パナソニックがB2B分野におけるHD-PLCの導入に本腰を入れている。電波法の規制緩和により、工場などで利用される600V以下の三相3線での使用が可能になったことに加え、鋼船での利用が認められ、利用範囲が拡大。屋外、広大な場所、既存建物など、これまで難しいとされていた場所でのネットワーク構築を後押ししている。
パナソニック ライフソリューションズ社エナジーシステム事業部パワー機器BU市場開発部の寺裏浩一氏は「PLCは、実は10年以上に前に確立した技術で、当時は450kHz以下の低い周波数を使った電力線通信だった。その後登場したのが2〜30MHzの使用が認められたHD-PLC。この登場によって広く産業用途でも使える形に進化してきた」と説明する。
HD-PLCとは
現在は第3世代になっており、親機と子機を1対1で通信させていた前世代に比べ、端末機を使い、情報信号をバケツリレーで送るマルチホップ技術を搭載することで、長距離通信を実現。以前は間に分電盤を介すると信号が減衰し、通信ができないといったデメリットがあったが、分電盤に子機を設置することで、産業用としても使えるようになったという。
マルチホップ技術
寺裏氏は「配線工事コストの大幅削減や既設の電線を有効活用することで、配線工事コストを大幅削減できるほか、工期の短縮、軽量化につながる。施工時おける躯体の損傷を軽減できるほか、無線LAN使用時に起こる躯体等による通信障害を回避。現場作業者の手配、日程調整レスによる効率化につながる」とメリットを説明。一方で「数Gbpsといった高速通信はできないため、すべてのネットワークが置き換わるわけではない。Wi-FiやLANでは届きにくい場所などを補完できる第3の通信手段として採用してもらえれば、ネットワークの最適化が図れる」と選択肢の1つとして打ち出す。
パナソニック ライフソリューションズ社エナジーシステム事業部パワー機器BU市場開発部の松崎章氏は「HD-PLCは、電設資材配電インフラを『配電情報インフラ』へ進化させる主要技術。これは、パナソニックの創業商品である二股ソケットに通じる商品特徴を持つ。二股ソケットは照明と同時に家電にも電気が使えるように開発され、HD-PLCは、電力線を電力供給とデータ伝送の2つの用途に利用できる。PLC技術は現在の二股ソケットといえる」と位置づけを話す。
HD-PLCは現代の二股ソケット
今後狙うのは、Wi-Fiが届かずLAN工事が難しいとされる地下や船舶、トンネル、工場、屋外といった場所だ。「HD-PLCは産業分野で広く使われ始めている。この分野ではIoTデバイス数の成長率が19.8%ある。一方、HD-PLCの搭載デバイスは2020年度に累計400万個を達成。2023年度には690万個に成長する見込みだ」(松崎氏)と期待を寄せる。
ネットワーク技術比較
HDPLCが求められる環境
既存の電源線を活用できるという強みをいかす
採用事例も積み上げている。名古屋大学の外国人研究者と留学生向けの寮である「インターナショナルレジデンス東山」では、リモート授業の増加に伴うネットワークへの負担解消が喫緊の課題となっていた。学生からの要望により、早急に工事を完了させる必要があったが、有線LANの場合は入札に約3カ月、工事に約1カ月、光ケーブルでも工事に約2週間が必要と見られていたという。ポケットWi-Fiを貸し出すという手もあったが、それでは、月に27万円ほどの回線使用料がかかってしまう。
そこで、HD-PLCの導入を検討。既存電源線を活用するため、工事は2~3日で終えられ、PLCアダプターの発注から工事完了まで含めても約3週間で完了。既存電力線の活用により、工事費用は当初の予算から約50~60%削減できたという。
HD-PLCは電波法の規制上、出力に制限があり、通信速度の実効値は最大値20Mbps程度。これをすべての住戸となる137室で分割すると超低速になってしまうが、使用している系統を、キュービクルの分岐ブレーカごとに複数に分割。それぞれのネットワークにおける居室の割り当てを減らすことで、最大7戸で20Mbpsを使用できるようにしたという。
このほか、建物の構造から有線LAN配線の工事が難しかった旅館に、既存の縦配線にHD-PLCを通すことで、無線LANのアクセスポイントを整えたり、コンクリートの躯体のため、無線LANや4Gの電波が届かず通信環境の整備が難しかったマンション地下駐車場に管理室の分電盤を介して地下駐車場にネットワークを運び、通信できる環境を構築したりと、有線LANやWi-Fiでは諦めざるを得ないシーンでのネットワーク構築を実現しているとのこと。
また、配線距離が合計400メートルに及ぶ屋外グラウンドの長距離通信工事を、電源線を使用することで構築したり、携帯電話の電波も無線も届かないトンネル内での連絡手段として、現場事務所から光ケーブルをトンネル入口まで持っていき、そこから200メートル置きにPLCアダプターを18台設置することで、入り口から約4キロメートルの範囲で外部との通信が可能になったりと、屋外での導入もすすめる。
6月には電波法の規制緩和により、従来から使用が認められている単相交流(100、200V)に加え、主に工場などで利用される600V以下の三相3線での使用が認められたほか、これまで使用が認められていなかった船舶において、鋼船での利用が可能になるなど、利用範囲を拡大。「現場に欠かせないネットワークをHD-PLCを使って構築することで、電波の届かない閉鎖空間やWi-Fiが届かない場所などでもネットワークインフラを構築できる。これにより、現在の課題である労働力人口の減少にも役立てると考えている」(松崎氏)と課題解決にも寄与する。
電波法の規制緩和により利用範囲が拡大
松崎氏は「より多くのお困りごとを持った人に対してHD-PLCで解決手段を提供できると考えている。2023年度ごろには、第4世代のリリースも予定されており、市場をさらに拡大させていきたい」とした。
からの記事と詳細 ( パナソニック、電力供給とデータ伝送を実現する「HD-PLC」は現代の二股ソケット - CNET Japan )
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