本稿は新型コロナウイルス(COVID19)に対する、主に飲食店側からみた衛生管理の個人的な指針です。いま予約キャンセルという逆風が吹いている飲食店にできることはあるのでしょうか。各機関(厚生労働省、WHO(世界保健機構)、米国CDC(疾病予防管理センター)のガイドラインなどを元に、取り組むことのできる対策を考えてみたいと思います。
日本でも25日に「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」なるものが発表され、26日にも「大規模イベントの中止や延期要請」が行われました。24日の時点でここまでは規定路線だったと思われます。結果、26日に行われるはずだった大阪・京セラドームのEXILE、東京ドームのPerfumeの2DAYSのそれぞれ2日目の公演が急遽中止となりました。
新型コロナウイルス(COVID-19)は、いまだ未知の部分が多く、専門家さえ「飛沫感染や接触感染が中心」と言いながら「例外的に咳やくしゃみのない人から会話などで人に感染させてしまう可能性が否定できません。ここが厄介なのです」と悩ましさを隠そうともしないウイルスです。
となれば、一般の生活者が不安に駆られて外食や外出を手控えるのは無理からぬ流れです。大手企業でもリモート勤務や会合禁止のお達しが出される状況下で、飲食店の置かれた現状は決して楽観視できるものではありません。今後も予約のキャンセルはあるでしょうし、当面かなり厳しい局面が続くと思われます。
とはいえ何もできないわけではありません。生活者もそういつまでも鬱々と引きこもってはいられないし、「リスクの低い飲食店が空いている」となれば足も向いてきます。つまりどうすれば、「とりわけリスクの低い店」だということをわかってもらえるかが、カギになります。
「うつらない、うつさない」姿勢の可視化
前提1 手指の徹底消毒とマスクの着用
何はともあれ手洗いです。厨房で調理に関わる方は言うまでもありませんが、今回の件で重要なのはサービススタッフ。大げさかもしれませんが、洗いたての皿やカトラリー以外のものに触れたら、常に手洗いするくらいのつもりでいることが必要です。トイレに出入りした後はもちろん、会計でお金を触った後などもていねいな手洗いを心がける。電話やスマホを触った後も手指を消毒する必要があります。
マスクは「客に失礼だ」という抵抗感があるかもしれませんが、今回のウイルス騒動は少なくとも数か月には及びます。サービス従事者にはマスクが求められるようになり、むしろマスク姿に、客は安心感を覚えるようになるはずです。いつかマスクの必要ない日が来たら、そのときに最上の笑顔で接客すればいいのです。
※厚生労働省のHPより
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/dl/poster25b.pdf
前提2 新型コロナウイルスと衛生についての情報共有
戦いにもっとも必要なのは「情報」です。新型コロナについては、まず、その日の時点で最新の「裏付けのある事実」をスタッフ全員が共有することが必要です。特に接客にあたるサービススタッフは裏付けの取れた情報を頭に叩き込んでください。TwitterなどSNSの情報は必ず新聞報道やソースをたどってウラを取るよう心がけてください。状況は毎日のように変わっていきます。次々上書きされる最新情報は、土台に正しい知識があってこそ活かすことができます。
厚生労働省の「新型コロナウイルスを防ぐには」はもちろん[ 「新型コロナウイルス感染症について」]あたりの全般的な知識も入れておきたいところ。
ほかYouTubeの告発動画で話題になった[ 岩田健太郎先生のTwitter]や厚生労働省内部で奮闘される高山義浩先生のFacebook、北海道科学大学の岸田直樹先生のTwitterなど、最前線の医療従事者から発信される情報はチェックしておきましょう。
最初はわかりにくくても、情報に触れ続ければ必ず理解は進みます。不安に駆られ、デマを巻き散らかすようなお客にもうまく対応するには、、事実をスタッフ同士で共有できる仕組みを作り、正しい情報に基づいたサービスを心がけることが必要です。
前提3 カトラリーや取り皿、テーブルの衛生管理の徹底
そもそも飲食店である以上、衛生管理が大切なのは言うまでもありません。当面は、カトラリーや取り皿は客の人数分以上提供するのがいいでしょう。その分、取り分け用の取り箸やトングも必ず多めに提供し、客が「直箸」をせずに済むような環境を整えてください。
卓上に人数分以上のカトラリーを提供して、悪気はなくとも使わなかったカトラリーをケースに戻すお客がいて、万が一キャリアだとしたらそこから感染が広がります(ドアノブ等と同様、触れたカトラリーには菌が付着します。つるつるした表面の素材では菌は数十時間も生きると言います)。
取り箸やトングなどは最初から普段の2倍の数を提供するくらいのつもりでいいかもしれません。さらに追加の取り皿などを求められたら随時対応しましょう。とにかく直箸は避けてもらう導線を引くのです。
できれば、デーブルもアルコールや次亜塩素酸ナトリウム水溶液(塩素系漂白剤を希釈したもの)などを使ってふき、一度使ったふきんやダスターは熱湯、もしくは塩素系漂白剤で消毒をするのが望ましく、料理も大皿で見せた後は厨房で取り分けて提供するのが理想です。
ただし、そこまで潤沢なサービスができるかというと、バランスが難しいところ。全体のオペレーションが崩れて、スタッフの手指消毒がおそろかになってはいけませんし、料理やドリンクの注文にも応えていかければなりません。
店として客に伝えるべき心がけは「当店は正しく、新型コロナウイルスCOVID-19を怖がっています」ということ。最良の手段は「いかに正しい手法で衛生管理に気を使っているか」を見せることです。「症状がなくても、例外的に感染させてしまう可能性」がある以上、100%の安全を保障するのは難しい。それでも感染リスクを下げるような行動・施策を重ねれば、感染確率は下げることができるはずなのです。
