
【京都】卓越した技能を持ち、活躍する人を厚生労働相が表彰する今年度の「現代の名工」に、京都府内から11人が選ばれた。表彰式は8日に東京都内であった。表彰されたのは次のみなさん。(敬称略、朝日新聞の字体で表記、年齢は1日時点)
製糸工・吹上重雄(71)=右京区▽ひも製造工・中尾光男(75)=左京区▽左官・林正信(75)=山科区▽指物職・清水隆司(68)=伏見区▽野菜つけ物工・玉田照幸(70)=北区▽美容師・作田幸子(84)=長岡京市▽人形製造工・小田晋二(74)=東山区▽漆工・山根茂晴(74)=上京区▽蒔絵師・下出祐太郎(66)=下京区▽象嵌工・小野信一(73)=上京区▽理容師・根津英和(60)=伏見区
理容師・根津英和さん
1915年創業の「ヘアーサロンネズ」(京都市伏見区)で理容の技を磨いて40年余。頭の骨格に合わせて髪の長さを調整するカットを追求してきた。妻の美千代さん(61)、長男の将和さん(33)、次男の和馬さん(29)、母の浩子さん(91)と営む店には、赤ちゃんから100歳までの老若男女が訪れる。
理容師一家の4代目。「親孝行をしたい」と高校卒業後に理容師をめざし、24歳で家業を継いだ。技術競技会にも出場。休みを惜しんで練習し、自身の技術の良かった点をノートに書きためた。30代になると、国際大会で日本代表を6年務める腕前になっていた。
国際大会では、様々な国の外国人モデルの髪を整える技術が求められた。国が違えば、頭の形もさまざまだ。この経験から、頭部の形状、特に凹凸に着目するように。へこんだ部分の髪を浮かせ、出っ張った部分を寝かせるように調整することで、時間が経っても収まりの良い髪形を維持できるのが、持ち味になった。
入試や面接など、いろんなシチュエーションでやってくる客の要望に応じてきた。今年の東京五輪・パラリンピックでは、大会スタッフとして選手村で63カ国の選手ら111人の髪も切った。全国理容近畿地区協議会講師連盟の会長として、後進育成にも力を入れる。「お客さまの人生の節目に携われることが幸せ。これからも、より多くの人を幸せにしたい」
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11月上旬、記者(27)も散髪してもらった。
2カ月近く伸びたぼさぼさの髪を見て、根津さんは「どういうシチュエーションか、教えてください」と聞いてきた。
小学生のころから「短く、軽くしてください」と頼むだけ。考えたことすらなかった。戸惑いつつも、新入社員のころのような活力がわかない我が身に思い至り、「初心を思い出せる髪形に」とお願いした。
席につくや、根津さんは頭を見て「骨格には、あまり癖がないですね」と一言。髪形や触った感触で頭部の凹凸が分かると話し、バリカンを手にザクザクすき始めた。目元にかかった前髪は数本単位で細かく整えていく。
30分後。髪がすっきりしただけでなく、輪郭もきりっとした自分が鏡に映っていた。自分じゃないみたい。「初心を思い出すため大事なのは、さわやかさですよ」と根津さんがニッコリ。うれしさと恥ずかしさがこみ上げ、こちらも笑顔になった。周囲の評判も上々。新鮮な気持ちで次の取材へ向かえた。(原田達矢)
蒔絵師・下出祐太郎さん
漆器に漆で絵を描き、金粉などをつけて仕上げる「蒔絵(まきえ)」。1千年以上続く技法を受け継ぎ、多彩な創作活動に取り組む。
代表作の一つ、京都迎賓館(京都市上京区)にしつらえられた飾り台「悠久のささやき」は、7万粒のプラチナ粉で川の流れと水面のきらめきを表現した。
天然素材が相手の手仕事。思い通りにいかないことも多く、「漆を練っているのに、練られているのは自分」と話す。
仏壇や仏具などに蒔絵を施す工房の3代目。家業に携わりながら、大学では文学を学び、漆をモチーフにした詩集で2度、「H氏賞」の候補にもなった。カシオの腕時計に蒔絵を施すなど新たな試みをする一方で、文化財の調査や修復・復元も手がける。現在は京都産業大(北区)で京都の美術工芸史などを教えてもいる。
伝統的な工芸品が「日本人の生活文化を豊かにし、ものを大切にする心を育んできた」と話す。蒔絵漆器がプラスチックや合成塗料に取って代わられるなか、「地球環境を考えたら、大量生産・大量消費を続けていいのか。伝統技術と文化的価値を何としても後世に残したい」。(永井啓子)
からの記事と詳細 ( 「現代の名工」府11人に表彰 名工の理容師に散髪してもらいました - 朝日新聞デジタル )
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