Friday, December 23, 2022

「ボーナスに不満な社員」に対し、経営者がやるべきたった1つのこと - ITmedia ビジネスオンライン

 今年も多くの会社で年末ボーナスが支給されましたが、会社員の中には支給額に対して不満を持つ人も多いようです。ヒューネルの調査では、70%の人が今の支給額に満足していないという結果になっています。こうした社員の不満を抑える方法について考えます。

photo 画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

支給額が決まる経路を明確にする

 ボーナスに対する不満の多くは、どうしてその金額になるのかが不透明であることに起因します。不満を抱かれないためには、支給額が決まる過程をガラス張りにすることです。

 ボーナスの支給額は会社の業績と個人の成績で決まります。ボーナス制度を新たに構築するとき、筆者が賃金コンサルタントとしておすすめしているのは、次のような式で支給額を決めるものです。

ボーナス=等級別基礎額×成績係数×調整係数×出勤率

 等級別基礎額は次のようなもので、等級間の、基本給の格差にリンクさせます。

表1:等級別基礎額

等級  定額
7等級 46万2640円
6等級 40万2290円
5等級 34万9810円
4等級 30万4180円
3等級 26万4500円
2等級 23万円
1等級 20万円

 成績係数は次の通りで、成績が良いほど大きな値にします。

表2:成績係数

成績 係数
S 1.30
A 1.15
B 1.00
C 0.85
D 0.70

 調整係数は会社の業績によって決めます。全員同じ値ですが、ボーナス支給のつど変わります。

 出勤率はボーナス算定対象期間中の出勤率です。算定対象期間は一般的に、夏季ボーナスが10〜3月で、年末ボーナスが4〜9月です。年次有給休暇と慶弔休暇以外は全て不就労扱いにします。 

 表3はこの制度での支給例です。

表3:ボーナスの支給例

等級 成績 定額 成績係数 調整係数 出勤率 ボーナス
阿部 7 C 462,640 0.85 3.23 100.00% 1,270,180
伊藤 6 B 402,290 1.00 3.23 85.00% 1,104,490
上田 5 S 349,810 1.30 3.23 100.00% 1,468,860
遠藤 4 A 304,180 1.15 3.23 50.00% 564,940
小川 3 D 264,500 0.70 3.23 100.00% 598,040
合計 1,783,420 5,006,510

企業業績からボーナス原資を決める仕組み

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 会社の業績は調整係数に反映されます。会社の業績からボーナス原資(対象者全員でこれだけ支給するという額)を決め、これをもとに調整係数を決めます。ボーナス原資は、具体的には次の式で決めます。

ボーナス原資=売上総利益×予定労働分配率−既払い人件費

 売上総利益は売上高から売上原価を引いた数字であり、人件費や諸経費などの「販売費及び一般管理費」を控除する前の利益です。

 予定労働分配率とは「売上総利益の○○%を人件費として社員に分配する」というものです。人件費とは給与とボーナスの合計額です。予定労働分配率は過去5年程度の実績を参考にして、ボーナス算定対象期間に入る前に決めます。決めたら社内に公表します。ちなみに財務省の「法人企業統計」によると、法人企業全体(金融保険業を除く)の労働分配率は2021年で42%です。

 既払い人件費とはボーナス算定期間中にすでに支払った月給(基本給、諸手当、超過勤務手当)であり、ボーナス以外の人件費のことです。

 要するに「売上総利益の○○%を標準的な人件費とする」と事前に決めておき、そこから実際に支払った基本給や諸手当、超過勤務手当などの月給を引いて、余った分をボーナスとします。

 基本給と諸手当はほぼ固定費なので、ボーナス原資はおおむね売上総利益と超過勤務手当に依存します。つまり社員が効率的に仕事を進めるほどボーナス原資が大きくなります。表4はこの数値例です。

表4:ボーナス原資の決定例

売上総利益 10億円 ボーナス算定対象期間中に実際に得られた「売上高−売上原価」
予定労働分配率 42% 売上総利益に対する「給与・ボーナス」の割合。事前に決定。
予定人件費 4億2000万円 売上総利益×予定労働分配率
既払い人件費 3億2000万円 ボーナス算定対象期間中に実際に支払った月給
ボーナス原資 1億円 予定人件費−既払い人件費

 このようにボーナス原資の決め方をガラス張りにして、そこから導き出された額をもとにボーナス算定式の調整係数を決めます。表3の数値例で調整係数が3.23であるのは、ボーナス原資である合計支給額が500万円近傍になるようにした結果です。

