Sunday, August 9, 2020

白い棺と挙げた「涙の結婚式」─ベイルート爆発「悲しみの象徴」となった花嫁の死 (クーリエ・ジャポン) - Yahoo!ニュース

白いウエディングドレスを着た君はいないけれど

4日、レバノンの首都ベイルートで起こった大爆発は、154人の死者(8月8日時点)と5000人を超える負傷者を出した。すべての死が計り知れない悲しみをもたらす悲劇であるが、なかでもある若い女性の死がSNSで拡散され、多くのレバノン人がその訃報に胸を痛めている。 米紙「ニューヨーク・タイムズ」によると、27歳のサハル・ファレスはベイルート港湾の火災に救急医療隊員として駆けつけたところを、爆発に巻き込まれ命を落とした。彼女は29歳のギルバート・カラーンと婚約しており、来年結婚式をあげる予定だったという。 6日におこなわれた葬儀は、ファレスとカラーンの「結婚式」を兼ねたものになった。前日の水曜日、カラーンはファレスが救急医療隊員の制服を着た写真とともに、次のように書いてSNSに投稿した。 「僕の美しい花嫁。2021年6月6日に予定していた僕たちの結婚式は、明日やることになったよ」 「愛している。愛しているし、君と再会するまで、これからもずっと愛している。再び会えたときには、一緒に僕たちの旅を続けよう」 そして当日、彼は白い棺に入った彼女と結婚式を挙げた。バンドが明るい賑やかな音楽を奏で、花びらが舞い散るなか、彼女の棺は霊柩車が待つ場所まで運ばれていく。 親族に肩車をされたカラーンは、泣きながら彼女に大きく手を振り、投げキスをした。これが彼らの最後のお別れだった。 「君が望んだすべてがここにある。白いウエディングドレスを着た君を除いては。」カラーンはSNSでそう書いている。「僕はもうすっかり参ってしまった。愛する人よ、君は僕の心を打ち砕いた。君がいなくなった今、僕の人生は何の味もしない」

火災現場から聞こえた「奇妙な音」

消防隊の職員として、ファレスはこの国に奉仕することを誇りに思っていた。また、ほとんど男性ばかりの消防隊で働く貴重な女性の一人でもあった。 火曜の夜、ベイルート港湾で最初の火災が発生すると、ファレスは同僚の消防隊員らとともに現場へ向かった。その時点で医療処置を必要とする者がいなかったため、彼女は消防車のなかに座り、現場の様子を伝えようとカラーンに電話をした。 しかし炎が燃え盛る音は激しさを増し、ファレスは消防車を降りた。彼女は火災現場から、彼女やチームが聞いたことのない奇妙な音がするとカラーンに言った。 カラーンはファレスに逃げるよう懇願した。彼女はその通りにしたが、遅かった。電話をつないだままの携帯の画面には、ファレスが安全な場所を探して走る足元が映り、それがカラーンが見たファレスの最後の姿となった。そして大爆発が起こった。 今回の爆発を受けて、レバノン国民の間では政府に対する怒りが強まっている。ファレスの故郷の村、レバノン北部の村アルカーの首長であるバシル・マタルは、ファレスの死を受けてこうコメントした。 「サハル(の死)は、この国に奉仕した結果、すべてを失った人々がたくさんいる、という若者たちへのメッセージです。レバノンが、このような犠牲と貢献に値する国だったらよかったのに。私たちの国がまともな状態であればよかったのに」 「人々はうんざりしています。私たちはサハルの死を誇りに思っていますが、同じくらい苦しんでもいます。なぜ? いったいなぜでしょうか? それは、機能不全のシステムがたった一つの問題も解決できないからです」 ファレスの死後、アルカーの村にあるスポーツ競技場には彼女の名前がつけられたという。

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