陽平の覚悟
「もう、俺の実家に行くのはやめよう」
いつの間にか肌寒さを感じるようになった土曜日。
沙耶香の家で一緒に夕飯を取り、美桜を寝かしつけた後、陽平が唐突に言った。
今日は朝から大宮にある陽平の実家を訪れたが、玄関の前で少し話をしただけで、やはり何の進展もなかった。
陽平の実家を訪れる時は、少しの間、美桜を沙耶香の実家で見てもらっている。
そのため、行き帰りの電車は美桜も一緒で、陽平はいつものように明るく振る舞っていた。
そんな彼を見て、沙耶香も諦めずに何度も彼の実家に足を運ぶつもりでいたのに、とショックを受ける。
「どうして…?私との結婚が嫌になった?」
最近の疲れた様子や、小さな喧嘩が増えていたことなどを考えると、気持ちが冷めてしまったのでは、と不安になる。
心配そうな眼差しを向ける沙耶香に、陽平が優しく言った。
「いや、そうじゃない。ただ、もうこれ以上みんなに迷惑をかけたくないんだ。沙耶香にも、悲しい思いをしてほしくない」
「私は、覚悟をしていたから大丈夫だけど…」
沙耶香は否定したものの、美桜も実家も巻き込んでしまっている後ろめたさを感じた。
些細な表情を読み取ったように、陽平が沙耶香を見つめる。
「ありがとう。でも、これ以上は俺が嫌なんだ。美桜にも沙耶香にも負担をかけたくない。だから…」
陽平はそう言うと、大きく息を吸った。
「沙耶香がもし別れたければ、残念だけど受け入れるよ。でももし、時間がかかっても待っていてくれるなら、絶対に俺が説得して、許しをもらうよ」
陽平には幸せになってもらいたい。だからこそ、両親に受け入れてほしかった。
別れた方が陽平のためではないか、と沙耶香は実家へ行く度に考えた。でも…
「別れない。陽平が諦めない限り、私も絶対諦めない。いつになっても大丈夫だから」
沙耶香の決意を聞き、陽平は安堵の表情を浮かべる。
そして沙耶香をぎゅっと抱きしめると、「ありがとう」と耳元で囁いた。
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