評価では公正さを印象付けることも必要

 ボーナスを決めるための評価はもちろん公正に行うべきです。しかしそれだけでは不十分です。公正であると印象付けることも必要です。

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 評価には次のような手続きがあると、評価される側からみた公正感が高まることが明らかになっています。

  • (1)評価の前に被評価者から情報や意見などを求めること
  • (2)面談中に評価者と被評価者の間で双方向のコミュニケーションがあること
  • (3)下された評価結果に対して被評価者が異議申し立てできること
  • (4)評価者が被評価者の職務内容について十分な知識を持っていること
  • (5)評価者が一貫した評価基準を適用すること

 (1)評価の前に被評価者から情報や意見などを求めること、実際には自分の意見が評価に影響していなくても、影響していると思わせる効果があります。あるいは評価に影響していなくても、「私の上司の評価は正確で公正だ」と思わせる効果もあります(柳澤さおり『人的資源マネジメント』2010年、白桃書房)。

 (3)の、異議申し立て制度はぜひ導入するべきです。スポーツの世界では近年、「チャレンジ」や「リクエスト」など、判定に対する異議申し立て制度が普及してきました。これによって恩恵を受けているのは選手だけでなく審判も同様です。誤審を素直に誤審と認めることができるようになり、誤審で他人に損害を与えたり、恨まれたりするリスクから解放されました。

 人事評価にもチャレンジを導入すれば、上司は部下から恨まれるリスクが軽減します。

報酬の一部をボーナスで支給することは合理的か

 ところで報酬を全て月給で支払わず、一部をボーナスで支払うことに経済的な合理性はあるのでしょうか。

 ボーナスは日本企業独特の慣行です。諸外国では、労働の対価は全額を月給あるいは週給で支払うのが原則です。ボーナスに、企業にとって利用する価値があるのなら、世界中の企業が利用しているはずです。そうなっていないのはなぜでしょうか。

 1995年に日本の製造業を対象に行われた研究では、「競合他社がボーナスを据え置いたときに自社のボーナスを10%引き上げると、翌年の生産性を1%押し上げる」という結果が出ています(大湾秀男・須田敏子『なぜ退職金やボーナス制度はあるのか』『日本労働研究雑誌』2009年4月号所収)。

 財務省の「法人企業統計調査」によると、日本の製造業の、生産性に対するボーナスの割合は11.0%です。生産性の11.0%であるボーナスを10%引き上げるということは、生産性の1.1%を追加的に流出させることです。生産性の1.1%を追加的に流出させることによって生産性を1%押し上げるのでは、差し引きで利益が0.1%減ってしまいます。

 あるいは、2010年に行われた研究では、特定の一企業のデータではあるものの、直近に支給されたボーナスの額は労働意欲を有意に(偶然とは言えない範囲で)高めるという結果が出ています。ただし利益や付加価値といった財務指標に与える影響までは推計されていません(柿澤寿信・梅崎修『評価・賃金・仕事が労働意欲に与える影響―人事マイクロデータとアンケート調査による実証分析』、『日本労働研究雑誌』2010年5月号所収)。

 いずれにしても、報酬の一部をボーナスとして支給することは、会社側にとって特に有利なことではなさそうです。

まとめ

 経営者はせっかく支給したボーナスで社員から不満を持たれないために、会社業績と個人成績からボーナスが決まる経路をガラス張りにするべきです。人事評価は公正に行うことはもちろん、公正であると印象付ける努力も必要です。ただし皮肉な話ですが、報酬の一部をボーナスとして払うことに、会社の業績を押し上げる効果はあまりありません。

著者紹介:神田靖美

人事評価専門のコンサルティング会社・リザルト株式会社代表取締役。企業に対してパフォーマンスマネジメントやインセンティブなど、さまざまな評価手法の導入と運用をサポート。執筆活動も精力的に展開し、著書に『スリーステップ式だから、成果主義賃金を正しく導入する本』(あさ出版)、『会社の法務・総務・人事のしごと事典』(共著、日本実業出版社)、『賃金事典』(共著、労働調査会)など。Webマガジンや新聞、雑誌に出稿多数。上智大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。MBA、日本賃金学会会員、埼玉県職業能力開発協会講師。1961年生まれ。趣味は東南アジア旅行。ホテルも予約せず、ボストンバッグ一つ提げてふらっと出掛ける。

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