飲食店にこそ求められる水際対策
この数日のキャンセルラッシュからもわかるように、いまはお客も飲食店での会食を怖がっています。そしてお客がもっとも怖がっているのは、「うつされる」こと。とにかく「うつされにくい店」だと理解してもらうことも必要です。SNSや立て看板、メールなどで「当店の取り組み」をきちんと届けましょう。
このご時世、何を言ってもキャンセルする客はキャンセルします。ならば、現段階で予約の入っているお客に意思確認の電話をこちらから入れる。少しハードルは高くなりますが、「●日のご予約のご確認とお願いがあり、お電話しました。現在、みなさまにご安心いただくために、ご来店時に体温測定へのご協力をお願いしています。非接触式の検温です。ご協力をお願いできますか」というふうに検温への協力をお願いしてみる手もあります。
午後に熱が上がる体質の人もいるので何度で線を引くかは判断が難しいところですが、最近よく耳にする37.5℃(と咳の有無)はひとつの基準になるかと思います。数日~2週間以内の予約客については、早めに予約確認の電話を入れ、同時に検温について伝えることが、結果としてお客と自店を守ることにつながるはずです。
検温には抵抗感を持つ人もいるでしょうが、「衛生面に気を使っている」と好感を持つお客もいるはずです。検温は本質的には客を守ろうとして行っているわけですから。空港などで見かける非接触型の体温計なら、不快感も比較的少なくて済むかもしれません。ただし非接触式の体温計は製品のクセや測り方によって、数値がブレます。事前にスタッフ同士で測ってみて、体温計のクセをつかむのも重要です。
ちなみに予約確認時に相手がキャンセルを切り出しそうになったら「また近くなったら、確認のご連絡を差し上げます。もしそのときにご不安でしたら、遠慮なくキャンセルなさってください」などと伝えれば当面の時間は稼げるでしょうが、素直に受け入れたほうがいいお客もいると思います。このあたりの運用は難しい。実際この先どうなるかは、誰にもわかりません。とにかく体調の怪しい客からうつされて、もっとも困るのは店であり、他の客であるということをくれぐれもお忘れなきよう、お願い申し上げます。
検温と入店時のアルコール消毒を徹底すれば、お客にも感染防止への本気は伝わるはず。現在、小さいサイズのアルコールはなかなか手に入りませんが、ネットの海を探せば一斗缶(18リットル)入りのものなどは、まだ残っていたりもします。
食洗機とキャッシュレス
その他、とにかく誰かが触ったところ、飛沫が飛んだ可能性がある場所の掃除は徹底してください。タブレットやカードの端末をお客が操作したり、カード払いのサインなどにペンタブレットを使う店も増えています。タブレットなども保菌しやすいとされています。アルコール等で消毒し、手指も洗浄・消毒といきましょう。
食器は少量でも手洗いせず、高温で洗える食洗機を使うべきです。そのほうが長時間、高温で洗浄できます。
ほか現金とクレジットカード決済しか選択肢がない店舗は、キャッシュレス決済を導入する機会かもしれません。客の手に直接触れるのも本事案ではリスクになります。クレジットカードもまったくリスクがないわけではないでしょう。とにかく何かに触ったら、すぐ洗浄・消毒を徹底する。
非接触型のキャッシュレス決済なら接触感染のリスクは下げられます。対して、現金は硬貨や札の汚染レベルや感染力がはっきりしていません。少し前にNewsweekがこんな記事を掲載していました。
「お札を消毒するだなんて冗談みたい」だと思われるかもしれませんが、実際のところいま日本では感染者が増えていて、中国では感染者の増加が鈍化しつつある。それが現実です。
先ほどまで申し上げたような衛生施策をやりきるのは、正直相当にたいへんだと思います。お客とのコミュニケーションもうまく取れるか微妙なところもあります。一言で「自粛」と言いますが、この言い方は決して妥当だとは思えません。今回はCOVID-19というウイルスを恐れているわけです。つまり市民は周囲に合わせて「ムードで自粛しているのではなく、感染リスクが怖いから、できるだけ外出を避けていると考えたほうが妥当でしょう。ならば「低リスクである」ことを理解してもらう努力が必要です。
起きていることは、9年前と同じ。2011年の東日本大震災後に原発事故が起きたとき、「被ばく」を恐れ、街から人は消え、飲食店には閑古鳥が鳴きました。当時、人々が恐れていたのは(人体にとっては遅効性の)放射性物質だったことなどから、数か月とたたずに飲食店に人は戻ってきましたが、今回のウイルスは潜伏期間が数日~数週間と言われています。リスクは小さくとも、死に至る可能性もあるCOVID-19。
こうした対策を全部が全部できるわけではないでしょうし、他にも手はたくさんあると思います。考えるべきは空いた時間で何をするか。最後の最後は運を店に任せることになるのかもしれません。しかしまだ未知なる面も多い、COVID-19に対しては万全に万全を重ねて、料理やサービスを掌握することで店内感染の確率を下げることができます。この他にも小規模飲食店なら、対ウイルス機能を謳った空気清浄機をやや過剰なほどの台数を設置したり、隣と必ず1席分空けるなど席の配置を工夫すれば、確率をさらに下げられるかもしれません。どうすれば、お客は安心感を得られるのか――。いまはそれだけを考えてもいい時期なのかもしれません。
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February 27, 2020 at 09:22AM
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