近年、社会問題として注目されている、外国人技能実習生の劣悪な労働環境。この題材をモチーフにした映画『海辺の彼女たち』が5月1日から公開される。監督は、在日ミャンマー人の移民問題を描いた前作『僕の帰る場所』で、東京国際映画祭「アジアの未来部門」グランプリを受賞した藤元明緒氏。自らリサーチを重ねた外国人労働者たちの実話をもとに描いており、圧巻のリアリズムが特徴の作品となっている。
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本作は、藤元監督が実際に外国人技能実習生から受け取ったSOSメッセージをきっかけにして、着想されたという。映画公開に先立ち、作品の背景やコロナ騒動直前に行われた撮影のエピソードなど、藤元明緒監督にお話をうかがった。(全2回の1回目/#2を読む)
映画『海辺の彼女たち』より ©2020 E.x.N K.K. / ever rolling films
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失踪した外国人技能実習生はどうやって生きているのか
――『海辺の彼女たち』はメインキャストのベトナム人女性3人で励まし合って生きている雰囲気がとてもリアルで、ドキュメンタリーのようにも見える作品です。この作品を作ったきっかけは、監督がSNSで外国人から相談を受けたことにあったそうですが、それはベトナム人のかたでしたか?
藤元 いえ、ミャンマー人の、技能実習生の女性でした。フェイスブックには、ミャンマー人向けに情報を発しているページがありまして。そこで知り合った人です。そのページは多くのミャンマー人にシェアされていて、メッセンジャーから「技能実習生で不当な扱いを受けている。もう逃げたいんだけどどうしようか……」という相談を受けました。2016年のことです。
――若い人でしたか?
藤元 そうですね、21〜22歳だったと思います。
――その件があって「技能実習生」という素材に興味を持たれたんですね。
藤元 はい。結局、助けてあげることができなくて、その人は失踪してしまった。そして、どこに行ったのかわからないままです。失踪すればその後の生活は、既存のステータスを捨てて、不法就労や不法滞在になるので「どういう思いで、どうやって生きているんだろう」と心配になりました。
実習先の現場を描くというのであれば、すでにいろんな作品があると思うんですが、失踪した後の実態というのは、なかなか知り得ない。既存の報道とか、普通の日常ではコミットできない。そこでしっかりと取材を重ねたうえで、フィクションというか「再現」じゃないですけど、僕の想像も含めた劇映画として、彼女のその後を追いたいと考えました。
日本で失踪して行き場を失い、生活に困っている外国人は数多く存在しています。そういった人たちを匿って支援するシェルターの役割を果たしているお寺や教会があるので、取材にはそういったところに出向いて、多くの人からお話をうかがいました。失踪した後の具体的な行動や感情、例えば日本で差別された時の気持ちや、日本での稼ぎで国の両親を養わなければいけないプレッシャーなど、細かく描写に組み込みました。
今、日本に来ている技能実習生は、ベトナム人が最多
――今回、主人公をミャンマー人でなく、ベトナム人にしたのはなぜでしょうか? 前作『僕の帰る場所』の縁もあって、監督にはミャンマー人のお知り合いが多いようですが。
藤元 前作でミャンマー人を取り上げているから、次は別のアジアの国を、と思いました。
――最初にベトナム人が候補になったのは、やはり現在日本に来ている技能実習生に、ベトナム人が最も多いからなんでしょうか?
藤元 それは理由として大きいです。日本では、ベトナム人が失踪した先で、ベトナム人のコミュニティができたりしている。そういった場所があるなら、逃げた先も描きやすいと思いました。
それで、ベトナムに行ってオーディションをしました。いい女優さんが決まらなければエリアを広げて、別の国の人も候補にあげていくことも考えていました。でも、結果的にいい出会いがあったので、ベトナム人のかたで作品を作ることになったんです。
まだ知られていないベトナム人女優に、リアルな在留外国人を感じて欲しい
――『海辺の彼女たち』はドキュメンタリー作品のような雰囲気がありますが、最初に脚本が完成したのですか?
藤元 最初にある程度プロットやストーリーを組みまして、その後、取材を進めたり、メインの出演者と相談したりして、少しずつ形が変わっていった、という感じです。
――出演者であるベトナム人の女優さんたちにも話を聞かれたんですね。
藤元 そうです。主にパーソナリティーの部分。プライベートなこともインタビューして、キャラクター設定に生かしました。キャラクターというか、もう本人そのままです。役名も本名ですし。彼女たちに備わっている気質そのままでカメラの前に立って欲しい、と話しました。
――演技じゃないものをカメラに収めたい、という感じでしょうか。
藤元 そうですね。半々くらいでしょうか。演技もしてもらわなくちゃいけないんですけど「もし自分が女優ではなく、日本に働きに行くことになったら?」と考えてもらって。パラレルワールドを意識してもらうような感覚です。
――前作同様、メインキャストの中には、初めて演技をしたという出演者もいらっしゃるんですよね。主演のかたはプロの女優さんですか?
