Saturday, July 17, 2021

[サイエンス Report]ネアンデルタール人 滅びた謎 : 科学・IT : ニュース - 読売新聞

 現生人類(ホモ・サピエンス)に最も近縁とされる古代型人類ネアンデルタール人は、約4万年前に絶滅した。なぜ彼らは滅び、ホモ・サピエンスだけが生き残ったのか。世界の研究者たちが、「交代劇」の謎を解き明かそうと試みているが、真相はまだ明らかになっていない。

 (編集委員 芝田裕一)

 「現代人はネアンデルタール人から新型コロナウイルス感染症の重症化を防ぐ遺伝子を受け継いでいる」

 今年2月、沖縄科学技術大学院大の研究論文が話題になった。発表したのは、同大教授を兼ねる独マックス・プランク進化人類学研究所長のスバンテ・ペーボ博士。古代人のDNAを解読し、現代人の祖先とネアンデルタール人が交雑していたことを突き止めた研究者だ。

 ネアンデルタール人由来の重症化を防ぐ遺伝子は、現代人の12番目の染色体にある。体内でコロナウイルスの遺伝情報(RNA)を分解する酵素の働きを強め、重症化のリスクを約20%下げるという。この遺伝子は、日本人の約30%が持つ。

 驚いたことに、現代人は新型コロナ感染症を重症化させる遺伝子も、ネアンデルタール人から受け継いでいる。日本人はほとんど持たず、南アジアの人は約50%が持っているという。

 ネアンデルタール人は、なぜ絶滅したのか。仮説の一つに、アフリカから世界に広がったホモ・サピエンスとの交雑で、ネアンデルタール人の間でアフリカ由来の深刻な感染症が広がり、人口を減らしたという「疫病仮説」がある。

 病気に関係する遺伝子の研究が注目されるのは、この仮説を検証できる可能性があるからだ。高い精度で解読されたネアンデルタール人のDNAの数が増えれば、その手がかりをつかめるかもしれない。

 2000年代初めまで有力だった仮説は、「ホモ・サピエンスは抽象的な思考ができて高度な言葉を操るなど、ネアンデルタール人より優れていた」というものだ。

 しかしその後、ネアンデルタール人が作った石器や洞窟の壁画、装飾品などの考古学的な証拠が増えた。これらの考察から、現在はホモ・サピエンスに近い能力を持っていたと推測する研究者が多くなっている。

 ネアンデルタール人の研究を続けてきた東京大総合研究博物館長の西秋良宏教授(先史考古学)も、そうした一人だ。「私自身、ネアンデルタール人は劣っていたと考えていた。今はそれほど差がないと思っている」と振り返る。

 すると、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の運命を分けた差は何か。ホモ・サピエンスには、ネアンデルタール人にない「発明の才」があった、という説は根強い。

 東北大東北アジア研究センターの佐野勝宏教授(先史考古学)らは、イタリア南部のホモ・サピエンスの遺跡で見つかった約4万5000年前~4万年前の石器に、弓か 投槍とうそう 器という道具によって、高速で投射された痕跡があることを発見した。効率よく安全に獲物を仕留められたホモ・サピエンスが、生存競争で優位に立ったと推測している。

 だが、投射痕のある石器が見つかったのは、この遺跡だけだ。将来、ネアンデルタール人の遺跡から、同様の石器が出てこないとも限らない。

 2010年代に関心を集めたのは、ホモ・サピエンスが犬を飼い始めて狩猟の成功率を高め、ネアンデルタール人より優位に立ったという説だ。

 ただ、現代の犬が登場したのは約1万5000年前と推定されている。ネアンデルタール人が絶滅した約4万年前に、犬の祖先であるオオカミが家畜化されていた証拠はない。

 東大の近藤修准教授(形態人類学)は、今年3月に出版された大学生向けの自然人類学の教科書「人間の本質にせまる科学」の中で、ネアンデルタール人の絶滅を考察する11もの仮説を比較し、検討している。どの仮説も単独では弱いと考える近藤さんは、「絶滅の理由はわからない」と嘆き、担当した章の最後で「ホモ・サピエンスが生き残ったのは偶然の結果にすぎない」という英国人研究者の見解を紹介している。

  ◆ネアンデルタール人 =学名はホモ・ネアンデルターレンシス。1856年にドイツのネアンデル谷で発見された人骨などにちなんで名付けられた。眉の部分が隆起し、鼻から口にかけて突き出た顔、がっしりとした筋肉質の体が特徴だ。約30万年前から欧州を中心とするユーラシア大陸で暮らしていた。アフリカを出たホモ・サピエンスが欧州に進出したのは約4万5000年前と考えられており、両者は少なくとも数千年間は、ほぼ同じ地域にいたとみられる。

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