新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が人工呼吸器や医療用マスクなどの確保策として検討している感染症法改正案の原案が判明した。国が平時から企業に対して医療物資の生産や輸入に協力するよう求めることを可能にし、従わない企業名の公表や罰則で強制力を持たせるのが柱。識者は、緊急時の医療物資不足を防ぐための法整備の必要性を認めつつも「憲法22条で保障される営業の自由などが侵害される恐れもある」と慎重な議論を求めている。(市川千晴)
◆来年通常国会に改正案を提出、成立目指す
原案では、新型コロナなどの感染症が国内で流行していない平時でも、国が企業に医療物資の生産や輸入を促進するよう要請できる規定を新設し、要請された企業に生産や輸入の計画作成、届け出を義務付ける。政府は要請を指示に切り替えることもでき、正当な理由なく従わない企業名を公表できる。計画を提出しなかった場合や立ち入り検査を拒んだ場合などには、懲役や罰金を科すことを検討している。
対象の医療物資として、ワクチンや治療薬、接種に必要な注射針、シリンジ(注射筒)のほか、人工呼吸器、医療用マスクとその原料になる不織布などを想定。海外での感染拡大や災害で医療物資の輸入が滞るような非常時に備えるのが狙い。要請や指示に協力すれば「必要な財政上の措置を講ずる」とする支援規定も盛り込む。
直接的に対象の医療物資を生産していない企業でも、生産技術を備えている場合、要請や指示の対象になり得る。政府は企業側の意見も踏まえて、来年の通常国会に改正案を提出して成立を図る方針だ。
新型コロナが初めて流行した昨年、家庭用のマスクなどが品薄になり、政府は国民生活安定緊急措置法に基づき、企業側に増産要請と国への売り渡しを指示した。だが、同法が規定する物資に医薬品や医療機器などは含まれず、新たな対応が必要と判断した。
◆企業活動の制約、識者から懸念
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