Saturday, February 18, 2023

現代の「鷹匠」物語…多才なタカ相棒にイベントなど多彩なお仕事 ... - 読売新聞オンライン

 ピーッ。笛の音を合図に、眼光鋭い1羽の猛鳥が飛び立つ。大きな翼を羽ばたかせ、用意された三つのフラフープをくぐり抜けると、ゴール地点にピタッ。優雅な一部始終を子どもたちが歓声と拍手でたたえた。

 青森県津軽地方の 鰺ヶ沢あじがさわ 町に住む奈良篤さん(50)は昨年12月中旬、「悠」と名付けたタカとともに町内の保育所を訪ねた。昨夏の豪雨で浸水被害を受けており、「園児たちを力づけたかった」。悠と息の合ったパフォーマンスを披露し、満足そうに語った。

 奈良さんは「 鷹匠たかじょう 」を名乗っている。古くは将軍や大名などに仕え、鷹狩りに用いるタカの飼育や訓練を行う職業だった。今は鷹匠になる資格は特段いらない。奈良さんは飲食店を経営しながら「悠」など2羽のタカを調教している。

 鷹匠の仕事は、保育所などでのパフォーマンスにとどまらない。市街地や倉庫にたむろするカラスやハトを追い払ったり、ゴルフ場でタカを飛ばし、好スコアを祈る「ホークインワン」というイベントを企画したり。CMやテレビ番組に出たのは一度や二度ではない。

 想像していた鷹匠のイメージとはちょっと違う……? 奈良さんは笑う。「いやいや、タカは狩り以外にも色んなことができる。可能性は無限大です」

 奈良さんは現代の「鷹匠」として、これまでにオオタカやハリスホークなどを7羽ほど育ててきた。

  猛禽もうきん 類との出会いは、近くの川でウグイ釣りをしていた小学生の時。トンビが空を舞っているのを見て、釣ったウグイをヒョイッと投げてみた。すると、トンビは猛然と滑空してウグイをつかみ、どこかへと去った。「面白いな!」

 大人になり、タカの飼育を取り上げたテレビ番組をたまたま見た。「あんなに自由自在に扱えるのか。かっこいい」。出演していた男性に直接電話して「どうしても飼ってみたいんです」と頼み込み、オオタカを1羽譲ってもらった。

 だが、タカを懐かせるのは至難の業。逃げようとするし、言うことも聞かない。男性と毎日連絡を取り、教えを請うた。自分の手を気に入ってもらえるように、拳の上で餌を食べさせたり、おわんを手に乗せて安定させたりする練習も繰り返した。試行錯誤しながら3か月かけて信頼関係を築いた。

 指示を理解させるのも一苦労。餌を与えすぎると言うことを聞かない。かといって餌を与えないのはかわいそうだ。適度な空腹具合をつかむまで餌の量を微調整した。

 「調教は忍耐。好きじゃないと続けられない」

 奈良さんには、2014年から最近まで行動を共にしたハリスホークがいた。

 名は「ロッシ」。大好きなオートバイレース界のレジェンド、バレンティーノ・ロッシから名付けた。「みんなから愛される英雄になってほしい、と」

 おとなしい性格のロッシはすぐに奈良さんを受け入れ、3週間後には飛ばせるようになった。初陣は、お隣の弘前市の依頼で、公園で桜の花芽を食べる害鳥「ウソ」を追い払うこと。ロッシが翼を広げて舞うと、ウソは一目散に逃げた。空港やリンゴの倉庫でヒバリやハトを追い払い、市街地ではカラスを撃退。活躍が知られ、地域のイベントへの出演も相次いだ。

 「ずっと一緒に」と思っていた昨年8月、悲劇が訪れる。豪雨で川から水があふれ、奈良さんは外出先から帰宅できなかった。ロッシをつなぐ家の止まり木は高さ1メートル30。水位はそれを上回っていた。突然の別れを悔やみきれず、思い出しては泣いた。

 1か月後。ブリーダーから「ロッシが死ぬ3日前、同じ母親から弟が生まれていた」と連絡があった。生まれ変わりだと信じた。「ロッシのような愛されるタカに育てる」。目標が決まった。

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