも相談した結果、「ご両親たちにも了解を得ているようだし、お二人の希望だから」と、結局、黒のワンピースで結婚式を行うことになりました。
■ 結婚式当日
Y夫妻の結婚式は、雲ひとつない、秋晴れでした。まるで神様が、Y夫妻の門出を祝ってくれているような気さえしていました。
いよいよ挙式。チャペルのドアが開き、黒いワンピースの新婦と、その隣を歩く男性の入場です。二人が扉口に現れた瞬間、他の結婚式とは明らかに違う雰囲気に包まれました。列席のほとんど全ての人が泣いています。中には涙が止まらず、嗚咽している人も。挙式を進行する牧師さんも驚いたほどでした。
Y夫妻は、どうして黒色のワンピースを選んだのか?私がその理由を聞いたのは、挙式が始まる直前でした。お母様が、美容スタッフに打ち明けてくれたそうです。
美容スタッフがお母様に聞いた話によると、黒のワンピースは、花嫁の幼馴染のものでした。幼馴染の女性が、20歳の成人式に着るはずだった黒色のワンピース。彼女は20歳の誕生日を迎えることなく、先天性の病気でお亡くなりになったそうです。そして、新婦の隣でバージンロードを歩く男性は亡くなった幼馴染のお父様でした。
なぜあの時「このワンピースで大丈夫ですか?」なんて安易に聞いてしまったのか、Yご夫妻はどんな気持ちで私のアドバイスを聞いていたのか、そもそも事前に打ち明けてもらえなかった自分のふがいなさに、後悔がどっと押し寄せてきました。
もちろん、ゲストの皆様はいきさつをご存知でした。そのため、ワンピース姿の花嫁と、隣を歩く幼馴染のお父様を見て涙が止まらなかったのです。
結婚式は滞りなく進み、無事、お開きとなりました。Yご夫妻のお人柄どおりの、温かく楽しい結婚式になりました。
■ 今でもYご夫妻の幸せを願っています
後日聞いた話によると、幼馴染の女性と花嫁様は、小さい頃に病院で出会って仲良くなったそう。
花嫁様の足のこともあり、もしかして花嫁様にもご病気があるのかな?内心とても心配していましたが、当時の私には聞くことができず。結局何も聞けずじまいでした。
結婚式が終わったあとも、新婚旅行のお土産を頂いたり、出来上がった結婚式の写真を3人で一緒に見たり。いつも突然の来訪でしたが、会う度にこちらが元気をもらえる、本当に素敵なYご夫妻でした。今も元気で、幸せに暮らしていることを願っています。
【一柳ひとみ:筆者プロフィール】
都心にあるシティホテルで、サービススタッフ、宴会担当や婚礼担当(ウエディングプランナー)として、10年以上勤務。現在は3児の子をもつ母。保育士として働きつつ、臨時で結婚式の仕事やライター業も行っている。
からの記事と詳細 ( プランナーも涙する本当にあったドラマのような結婚式 - おたくま経済新聞 )
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