参加者1,000人規模の盛大な挙式を行う文化が根付くインドネシア。年間200万組が結婚する同国のブライダル市場に食い込もうと日系企業も進出していたが、新型コロナウイルス対策の行動制限のあおりを受けて苦境に立たされている。いまだコロナ収束の兆しは見えていない中、活路を見いだそうと業界全体で新たな取り組みが始まった。(NNAインドネシア 山本麻紀子、Merliyani Pertiwi)
「コロナ禍で大勢が集まるイベントや集会が禁止になり、生活の多くの場面で影響を受けたが、結婚披露宴もその一つ。インドネシアの結婚式は親せきや友人が何百人と集まるのが一般的だが、挙式だけ少人数で執り行って披露宴はキャンセルしたり、ビデオ会議システムを使ったバーチャル結婚式を試みた友人もいた」と語るのはジャカルタ在住の20代の女性。
新型コロナの感染者数が2020年12月には累計65万人を超え、東南アジア最多となっているインドネシア。首都ジャカルタ特別州では州政府が防疫対策として同年4月に「大規模な社会的制限(PSBB)」を発動。州内での活動や交通手段を制限した。6月に緩和されたが、ジャカルタで結婚式・披露宴を開催する場合には、来場者数を会場の収容能力の25%以下に抑えることが条件となっている。
地場ウェディングオーガナイザー大手のオハナ・エンタープライズは、コロナ前は1カ月に80件ほどの披露宴を手掛けていたが、行動制限の影響で4~5月は事業が完全に停止。行動制限の緩和後、イスラム教徒が婚姻手続きを行う宗教事務所での簡略化した結婚式の実施は認められたものの、地方も含めて披露宴の7割が中止に追い込まれた。正社員150人のうち勤続年数1年未満の社員は雇用を打ち切り、その他社員も10%ほどリストラを断行した。
インドネシアのブライダル事業者が加盟する業界団体「ハスタナ」が、3月に実施したブライダル業界動向調査では、「新型コロナで事業に影響を受けた」と回答した割合が85%。具体的には「挙式のキャンセルまたは日程変更」が73%に上った。
■予約がほぼキャンセル、日系大手は撤退を発表
中央統計局によると、インドネシアでは毎年約200万組が結婚する。一方、日本では約60万組(厚生労働省の19年の婚姻件数データ)。インドネシアは世界第4位の人口を抱えるだけに婚姻件数が多く、日本の3倍以上だ。また、国内の関連業界メディアによれば、ブライダル関連産業の市場規模は50兆~60兆ルピア(約3,800億~4,500億円)に上る。また、日本では披露宴やパーティーの実施率が51.1%(リクルートライダル総研調べ)なのに対し、インドネシアでは披露宴の実施はほぼ100%。規模も盛大だ。
こうしたブライダル需要を有望視し現地に進出したのが挙式・披露宴の企画運営サービスを手掛けるアイ・ケイ・ケイ(佐賀県伊万里市)。現地法人インターナショナル・カンシャ・カンドウ・インドネシア(IKKインドネシア)を設立し、17年2月に営業活動を開始した。同社が手掛ける披露宴の招待客数は平均800~1,000人。会場代やデコレーション費用、飲食費、記念写真撮影などをまとめたパッケージ料金は5億ルピアが相場という。
しかし、国内で新型コロナが流行し始めた20年3月以降、8月までに予定されていた披露宴の予約がほぼ全て延期やキャンセル。ジャカルタで運営する婚礼会場は、週末にフル稼働していたコロナ禍前の状況から一変した。8月には2カ所目の会場で開業後初めての披露宴を予定していたが、コロナの影響でいつ実現できるかめどは立っていない。
婚礼大手のテイクアンドギヴ・ニーズ(東京都品川区)は、15年4月からジャカルタ中心部の五つ星ホテルで婚礼事業を開始したが、20年8月に撤退を発表。9月には海外・リゾートウェディング事業を担っていた日本の子会社の全株式を譲渡すると明らかにした。
■披露宴の動画を生配信、お返しは衛生品が人気
苦境に立たされる中、現状を打破しようと業界団体が動いた。行動制限緩和後の7月、業界団体ハスタナはブライダル関連産業の7団体を招集。コロナ禍の下での衛生規律を順守した結婚披露宴の新たなスタイルを提唱した。
ハスタナのガンディ・プリアプラタマ会長によれば、招待客の食事はこれまでビュッフェ形式が主流だったが、新たな試みでは招待客1人ずつにランチボックスを配るスタイルに変更したり、立食パーティー形式を招待客の座席を指定する形式に変更したりする。
披露宴に招待されれば、よほどの事情がない限り出席して義理を欠かさないのがインドネシア人。配偶者や子どもを連れて出席するのが一般的なため、従来なら新郎新婦側は招待客の2倍の人数が出席しても足りるだけの十分な食事を用意する。しかし、コロナ禍では当日の客数も予測しづらい。このため、あらかじめ出席人数を把握するためのオンライン予約システムを導入することも提案された。
式場に来られない招待客のために、リアルタイムで会場内の様子を動画配信するサービスも始めた。新郎新婦から出席者へ贈られる記念品も、新型コロナの影響でマスクや手指消毒剤などの衛生品を選択することも増えた。
課題は、招待客の人数が制限されて披露宴の規模が従来よりも縮小し、業界の売り上げも目減りする一方で、衛生規律を順守するために従来よりも人員を増やして対応せざるを得ないためコスト増が避けられないことだ。
それでもガンディ会長は「コロナ対策の行動制限期間中、ブライダル産業は3カ月間も仮死状態だったが、この産業は決して衰退しない産業だ」と強調する。ガンディ会長の自信の背後には、「人は生まれれば必ず結婚するからだ」というインドネシア人特有の根強い結婚観が横たわっている。
※特集「アジア取材ノート」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2021年1月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。
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