藤元 主演の女優、ホアン・フォンさんは、当時すでに1本、中国映画に出演済みでした。『Invisible Love』という作品で、中国映画なんですけど、ベトナムを題材にしています。この作品は、映画祭にかかっていたり、パリ国際映画祭2021では俳優賞を受賞したりしているので、ベトナムでも注目されているらしいです。だから撮影当時は無名だったんですけど、今は結構、彼女に関する記事も出てきていますね。
――ではこれから活躍が期待できそうですね。
藤元 そうですね。ただ、日本ではみなさんまだ彼女をご存知ないから、今回の作品の中では、匿名性があるというか、リアルに存在する外国人女性のように感じてもらえると思います。
撮影のタイミングと新型コロナウイルス
――ベトナム人の女優さん3人は、日本に初めていらっしゃったんでしょうか?
藤元 そうです。この映画のためにパスポートを取ってもらって。
――今回、取材や撮影に新型コロナウイルスの影響はありました?
藤元 当時は、まだコロナ騒動がはっきりとは、始まっていなかったんです。取材は2019年の5月から始めて、実際の撮影は2020年の2月に行いました。
――すごくギリギリのタイミングですね。
藤元 はい。撮影を横浜からスタートしたんですけど、ちょうどダイヤモンド・プリンセス号が泊まっていた頃。それから2月の末くらいまで撮影していたので、本当にギリギリでした。これが2週間くらい遅れていたら、もうキャストがベトナムに帰れなくなるところでした。
クランクアップ前日くらいに、北海道で緊急事態宣言が出たんです。ちょうど、青森からフェリーに乗って北海道へ行くシーンを撮影してたので、ちょっと怖かったですね。そんなふうにギリギリでしたが、撮影スケジュール上、コロナはなんとか回避できました。
――作品の舞台である雪国の漁港は、その辺りだったんですね。
藤元 ロケ地は青森の外ヶ浜町ですが、作品の設定上は「どこかの北国」ですね。具体的には決めていないんです。
――北国の漁港で働く外国人のかたは多いのでしょうか。肉体的にきつい仕事ですよね。
藤元 男性が多いですね。映画にも少し登場する「船に乗ってる側」の人が多いです。
――年齢、世代はどれくらい?
藤元 20代〜30代ですね。30代前半まで。30代後半は、僕はあまり聞いたことないです。
――日本に来る実習生も、必ずしも全員が劣悪な環境というわけではなくて、理不尽な思いをして苦しんでいるかたは、いわばハズレを引いた人、といったことも耳にしますが、実際そうなんでしょうか?
藤元 そうですね。そもそも「逃げよう」と思って日本に来る人はあまりいないです。まあ中には、観光ビザで来ちゃってそのまま日本にとどまってる、みたいな人はいるかもしれないですけど。基本的に実習生は「逃げたい」とは思っていないので、本当に運の良し悪しでしょうね。
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後編では、監督が取材を行なった外国人失踪者が駆け込むシェルターのこと、さらに妻がミャンマー人である監督に、現在不安定なミャンマーの情勢についてもうかがっています。(#2に続く)
INFORMATION
『海辺の彼女たち』映画情報
【STORY】技能実習生として来日した若きベトナム人女性のアン、ニュー、フォンの3人は、ある夜、搾取されていた職場から力を合わせて脱走を図る。
新たな職を斡旋するブローカーを頼りに、辿り着いた場所は雪深い港町。不法滞在となる身に不安が募るも、故郷にいる家族のためにも懸命に働き始める。しかし、安定した稼ぎ口を手に入れた矢先、フォンが体調を壊し倒れてしまう。アンとニューは満足に仕事ができないフォンを心配して、身分証が無いままに病院に連れて行くが……。
https://umikano.com/
5月1日(土)よりポレポレ東中野ほか 全国順次公開
©2020 E.x.N K.K. / ever rolling films
来日し「ハズレ」を引いた外国人は命を落とすことも…在留外国人、そしてミャンマーのために、今私たち日本人ができること へ続く
(市川 はるひ)
2021-05-01 02:00:00Z
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