Sunday, May 9, 2021

現代の新しい弁護士像は、令和の記念碑的作品となるか 真鍋昌平『九条の大罪』|マンガ停留所|中条省平 - gentosha.jp

真鍋昌平の『闇金ウシジマくん』は、私にとって、21世紀初めの日本を代表するマンガの記念碑でした。その『ウシジマくん』が完結して2年。真鍋昌平の新シリーズが始まりました。『九条の大罪』です。

 

タイトルだけを見ると、戦争放棄と軍隊不保持を明言した日本国憲法の9条のことかと思いますが、違います。主人公が弁護士で、法律の話ではありますが、主人公の九条間人(くじょう・たいざ)という人物の名前から取っただけです。初めてタイトルを見た人をミスリードしようという悪戯心なのでしょう。「間人」を「たいざ」と読むのも何か意味があるのかもしれませんが、まだ分かりません。

さて、『九条の大罪』がどういう話かを知るためには、連載第1回の「片足の値段」という短いエピソードを見るのがいちばん手っとり早いでしょう。

主人公の弁護士・九条は、半グレ、ヤクザ、前科持ちなど、ほとんどアウトローの世界の住人を主な顧客にしています。

「片足の値段」の依頼人は、半グレの森田。飲酒運転の最中にスマホでゲームをしていて、35歳の父親と5歳の息子を轢いてしまいます。父親は死亡し、息子は左足切断。轢き逃げで、凶悪な犯罪です。

しかし、九条は、森田に酒が抜けてから自分と出頭するようにアドバイスし、遅くなっても弁護士と一緒なら自首が成立するといいます。スマホは証拠の宝庫なので自分に預け、警察には失くしたと言えとも助言します。そして、事故に関しては一切余計なことをしゃべってはいけない、と口止めします。

さらに、死亡した父親が出血していなかったことから、事故の直前に死んでいた可能性があると推理し、病歴を調べて、父親に心臓疾患があったことを確かめ、父親が心臓疾患により路上で倒れて死んだところを森田の車が轢いたと主張します。その結果、死体は物なので、過失運転致死は成立せず、森田は禁錮1年8か月、執行猶予3年になります。

あとは息子の片足切断がどうなるかということが問題となるのですが、被害者の母親は費用を惜しんで弁護士をつけなかったため、保険会社の解決基準でいいくるめられて、1000万円を受理することになりました。

弁護士をつけていれば後遺症遺失利益と慰謝料で7000万円からの交渉になったはずなのに。また、半年分の入院・通院費で500万もとれた、と九条はいいます。

『九条の大罪』とは、こうした弁護士の活動のリアルを追及するマンガなのです。

ただし、第1巻の大半を占めるエピソード「弱者の一分」では、半グレにいいようにコキ使われる前科持ちの知的障害者を主役にして、意外なドンデン返しを見せます。

依頼人を善悪や貴賤で差別せず、感情的反応を捨てて、可能なかぎり最良の解決策を探る。そんなクールな信条から、新しい現代の弁護士像が浮かびあがってきます。

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