少子高齢化の時代にもかかわらず、ランドセルの販売数を近年伸ばしている老舗メーカーがある。1965年に前身が創業した土屋鞄製造所(足立区)。一時は倒産寸前まで追い込まれたが、2代目社長の土屋成範さん(52)は、「現代の名工」にも選ばれた創業者で父の国男さん(85)の技術力に着目。丁寧な作りや品質の良さをアピールすることで、起死回生を図った。(山口登史)
◆製造数ほぼゼロに
魚介の卸やレストランを運営するカナダの会社に勤務していた成範さんに1994年、母から電話があった。「お父さんを手伝ってあげてほしい」。創業直後は第2次ベビーブーム(71~74年)の影響で好調だったものの、出生数は約20年で半減。安価な海外製品にも押され、94年の製造数はほぼゼロになっていたという。
ゆがみのない縫製や擦れて傷みやすいランドセルの角は皮革を放射状に重ねる「菊寄せ」にするなど細部まで丁寧に作り込まれた自社のランドセルに対し、取引先から聞かれたのは「父の腕がとても良い」という評判ばかり。成範さんは「これからは商品の物語性が重要だ。生き残るにはおやじの存在を売り出すしかない」と考えた。
◆共感してもらうこと
人気カタログ通販の販売戦略を参考にし、分業化が進み量産品となっていたランドセル業界で、一貫して手作業にこだわっている点などを公民館での説明会や工場見学会で地道に伝えた。「商品を売るだけでなく、私たちを知り、共感してもらうことが大切」
商品やサービスでも独自性を打ち出した。かつては光沢のある商品が主流だったが、「つや消し」を看板商品として販売。使用済みランドセルを観賞用のミニランドセルなどにリメークするといったサービスも展開した。
◆父「やってて良かった」
90年代後半にはネット販売にも参入し、ランドセルの年間販売数は95年の200個から2000年には8000個、20年には7万2200個まで伸びた。
「家業を継いだ当初は『(ランドセル作りは)やるものではない』と語っていた父も、経営が好転するに従い、『やってて良かった』と前向きになり、うれしかった」と、成範さんは笑顔を見せる。近年は会社をグループ化し、宝飾品店やガラス工芸品店なども立ち上げた。「高品質で美しい商品を提供し続け、これからも生き残っていきたい」
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