Vol.2 A.M.11:45 披露宴、新郎新婦入場
新婦友人・高山千紗子(チー子・主婦・35歳)
ピアスの穴は、開いていない。
小中高時代を過ごした東洋英和が身だしなみに厳しい校風だったせいもあってか、35歳になる今まで、ずるずると開けられないまま来てしまった。
でも今では、開いていなくても良かったと思う。
母がジュエリーブランドの二代目経営者ということもあり、受け継がれたアクセサリーを多く持っているけれど、その多くはピアスではなくイヤリングなのだ。
今日も身につけているのは、母から受け継いだパールのイヤリング。これぐらい大ぶりなイヤリングになると、少し付けているだけで耳が痛くなってくる。
つい先ほど挙式が終わり、しばらくお手洗いに隠れて強くつまんだ耳たぶ。
すっかり赤くなった耳たぶに付け直したイヤリングは、すでにじんじんと鈍い痛みで、その重量を訴えかけていた。
でも…今日は。今日だけは。
その痛みが、重みが、有り難い。
― ぎゅっとつまんでいて。指先の代わりに。
心の中で、母のイヤリングに語りかけていた、その時。
フラワーガールの衣装で隣に座っている娘のひなこが、ワクワクと弾む声で話しかけてきた。
「あっ、ママ!お嫁さんが、マサミちゃんが入ってくるよ!」
私は、人差し指を口元に添えて「シー」とジェスチャーで伝えると、照明の落とされた会場の中、一点だけ煌々とスポットライトで照らされた扉を見つめる。
流れるような指使いのバイオリン。華々しく響き渡るピアノ。
そして──入場してくる、真っ白なドレスに身を包んだ親友のマサミと、新郎の向一郎くん。
割れんばかりの拍手の中で私は、誰にも聞こえないように呟いた。
「向一郎くんの隣にいるのが、マサミじゃなくて…私だったら良かったのに…」
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