北欧諸国は人口からみれば小国ばかりだ。最大のスウェーデンですら日本の10分の1に満たない。少ない人口で競争力を維持するため、リスキリング(学び直し)の充実などを通して一人ひとりの稼ぐ力を高めることに腐心してきた。各国の労働生産性を時間あたりでみると、日本を3〜8割ほど上回る。
1990年代前半の金融バブル崩壊や2008年のリーマン・ショックなど、北欧も経済危機の影響から逃れられなかったが、そのたびに復活した。今では日本より成長力が高い。何回落ちても復活する姿は「トランポリン経済」ともいわれる。
米国で顕著に見られるように、経済の自由競争には所得格差を広げる副作用がある。しかし税による再分配が強力な北欧は、1人あたり国内総生産(GDP)で米国に匹敵する水準を確保しながら所得格差の度合い(ジニ係数)を低く抑え込んでいる。
所得格差と並んで北欧の平等を象徴するのが男女格差の小ささだ。男女平等の度合いを示すジェンダーギャップ指数では、北欧が上位をほぼ独占する。賃金やキャリアで男女差が小さいことは女性の労働参加を促し、少ない人口の中でGDPや税収に好影響を及ぼす。
高い税率は北欧の代名詞ともいえる。GDPに対する租税収入と社会保障費から算出される国民負担率は40%超と日本より10ポイントほど高い。ただ北欧では教育や医療・介護などで自己負担がゼロになるケースもあるため、実際の負担感は低いとの指摘もある。
集めた税をどう分配するか。公的な社会支出の内訳を見ると、多くの先進国は高齢化を映して「高齢者」や「健康・医療」の割合が高い。これに対して北欧は子育て関係の家族政策や職業訓練などへの分配も比較的多いのが特徴だ。
充実した福祉政策によって機会の平等や、いざというときのセーフティーネットが担保されていることは安心感を高める。国連が毎年まとめる世界幸福度報告で北欧各国は世界トップクラスの常連だ。
日本と比べれば緩やかだが、北欧も高齢化は避けて通れず、人口ピラミッドは若者が少ない「ツボ型」へ移行する。ベビーブーム世代の高齢化が今後本格化する中、介護や医療にかかる財政負担が重くなる。先進国の中では比較的高い出生率を維持し、人口減を避けられるかが課題だ。
北欧に暮らす移民の数は過去20年で2倍に増えた。主流だった欧州域内の出身者に加え、中東を含むアジアや北アフリカからの移民・難民が急拡大した。北欧で最も移民が多いスウェーデンでは受け入れを巡って世論が割れている。
GDPに対する国防費の割合は冷戦終結とともに下がる傾向にあったが、ここ数年は上昇している。ロシアによるウクライナ侵攻を受けてフィンランドとスウェーデンは北大西洋条約機構(NATO)への加盟を決めた。国防費が一段と増えれば財政に影を落とす。
ウクライナ危機は軍事的な緊張だけでなく北欧のエネルギー安全保障にも影響を与える。侵攻以前、エネルギー資源のロシアへの輸入依存度はスウェーデンやデンマークで1〜2割、フィンランドは5割超だった。ロシアからの輸入削減で代替調達のコストが膨らみ、足元で貿易赤字が急拡大する。
記事・データ : 北爪匡
グラフィックス : 藤沢愛、仙石奈央
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