Tuesday, April 13, 2021

“非効率”なブライダル企業が、コロナ禍でもいち早く黒字化できそうな理由 - ITmedia

 新型コロナウイルスの影響で、ウェディング業界が軒並み赤字に苦しんでいる。

 2021年になったらコロナが収束し、人々の生活が元に戻り、顧客が戻ってくると期待された。しかし、20年末から第3波に襲われ、足元では“第4波”と指摘されるほど感染が拡大している。

 今後、外食や小売り、サービス業といった非製造業が、どこまで回復を見込んだ数字を出してくるのか。アナリストの間では、見解が別れているところだ。

コロナの影響で結婚式が減少(画像はイメージ)

黒字回復しそうな「ブラス」

 ウェディング業界でも、他のサービス業同様に感染対策が求められている。主力の結婚披露宴が、大人数で密な会食を伴う“集会”として、自粛を要請されている状況だ。業績が堅調だった各社が相次いで赤字になっている。

 そんな中、いち早く黒字回復の目処(めど)を立てているのが、東海地区を中心に展開しているブラス(名古屋市)だ。業界では、テイクアンドギヴ・ニーズやツカダ・グローバルホールディング(GHD)が大手で、新型コロナ流行前には売上高はそれぞれ600億円程度だった。ブラスの売上高は103億円で、業界内では中堅に位置していた(19年7月期)。

丁寧なサービスをウリにするブラス(出所:ブラス公式Webサイト)

 ブラスの20年7月期決算(19年8月〜20年7月)は、コロナの影響を受けたのが年度のうち半分だったにも関わらず、売上高79億円と大幅な減収になり、9.9億円もの営業赤字を計上した。

 筆者は同社の動向を継続的にリサーチしている。いつも笑顔だった河合達明社長は、コロナで赤字に転落してしまった20年7月期の決算説明会において厳しい表情を見せていた。コロナ禍でリモート開催のウェディングが注目される中でも、披露宴会場での結婚式サービスにこだわり続けると言い切っていたが、業績が厳しいだけに、悲壮感が漂っていた。

“非効率な経営”が逆に良かった?

 ブラスは3月、通期(21年7月期)で黒字化する見通しだと発表した。厳しい事業環境の中で、徹底的なコスト削減を進めるなど、売り上げがとれない環境への適応を進めてきた。

ブラスの河合達明社長(出所:ブラス公式Webサイト)

 他社もコスト削減を進め、赤字脱却に向けた取り組みを行っている。来期にはコスト削減の成果が出るだけでなく、コロナが収束して結婚式を行うカップルが増加すると見込まれることから、業績は回復する可能性が高い。大手の一角を占めるツカダGHDも、21年12月期で黒字転換を見込んでいる。しかし、中間期では営業赤字を見込んでいる。こういったことから分かるように、ブラスは他社より早く収益を回復できそうな状況だ(競合他社の多くが3月決算なので7月決算のブラスと比較しにくい面はあるが)。

 なぜ、ブラスはいち早く黒字化できそうなのか。それは、少ない式典数でも利益を出せるモデルを作ってきたことが影響している。あえて競合との差別化のために、“非効率な運営“を行ってきたことが、コロナ禍で効果を発揮したのだ。

差別化のために丁寧なサービスを提供

 ブラスは、河合社長自身が1998年に創業した。後発だったこともあり、差別化のために丁寧なサービスへのこだわりが強い。

 同社は1カ所の店舗(式場)で、同時に複数の挙式を開催しない運営を行っている。式場を”貸し切る”ことで、より丁寧な心のこもった挙式サービスを提供する。コロナ前の数字ではあるが、筆者が試算したところ、同社における1店舗当たりの年間挙式数は約150だった。一方、競合他社は、1店舗で複数の挙式を同時刻に行うため、200〜400という水準だ。

ブラスが掲げる創業の背景(出所:ブラス公式Webサイト)

 ビジネスにおいては、資産を効率的に活用するのが鉄則だ。競合他社は、店舗内で同時に複数の挙式を開催することで、効率的な事業資産の活用を実現している。

 しかし、ブラスは、この非効率さゆえに、第3波、第4波にさらされ、挙式件数が増やせない事業環境の中でも、利益を残せるのである。

ブラスは顧客満足度調査で3年連続1位(出所:オリコン公式Webサイト)

 ブラスは、オリコンの顧客満足度調査「ハウスウェディング部門」において、3年連続で顧客満足度1位を獲得している。これは、他社がやりたがらない非効率な戦略を採用することで、顧客が満足するサービスを提供できた結果だ。

非効率だから需要減でも対応できる

 あえて効率性を犠牲にするモデルを構築することで、他社がマネできない強さを手に入れる。そういった企業が、しぶとく利益を出していく現象は、これから起きてくるだろう。

 新型コロナの影響で、結婚式を仕方なく延期しているカップルはたくさんいる。コロナ収束後に“挙式ラッシュ”が起きて、ウェディング業界に活況をもたらすことになるだろう。

 しかし、長い目で見ると、国内のウェディング業界が厳しい事業環境に直面するのは間違いない。少子化が定着してしまった日本においては、結婚適齢期とされる人口が減少していく。婚姻数が減り、結婚式を挙げる需要自体が減少してしまうからだ。矢野経済研究所が20年7月に発表した「ブライダル市場に関する調査」によると、14年の市場規模は2兆5649億円だったが、18年には2兆3870億円にまで縮小している。同研究所は、その背景として、婚姻件数減少、なし婚(結婚式をしない)層の増加、披露宴の少人数化に伴う組単価の低下などを挙げている。そして、今後もブライダル関連分野への支出低下が懸念されるとしている。

ブライダル市場の推移(出所:矢野経済研究所公式Webサイト)

 今後、複数の挙式を行うことを前提とした店舗設備を保有しているウェディング企業にとっては、その効率性を維持するハードルが高まっていってしまう。

 人口減少に伴って、国内でさまざまな需要が減少する未来においては、“量をさばく”ことで経営効率を高めるモデルのほうが非効率になってくるだろう。

 ブラスは、社歴が長くないため競合大手と比べて社員も若い。このため、経験やスキル面で競争力向上に課題はあるだろう。しかし、挙式需要が減ってしまう未来においては、“非効率”を付加価値に変えるブラスの戦略は、競争力をもたらす可能性がある。

 ウェディング業界に限らず、他の業界においても“非効率”を弱点でなく強みにできる企業は要注目だ。

著者プロフィール

小島一郎

株式会社分析広報研究所 チーフアナリスト・代表取締役

 年間1000社の上場企業への継続的なリサーチ活動を行っているアナリスト。独自リサーチを基盤に、企業に対して広報や企業価値向上施策に関するコンサルティングを行っている。

 1997年上智大学経済学部卒。入社した山一證券で山一証券経済研究所企業調査部に配属されるも破綻を経験。日本マイクロソフトを経て、大和総研企業調査部にて証券アナリストを行う。日経金融新聞(現日経ベリタス)、エコノミスト誌の人気アナリストランキングに名を連ねた。その後、事業会社に転身、上場物流不動産会社、上場ゲーム会社、上場ネットサービス会社で広報IRや経営企画に携わる。2012年独立。リサーチアナリストや事業会社での実務経験を生かして、企業価値向上を戦略面、広報実務面でサポートする株式分析広報研究所を設立し現在に至る。企業価値向上の実績を積み上げている。

 アナリスト、コンサルタントとしてビジネス媒体中心に記事執筆。全国紙、地上波等でのコメント紹介多数。リサーチの現場からもつぶやいている


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