メルセデス・ベンツ190Eと重なるイメージ
これは子ベンツの再来ではないか。それが新型Cクラスに触れた、私の率直な感想だ。子ベンツとは、バブル期の日本で大ヒットしたメルセデス・ベンツ190Eのことだ。少し190Eの話をしよう。同車は、1982年に登場したメルセデス初のコンパクトセダンであり、70年代のオイルショックで、省エネ志向の高まった世界市場への対応。そして、1975年にデビューしたBMWのコンパクトモデル3シリーズの打倒を掲げ、開発された。そんな190Eは、全てが新設計となる意欲作で、メルセデスの上級モデル同様の高い品質と安全性を備えていた。つまり、当時のメルセデスの美味しい部分が凝縮された贅沢な小型セダンだったのである。そのイメージと新型Cクラスが重なったのだ。 新型Cクラスを現代の小ベンツといえる大きな理由のひとつが、メルセデスのフラッグシップサルーンSクラス譲りの最新技術だ。各社ともに、最新の技術はフラッグシップモデルを皮切りに、順次採用されていくものだが、メルセデスの場合、Sクラスの技術が、早くもCクラスにつぎ込まれる。これは近年のCクラスのセオリーでもある。その代表的なメカとして、超高精度LEDモジュールを用いた「デジタルライト」、後輪操舵技術の「リア・アクスルステアリング」、縦型デザインのインフォテイメントディスプレイ、AR(拡張現実)表示を行うナビゲーションシステム、最新世代の安全運転支援システムなどが挙げられる。これらの中には、Sクラスに続く採用が、Cクラスというものも多い。車格やサイズ、エンジン性能など違いはあれど、安全や先進性という面では、Sクラスと肩を並べる部分も少なくないのだ。それが幅広い層にCクラスが愛される秘密でもある。 内外装デザインも、しっかりとSクラス譲り。エクステリアデザインは、現行CLSから始まった新世代デザイン言語をベースとするが、ヘッドライトユニットデザインや優雅なサイドビューを構築する「キャッチウォークライン」、2ピースデザインのリヤコンビネーションランプなどの新たな特徴は、Sのデザインアイコンでもある。さらにS風味が強まるのが、コクピットデザイン。Sクラスより採用される縦型インフォテイメントディスプレイを備えるのは、まだ新型Cクラスだけ。 特徴的なエアコンルーバーや主な機能操作をタッチスクリーンとステアリングに集約した操作系統も同様だ。もちろん、Cクラスらしさもしっかりと主張する。エクステリアデザインは、ドライビングサルーンらしいスポーティさを強調し、コクピットもインフォテイメントディスプレイをドライバー側に約6度傾けることで、ドライバーズシート中心のレイアウトに変更されている。そこが後席までを意識したSクラスのレイアウトと大きく異なる点だ。 今回の試乗車は、新型Cクラスのエントリーであるとともに、主力も担うC200アヴァンギャルドだ。パワートレインは、新開発の1.5L直列4気筒ターボエンジンに、48Vマイルドハイブリッドシステムを組み合わせた電動化モデルとなる。従来型も、マイルドハイブリッド仕様の1.5Lターボエンジンであったが、エンジンを新開発し、さらにハイブリッドシステムも、12Vから48Vに強化されたのが大きな特徴だ。48V化で、アシストモーター出力も強化され、最高出力15kW(20.4ps)、最大トルク200Nmに進化。エンジン単体でも、150kW(204ps)/300Nmを発揮するから、モーターアシスト時の加速は大いに期待できる。もちろん、通常走行時もモーターアシストによるエンジン負荷低減とエネルギー回生が図れるので、燃費にも貢献してくれるのだ。 よりスポーティなビジュアルに生まれ変わったCクラスで箱根をドライブすると、ボディサイズが一回り大型化したにもかかわらず、従来同様、いやそれ以上に軽快な動きを見せる。なぜ、タイトなコーナーが連続する箱根でありながら、より操りやすくなったのか。その秘密兵器が、Sクラス譲りのメカ「リア・アクスルステアリング」だ。一般的には4WSとも呼ばれる機構で、走行状態に合わせて後輪に舵角を与える機能である。約60km/hまでは後輪を前輪と逆側に操舵することで、小回り性を高める。約60km/h以上では、逆に後輪を前輪と同方向に操舵することで、走行安定性を高める。だから、連続するコーナーでも、ボディサイズを意識させず、スムーズに駆け抜けてくれる。既に大型車のSクラスで後輪操舵の恩恵の大きさは体感済みであったが、Cクラスをこれほど身軽にしてくれるとは予想外だ。 48Vシステムも上り坂でアシストをしてくれるため、アクセル操作も微調整で済む。何も速く走るためだけのモーターアシストではなく、高級車の乗り味を高めることにも貢献してくれるのだ。この辺の味付けは、繊細なチューニングを行ったのではないだろうか。何しろ、エンジンとモーターが見事にシンクロし、モーターの存在を完全に黒子にしてしまっているのだから。また足回りも、新型ではエアサスペンションが廃止されてしまったが、その味も含め、電制ダンパーのみで再現。ドライバーがモード切替さえ行えば、滑らかなで快適な乗り味とシャープな切れ味の良い走りをスイッチさせることができる。 走れば走るほど、Cクラスが完璧な一台だという想いが強くなる。かつて子ベンツと呼ばれた190Eを手にした当時の人々は、小さなボディに、EクラスやSクラス譲りの高い走行性と上質さが備わっていることに驚きと感動を覚えたことだろう。しかも新型Cクラスは、あの頃のようなコンパクトセダンではなく、幅広い用途に応える程度なサイズのセダンに成長した。特に後席スペースは、歴代最大の広さを備える。まさにオールマイティなCクラスなのだ。豪華さや力強い走りは、さすがSクラスに及ばない。しかし、運転する愉しさならば、Sクラスを超える部分も多々あると感じる。今回の試乗シーンのようなタイトなワインディングを中心とした場所であれば、なおさらだ。ドライブしながら、脳裏には、これ以上何を望むのかという言葉が浮かんできた。現代の小ベンツは、下剋上も辞さないほどの凄みを持つ。ただその分、価格も成長してしまったのだけど……。 TEXT=大音安弘
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