Saturday, July 31, 2021

カリブ諸国、デジタル通貨で「現代の海賊」に対応できるか? | JDIR - JBpress

 次に、カリブ諸国では銀行サービスにアクセスできない人々がなお多いことです。中央銀行デジタル通貨をノンバンクの提供するスマートフォンアプリ経由で使えれば、こうした銀行口座を持たない人々もデジタル決済手段を持てることになります。すなわち、「金融包摂」(financial inclusion)の観点からも、中央銀行デジタル通貨が求められやすい事情があるのです。

 また、現金を流通させるコストが相対的に高いことも挙げられます。カリブ海に点在する島国においては、国中にあまねく銀行券を行き渡らせることが容易ではないという事情があります。

 さらに、カリブ諸国はハリケーンに見舞われることが多く、物理的なインフラの分断が比較的頻繁に起こり、銀行の支店やATMなどが休止したり、現金の配送が滞ることがあります。このような事情からも支払決済が円滑に行われるインフラが求められていました。

 加えて、デジタル技術の世界的な普及も挙げられます。今回のDCashはバルバドスの企業が技術サポートを行うなど、カリブの小国にとっても、デジタル通貨を発行するテクノロジーが利用可能になっています。現金を物理的に流通させるインフラを整備していくよりも、一足飛びにデジタル技術の採用を目指した方が迅速かつ安上がりと捉えられているわけです。

「現代の海賊」への対応

 もちろん、デジタル通貨の普及に向けては課題もあります。とりわけ、複数国が共通で用いるデジタル通貨は、ハッカーにとっても目立ちやすい存在といえます。したがって、外部からのハッキングや不正なデータへのアクセスから、インフラやデータをどう守るかは、大きな課題です。

 カリブと言えば思い浮かべるのは「海賊」であり、海賊の獲物の典型的なイメージといえば、宝箱から溢れる金貨でしょう。

 そして現在の海賊といえば、コンピューターシステムをハッキングしてデジタル資産を盗取したり、ランサムウェアを侵入させ身代金を要求するハッカーです。彼らは海賊同様に神出鬼没、かつ、攻撃の場所も海上に限られません。これらの海賊からデジタル通貨やデータなど現在の財宝を守れるかどうかは、デジタル通貨の普及を左右する大きな鍵といえます。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。

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