オーディオイベントで試聴ソースとして用意されていることも多いオーディオチェックの定番曲から、2010年以降リリースの楽曲をピックアップしました。現代の曲ならではのポイントはまず低音。サブベースと呼ばれる超低域までの幅広い帯域を活用するサウンドデザインに注目です。エレクトリックサウンドの空間表現、アコースティック録音における空間キャプチャーの進化にも驚かされることでしょう。
■Hoff ensemble「Dronning Fjellrose」
幻想的な曲調と響きが印象的なアコースティック&女性ボーカル作品です。ノルウェーの教会にリスナーに見立てたマイクをセッティング。それを各楽器の奏者が取り囲んで演奏するというマイクセッティングで録音されたというその空気感は、まさにその場所でしか生まれずその場所でしか録音できない唯一無二のもの。音を通して空間を捉える、そのような録音の代表と言えるでしょう。唯一のエレクトリックな楽器として参加するギターの、アコースティックな響きの中に溶け込むフレージングと音作り、その浮遊感や美しさにも注目です。
■Daft Punk「Get Lucky」
ナイル・ロジャースさんを筆頭にレジェンダリーなミュージシャンが結集してのディスコ・ファンクです。制作においては、各楽器をアナログテープとデジタルの両方で同時録音、テープ録音素材も録音後にデジタルに取り込んでおき、両者をエディットやミックスの時点で適宜使い分ける手法を採用。往年の生演奏の感触と現代的な録音と編集による感触を兼ね備えるハイブリッド作品の代表です。オーディオ的には例えばベースに注目。あえてモコモコさせたふくよかな音色で演奏されており、だからこそオーディオ側にはタイトな低音再生能力が求められます。低音がブーミーな環境で聴くとボワンボワンになってしまうのです。
■Esperanza Spalding「Black Gold」
ベーシスト、ボーカリスト、コンポーザーとして高い評価を得ているエスペランサ・スポルディングさん。歌とベースが一体化しているようでもあり、それぞれ独立して自在に動いているようでもあるその様子は、ジミ・ヘンドリックスさんの歌とギターを想起させます。この曲はバンドサウンドを柱にブラスやオルガンなど様々なサウンドが絡み合いますが、それでいて全体の適度なセパレーションや透明感も確保。音楽的にもオーディオ的にも見事に構築されています。オーディオの総合力チェックも任せられる優秀録音です。フレットレスベースならではのニュアンスやそこから生まれるグルーヴも音楽とオーディオの両面で要チェック。
■Robert Glasper Experiment「Human」
1980年代のシンセ・ポップを、10年代以降を代表するミュージシャン、ロバート・グラスパーさんがカバー。聴き比べると時代性を強く実感できます。オーディオ的に特に見落とせない要素はやはり超低域。この曲も、太さや厚みを生み出す低域よりさらに低い、深さや沈みを生み出す超低域、サブベースに支えられています。なのでサブベースを再生しきれない環境で聴くと、低音楽器の重心が超低域から低域に浮かんできてしまい、曲の雰囲気が損なわれてしまうのです。また再生環境次第で、曲に含まれるクラブ/ヒップホップ/ソウルなどの成分のうちどれが前に出てくるかも変わりやすいので、そこに注目してのチェックも面白かったりします。
■上原ひろみ「Alive」
ピアニスト上原ひろみさんが、ベースにアンソニー・ジャクソンさん、ドラムスにサイモン・フィリップスさんという超強力メンバーと生み出した作品。ジャズのピアノ・トリオと言われると静かなものが想像されやすいかもですが、この曲はその枠外。スーパープレイヤーたちが複雑なリズムの上で高速ユニゾンを決めまくるフュージョンやプログ・メタルが大好物!なんて方にもおすすめできるアグレッシブな曲です。そしてそれ故に、多弦ベースによる幅広い音域のフレーズをふらつかない安定した音像で描き出せるか、馬鹿みたいな手数のドラムスを捌き切れるかなど、演奏の難易度に比例するかのようにオーディオ再生への要求も厳しい楽曲でもあります。
本プレイリストはApple Musicで公開中。すべての曲が配信されており、試聴可能です。
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