Friday, February 19, 2021

アングル:サウジ、ドバイに挑む 熱き中東ビジネス拠点争奪戦 - ロイター (Reuters Japan)

[ドバイ 16日 ロイター] - サウジアラビアが海外の人材や資金誘致を巡るアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイ首長国との「争奪戦」で、新たな一手を打ち出した。ただ、ドバイはイスラム圏の中では外国人に比較的自由な生活を許している上に、中東の商業・金融サービスの中心としての地位をすでに確立しており、その牙城を崩そうというサウジの挑戦はハードルが高い。

2月16日、サウジアラビアが海外の人材や資金誘致を巡るアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイ首長国との「争奪戦」で、新たな一手を打ち出した。リヤドで撮影(2021年 ロイター/Ahmed Yosri)

サウジのジャドアーン財務相は、ロイターの取材に対し、中東地域の拠点をサウジ以外の国に置く外国企業や商業機関には、2024年から政府案件の契約を停止すると述べた。

イスラム教誕生の地でもあるサウジは宗教面で保守的だが、実質的な政治指導者であるムハンマド皇太子が主導する形で金融・観光業拠点への脱皮を目指しており、今回の規制もその政策の一環。

一方、近隣のペルシャ湾岸諸国に比べて石油資源に恵まれないドバイは、ビジネスに対してオープンな姿勢や、富裕な外国人向けに派手な生活を約束することで、自らの経済基盤を築き上げてきた。

米シンクタンク・新アメリカ安全保障センターの非常勤上級研究員、レイチェル・ジンバ氏は「UAE、特にドバイの経済モデルに対してサウジが挑もうという姿勢を強めているが、ドバイは経営や法律、施設などの環境が非常に優れており、企業はドバイからオフィスを動かさないのではないか」と話した。

それでも、アラブ諸国で最大の経済規模を誇り、世界最大の原油輸出国でもあるサウジがもたらす脅威について、UAEは深刻に受け止めている。

同国は外国人については離婚や同棲を認め、許可なく飲酒できるようにするなど、外国企業誘致策を導入済みで、その面で競争上有利だ。さらに元ドバイ財務長官のナセル・アルシェイク氏は、サウジ政府の動きは湾岸地域市場の統合という原則に反すると早速けん制球を投げ、ツイッターに「世界の経験と歴史は、無理な誘致は長続きしないことを示している」と投稿した。

一方、サウジのジャドアーン財務相は、ロイターに対し、ドバイとリヤドは互いに補い合う関係になるだろうと強調。「ドバイやアブダビ、他の都市がどうかではなく、サウジにはこの地域に置かれる企業本社のうち、正当な取り分を手に入れる権利がある」と訴えた。

サウジへの直接投資の促進を目的とする政府機関、インベスト・サウジの資料によると、サウジは本社を置かない企業と事業契約しないという「ムチ」とともに、リヤドに本社を置く企業に対して、1)法人税を50年間免除、2)サウジ国民の採用割り当て義務の10年間免除、3)政府機関の入札・契約で優遇する可能性──といった「アメ」も与える方針。さらに移転の支援、ライセンス発行にかかる時間の短縮、配偶者向け就労許可規則の緩和なども行う。

ジャドアーン氏によると、一部のセクターは政府案件契約に本社設置を義務付ける新規則の適用自体も免除される。詳細は年内に公表される予定だ。

<抜け道から漏れ出す可能性>

サウジのムハンマド皇太子が推進している社会・経済改革では、国家の近代化と外国からの投資呼び込みを通じた脱石油化が図られており、2030年までにリヤドを国際的な都市にすることを目指している。

確かにムハンマド皇太子はコンサートの規制を緩和し、女性の自動車運転を認め、40年ぶりに映画を解禁するなど、サウジとしては実に大胆な措置を実施した。

ところが、ドバイには既に複合型映画館やナイトクラブ、海岸に面した世界クラスのホテルなどがそろっており、新型コロナが猛威を振るう前は、毎年数百万人の旅行者が訪れていた。

これに対してサウジは、英ロンドンの新興開発金融街・カナリーワーフの約4倍の規模を持つ「アブドゥラ国王金融地区」を建設するプロジェクトを2006年に打ち出したものの、近年は政治的な混乱や不透明な法制度、コロナ禍などにたたられ、うまく進展していない。

UAEはずっと前からビジネスを誘致しており、数十年が経過した今になって、リヤドに本社を移転するのは難しいと、複数の銀行関係者は述べた。

今後は金融機関の間で、本社機能をドバイに残したまま、サウジにある事務所を名前だけ中東本社に変えるケースが出てきてもおかしくないとの声も聞かれる。銀行関係者の1人は「(移転は)政府との契約で生まれる収入の規模によって正当化される必要がある。1つの投資銀行として考えると、拠点を動かすのが適切だと証明してくれるほどの収入は存在しない」と冷ややかだ。

アメリカン・エンタープライズ研究所のカレン・ヤング研究員は、サウジの取り組みは「抜け道」の利用を促し、当初の目的を阻害して経済成長が生まれない恐れがあるとの見方を示した。

UAEとトルコにオフィスを置くフランクリン・テンプルトンは、サウジ政府が提示した今回の規則の詳細が明らかになるのを見極める考え。HSBC、JPモルガン、シティグループなど、ドバイの金融自由地区「ドバイ国際金融センター」に拠点を置く外国銀行は、いずれもコメントを避けた。

とはいえサウジのムハンマド皇太子は紅海沿岸に5000億ドル規模の大規模スマートシティーを建設する計画を立てていることから、ハイテク企業にとってはリヤドへの拠点設置が「理に適う」かもしれない。

米グーグルの政府関連部門のトップだったサム・ブラッテイス氏は「サウジでの事業拡大は、中東でチェスの駒を進める一手段となる」と述べ、大きな戦略としてとらえるべきだとみている。

(Marwa Rashad記者、Davide Barbuscia記者、Hadeel Al Sayegh記者)

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