今も絶大な人気を誇る‘80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末永く楽しんでいくには何に注意し、どんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回は’80〜’90年代の2スト全盛時代を象徴する名車・ホンダNSR250R[MC18]を紹介。本記事ではモトールエンジニア・藤田浩一氏のインタビューとおすすめモデルをお届けする。
コンディションが良好なら日常の足として使える
22歳のときに’88年型RKを入手して以来、藤田氏とNSRの付き合いは30年以上に及んでいる。もっとも最初の10年間は、レースに参戦するプライベーターとして接していたのだが、かつてと現在を比較して、NSRに対する印象に変化はあったのだろうか。
「大前提の印象は変わりませんよ。ちょっと妙な表現になりますけど、NSRはどの年式も捨てる部品がないバイクで、ノーマルのままで十分な戦闘力が備わっているし、すべての部品に開発者の思い入れを感じます。ただし付き合い方は、昔と今では大きく変わりましたね。少なくとも現役時代は、私を含めた多くのライダーがひたすらパワーと速さを追求していましたが、ウチのお客さんを見ていると、最近はそういう意識の人はほぼ皆無で、多くのライダーが長く乗り続けようという姿勢でNSRを楽しんでいます」
モトールエンジニアでは基本的に車両販売を行なっていないため、新規のお客さんは他店やヤフオクなどで購入した車両を持ち込むことになる。そういった車両のコンディションは、年を経るごとに悪くなっているそうだ。
「10年ほど前はアタリと言いたくなる車両に出会うことがありましたが、最近は、『もし可能なら、今すぐ返却したほうがいいですよ』というレベルの車両が増えてきました。生産年を考えれば仕方がないことですが、各部に問題を抱えた車両で本来の性能を取り戻すには、それ相応の費用がかかります」
実際の購入時に、ハズレを引かないコツ…的なものはあるのだろうか。
「それは難しい質問ですね。外観から判別できる要素はありますけど、本当のコンディションは試乗しないとわかりませんから。なおハズレとは違う話ですが、’88か’89年型のオリジナルにこだわりがあるなら、主要部品が後年式車用に変更されていないかを事前に確認したほうがいいでしょう」
2スト未経験のライダーの中には、ハードルの高さを感じる人がいるようだが、「完調のNSRは日常の足として普通に使えます」と藤田氏は言う。
「逆に言うなら、始動が困難だったり、プラグが頻繁にカブったり、エンジンが扱いにくいと感じたりするなら、その車両は調子が悪いんです。なお、日常的な注意事項として私がお客さんにお願いしているのは、ガソリンとオイルの燃費を取ることと(オイルの燃費は1ボトルを何kmで使い切るかを計測)、ミッションオイルと冷却水を定期的に交換すること、それに加えて燃焼室とRCバルブのカーボンの堆積を防ぐため、できれば2〜3ヶ月に一度以上のペースで、エンジンの温度をしっかり上げられる距離を走ることです」
ところで、NSRには昔から”ハチハチ最強説”が存在し、実際にノーマルのパワーは’88年型がもっとも出ていた。近年のNSRユーザーは、そういった伝説をどう捉えているのだろうか。
「昔ほどではないですが、現代でもハチハチ好きはたくさんいますよ。もっとも’88年型は、トータルバランスでは最強ではないし、リミッターカットやチャンバー変更が前提なら、パワーのアドバンテージもなくなるんですけどね。なおハチハチ最強説に限った話ではないですが、ネット上にはNSRに関するいろいろな記事が上がっています。それらの中に有用な記事はありますが、一方で誤解を招く表現が非常に多いので、ここ最近はお客さんに『ネットを先生にしないでください』と言う機会が増えているんです」
おすすめモデル:藤田氏のオススメは’90~’93年のMC21
「型式は問わないからNSRに乗ってみたい」というお客さんに対して、藤田氏はMC21をオススメすることが多いそうだ。「部品の供給状況が比較的良好なことに加えて、MC21は乗り味が完成されていますからね。そういう見方でMC18を評価するなら、補修部品が潤沢とは言い難いし、乗り味にはちょっと荒っぽいところがあります。
MC28の乗り味は、他機種より安定指向です。部品供給は現時点ではいい方ですが、特異な部分が多いので、今後は維持が難しくなるかもしれません。なお初期型のMC16は、動力性能では以後のモデルに及びませんが、前傾が穏やかなので、市街地走行やツーリングをソツなくこなせるという見方なら、個人的には一番だと思います」
メンテナンスコスト
- エンジン腰上オーバーホール:10万円~
- エンジンフルオーバーホール:35万円~
- キャブレターオーバーホール:2万円~
- フロントフォークオーバーホール:3万5000円~
- リアショックオーバーホール:4万円~
上記の数字はいずれもモトールエンジニアの目安にして部品代込み(税抜)で、実際の費用はコンディションによって上下する。たとえばエンジンオーバーホールでシリンダーにダメージが発覚した場合は、再メッキ費用として1気筒当たり約4万円が必要。なおエンジンOHは、腰上:2〜3万km/フル:5万km前後で行うことが多いそうだ。
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