コンディションが良好なら日常の足として使える
22歳のときに’88年型RKを入手して以来、藤田氏とNSRの付き合いは30年以上に及んでいる。もっとも最初の10年間は、レースに参戦するプライベーターとして接していたのだが、かつてと現在を比較して、NSRに対する印象に変化はあったのだろうか。 「大前提の印象は変わりませんよ。ちょっと妙な表現になりますけど、NSRはどの年式も捨てる部品がないバイクで、ノーマルのままで十分な戦闘力が備わっているし、すべての部品に開発者の思い入れを感じます。ただし付き合い方は、昔と今では大きく変わりましたね。少なくとも現役時代は、私を含めた多くのライダーがひたすらパワーと速さを追求していましたが、ウチのお客さんを見ていると、最近はそういう意識の人はほぼ皆無で、多くのライダーが長く乗り続けようという姿勢でNSRを楽しんでいます」 モトールエンジニアでは基本的に車両販売を行なっていないため、新規のお客さんは他店やヤフオクなどで購入した車両を持ち込むことになる。そういった車両のコンディションは、年を経るごとに悪くなっているそうだ。 「10年ほど前はアタリと言いたくなる車両に出会うことがありましたが、最近は、『もし可能なら、今すぐ返却したほうがいいですよ』というレベルの車両が増えてきました。生産年を考えれば仕方がないことですが、各部に問題を抱えた車両で本来の性能を取り戻すには、それ相応の費用がかかります」 ───ホンダNSR250R [MC18]完調メンテナンス|モトールエンジニア〈ギャラリー写真2-4〉 実際の購入時に、ハズレを引かないコツ…的なものはあるのだろうか。 「それは難しい質問ですね。外観から判別できる要素はありますけど、本当のコンディションは試乗しないとわかりませんから。なおハズレとは違う話ですが、’88か’89年型のオリジナルにこだわりがあるなら、主要部品が後年式車用に変更されていないかを事前に確認したほうがいいでしょう」 2スト未経験のライダーの中には、ハードルの高さを感じる人がいるようだが、「完調のNSRは日常の足として普通に使えます」と藤田氏は言う。 「逆に言うなら、始動が困難だったり、プラグが頻繁にカブったり、エンジンが扱いにくいと感じたりするなら、その車両は調子が悪いんです。なお、日常的な注意事項として私がお客さんにお願いしているのは、ガソリンとオイルの燃費を取ることと(オイルの燃費は1ボトルを何kmで使い切るかを計測)、ミッションオイルと冷却水を定期的に交換すること、それに加えて燃焼室とRCバルブのカーボンの堆積を防ぐため、できれば2~3ヶ月に一度以上のペースで、エンジンの温度をしっかり上げられる距離を走ることです」 ところで、NSRには昔から”ハチハチ最強説”が存在し、実際にノーマルのパワーは’88年型がもっとも出ていた。近年のNSRユーザーは、そういった伝説をどう捉えているのだろうか。 「昔ほどではないですが、現代でもハチハチ好きはたくさんいますよ。もっとも’88年型は、トータルバランスでは最強ではないし、リミッターカットやチャンバー変更が前提なら、パワーのアドバンテージもなくなるんですけどね。なおハチハチ最強説に限った話ではないですが、ネット上にはNSRに関するいろいろな記事が上がっています。それらの中に有用な記事はありますが、一方で誤解を招く表現が非常に多いので、ここ最近はお客さんに『ネットを先生にしないでください』と言う機会が増えているんです」 ───【2台態勢で’88年型ならではの魅力を満喫】息子さんと共に取材現場にやって来たUさんは、2台の’88年型を愛用中。ハーフカウル仕様のこの車両は、チャンバーをドッグファイト、フロントディスクをサンスターに変更している。〈ギャラリー写真5〉 ───【理想の走りを追求して、自らの手でカスタム】DIY派でツーリング好きなHさんの愛車は’89年型。エンジンとフロントまわりはMC28、スイングアームは’89年型RK用に換装。前後17インチホイールはマグテックで、リヤショックはFGを選択。〈ギャラリー写真6〉
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