
昨年、山井梨沙がスノーピークの新社長として就任した。コロナの混乱のなかでの船出だったが、1年後、売上高は過去最高だった。コロナをきっかけに、キャンプの価値が高まっている。それは人が野生を取り戻し、自然と共生していくことでもある。ただアウトドア用品を売るだけではない。キャンプを通して自然との共生社会を作るため、山井は静かに、熱く、船をこぐ。
【写真】「ヘッドクォーターズ」10周年イベント* * * 上越新幹線「燕三条」駅から車を走らせて30分。ロードサイドの眺めが中山間部のそれに変わり、人家が途絶えた奥に、思いがけない光景が広がっている。山の稜線(りょうせん)を望む丘陵に、コンクリート打ちっぱなしの建物。周囲の広大なキャンプフィールドには、延々と並んだテント。 アウトドア製品メーカー「スノーピーク」が「ヘッドクォーターズ」と呼ぶ本社は、同社の独自性を表すかのように、新潟の地にたたずむ。高品質のギア(用具)を、磨きぬいたデザインで作り、永久保証を付ける代わりに、安売りはしない。こだわりの強いユーザーが多いアウトドア業界の中でも、その上を行くポリシーで、「スノーピーカー」と呼ばれる熱烈なファンを持つ。 昨年2月、同社が発表した次期社長の名が、市場をざわつかせた。山井梨沙(やまいりさ)、当時32歳。前社長で現会長、山井太(とおる)(61)の長子で、創業者、山井幸雄の直系の孫。 「世襲」「30そこそこの女に任せて大丈夫なのか?」「スノーピークは終わった」 年齢、性別への偏見から、山井が腕に入れたタトゥーや容姿への攻撃まで、ネットには匿名の者たちによる痛罵が飛び交った。 もとよりコロナによる混乱が本格的に始まったタイミングで、波乱の船出だった。緊急事態宣言の下で、個人消費は激減。同社も4月、5月は直営店を閉めるしかなく、「このままでは、つぶれてしまう」と、就任早々、山井も危機感にさいなまれた。 ■家族も従業員も一体の生活 週末は仲間たちとキャンプ ところが1年後の今年3月。社長として初めて臨んだ株主総会で山井が報告した売上高は、167.6億円という過去最高の数字。当期純利益では、前年比146.4%増という好業績を達成した。緊急事態でベランピング(ベランダでのキャンプ)や、3密を避けた少人数キャンプなど、新しいアウトドアの形が注目され、そこから10万人の新規顧客が付いたのだ。 「私たちは自然への敬意と人間性の回復に、事業の本質を置いています。コロナという危機によって、キャンプ体験の価値が地球規模で認識された。数字はその結果で、時代と本質がいよいよマッチしてきたのだな、と実感しています」
からの記事と詳細 ( キャンプをきっかけに自然への敬意と人間性の回復を目指し、次の世界に繋げる スノーピーク代表取締役社長・山井梨沙<現代の肖像>〈AERA〉(AERA dot.) - Yahoo!ニュース )
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