Saturday, January 23, 2021

武器使用が可能となる中国公船に対して日本が準備すべきこと【コメントライナー】 - 時事通信ニュース

2021年01月24日09時00分

沖縄県尖閣諸島海域で、中国公船(奥)を監視する海上保安庁の巡視船[海上保安庁提供](2020年5月撮影)【時事通信社】

沖縄県尖閣諸島海域で、中国公船(奥)を監視する海上保安庁の巡視船[海上保安庁提供](2020年5月撮影)【時事通信社】

 ◆金沢工業大学虎ノ門大学院教授、元海将・伊藤 俊幸◆

 尖閣諸島周辺での中国海警局公船の横暴な活動が止まらない。報道によれば、昨年、接続水域内を航行したのは333日、ついに年間9割を超えたのだ。うち、29日間は領海侵犯しており、あまり報道されなかったが、昨年12月も中国公船が日本の漁船を追い回したという 。

 ◆海軍艦艇と同じようなもの

 2018年に中国海警局は、中国中央軍事委員会隷下の武装警察に編入された。今や、中国海軍少将が指揮する組織となり、その動きは海軍艦艇と同じようなものになった。

 500メートル間隔を取った4隻が1列で行動し、その陣形で接続水域内を連日周回、月に2日は領海にも入ってくる。

 一方、海上保安庁の巡視船も、中国公船の領海側を同行し、内側に入れないよう抑え込んでいる。中国公船は、領海内の日本漁船を追いかける際には2派に分かれ、かく乱しようとするが、海保巡視船はこれに対応し、漁船との間に入り込み、全て防いでいる。

 昨年11月4日、中国は全国人民代表大会(全人代、国会に相当)開催中に、「海警法」の草案を公表した。そこには「外国船が中国の管轄する海域で違法に活動し、停船命令に従わない場合は武器を使う」と書かれていた。これまで中国公船は武器を使用しなかったが、これからは違うとわざわざ示したのだ。

 ◆中央軍事委の命令一つで

 一方の海保巡視船は、中国公船に対して武器が使えない。

 海上保安庁法第20条の2には、「他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由のあるときには、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる」とあるが、「外国船舶(軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶であって非商業的目的のみに使用されるものを除く)」となっているからだ。

 つまり、外国の軍艦や政府公船には武器は使いません、と自己規制しているのだ。まずは、この「かっこ書き」の部分を取り除く法律改正をすべきだろう。

 この海警法草案には、「海警は執法力量(警察)であるとともに、海上武装力量(海軍)である」と新たに定義することが示された。つまり、中国公船は「犯罪取締船」であり、「武力行使可能船」にもなる、中央軍事委の命令一つで、いつでも立場や行動を変えることができるということだ。

 ◆一元管理が必要

 これに対し、日本側は、国土交通省の海上保安庁と、防衛省の自衛隊。海保巡視船から海自艦艇にシームレスに作戦を移管することは現状では困難だ。本来、防衛省など国の一機関で作戦を一元管理する必要がある。

 そもそも、国交省という経済官庁所属の海保が、罪を犯す民間船舶ではなく、国家を体現する他国公船を取り締まることができるのかという根本的な議論も必要だ。

 尖閣での中国公船への対応は、海保巡視船の大型化や隻数の増強といったハード面に加え、国家体制の整備というソフト面の改正も必要なのだ。

 (時事通信社「コメントライナー」2021年1月20日号より)

 【筆者紹介】

 伊藤 俊幸(いとう・としゆき) 防衛大学校機械工学科卒業、筑波大学大学院修士課程(地域研究)修了。海上自衛隊で潜水艦はやしお艦長、在米大使館防衛駐在官、第2潜水隊司令、海上幕僚監部情報課長、情報本部情報官、統合幕僚学校長、海上自衛隊呉地方総監などを歴任。2016年より現職。専門はリーダーシップ論、安全保障、国際関係、危機管理など。

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