YOSHIDAで体験する、高級時計への旅 ~第117回~
2020.12.18

文:名畑政治 / Text:Masaharu Nabata
編集:戸叶庸之 / Edit:Tsuneyuki Tokano
近年、かつて黄金時代と呼ばれた1940~60年代を凌ぐ勢いで複雑時計が生まれている。中でもスイス最高峰の時計メゾンの名を恣にするPATEK PHILIPPE(パテック フィリップ)では、永久カレンダーやミニット・リピーターを始めとする複雑機構を組み合わせた超複雑時計をいくつも実現している。そこで今回は東京の名店として知られるYOSHIDA(ヨシダ)が自信を持って時計愛好家にお勧めできる、パテック フィリップが生んだグランド・コンプリケーションの名品の数々を紹介する。
時刻を鐘で知らせるRef.6301P
、現代の複雑時計の頂点モデル
音を鳴らして時刻を知らせる時計を「ストライキング・ウォッチ」と呼び、「リピーター」と「ソヌリ」がある。「リピーター」とはユーザーがレバーやボタンなどの操作で鐘を鳴らす機構。「ソヌリ」は操作なしで自動的に時を打つ機構をいう。
このような機構がなぜ生まれたのか? 諸説あるが、もっともロマンチックなのが、「ヨーロッパの闇が生んだ」という説である。
18世紀のヨーロッパ。パリもロンドンも夜は闇に包まれ、室内の明かりもロウソクか灯油のランプ。街灯としてのガス灯が普及するのは18世紀末から19世紀だから、18世紀のヨーロッパの夜は闇が支配していた。こんな中、ポケットから懐中時計を取り出して時刻を読み取るのは難しい。
そこで時計を懐中から取り出さずともチャイムが時刻を知らせてくれたら、どんなに便利だろう。そしてなによりも時計を取り出さずに時刻を知ることは、実に粋な所作だったに違いない。そこでまず目覚まし時計のベルを小さくしたような鐘を懐中時計に収め、初期のストライキング・ウォッチが作られた。
やがて18世紀の終わり、ブレゲがムーブメントを取り巻くワイヤー型のゴングを開発して懐中時計に搭載。この新しいリピーター機構は繊細で澄んだ音色を実現すると同時に、懐中時計の大幅な薄型化に貢献したのである。
現代のリピーターやソヌリも、この発明の上に立っている。パテック フィリップのグランド・コンプリケーションにラインナップされている「Ref.6301P パテック フィリップ・グランドソヌリ」は、3つのゴングを装備し、古典的な3ゴングによるミニット・リピーターに加え、正時と15分ごとに自動的に鐘の鳴るグランドソヌリ、正時はグランドソヌリと同様だが15分ごとは“時”の音が省略され、“クォーター”の音のみが鳴るプティットソヌリという超複雑機構を装備。まさに現代の時計技術を結集して生まれた超複雑時計の名品である。
伝統の技法に則った永世定番
、Ref.5270 永久カレンダー搭載クロノグラフ
ストライキング・ウォッチと並び、複雑時計の頂点に位置するもうひとつの機構が永久カレンダーである。
これは月の日数の違いや4年に一度の閏年も含め、無修正で正しい暦を表示する機構である。(ただし、4世紀のうち3世紀は閏年が省略されるので調整が必要)
パテック フィリップの「Ref.5270 永久カレンダー搭載クロノグラフ」は、この無修正で正しい暦を表示する永久カレンダーと経過時間の計測を行うクロノグラフを融合させた超複雑時計。
比類のないバランスで作り込まれた複雑な文字盤には、カレンダーとクロノグラフの多くの表示が整然と並び、圧倒的な視認性の高さを誇示するのだ。
もちろん、見どころはダイアルだけではない。サファイアクリスタルで保護されたケースバックからは、パテック フィリップが自社の工房で開発から製造までを行うCal.CH 29-535 PS Qの精緻な造形美を心ゆくまで堪能することができる。
かつて1940~50年代に製造された複雑時計では、このようなシースルーバック仕様はほとんど採用されていなかった。そう考えると、このようなケースバックの可視化によって、現代の時計愛好家は自らが所有する複雑モデルの機構と美しさを、かつて以上に思う存分楽しめる幸福な時代に生きているといえるだろう。
ブルーの本七宝ダイアル装備の
清新なスプリット秒針クロノグラフ Ref.5370P
もっとも身近な複雑機構といわれるクロノグラフ。しかし、2本のクロノグラフ秒針を備えたスプリット秒針クロノグラフとなると、その製造の難しさは格段にアップし、これを生み出すことのできるのは、やはり時計界での特別な地位を確保するメゾンに限定される。
パテック フィリップの「Ref.5370P スプリット秒針クロノグラフ」は、伝統的な技術を基盤としつつ、そこに清新な感覚を持ち込むことで、極めて現代的なセンスを感じさせる新たな名品である。
クロノグラフの積算計とスモールセコンドは、ダイアルの水平ラインより下に軸を備えることで、これまでとは一味違う感覚をアピール。
スプリット秒針クロノグラフは、ケース右側面上下とリューズ中心軸のプッシャーの操作により、たとえば次々にゴールする走者のタイムを計測するなどの複雑な計測が行える。
そしてなにより、高温で焼成された青いグラン・フー・エナメル(本青七宝)をベースに、ホワイトゴールドのブレゲ数字インデックスを植字したダイアルとブルーのアリゲーターストラップのマッチングは、かつてのエナメルダイアルのモデルとは、まったく異なるフレッシュな感覚に溢れている。
モダンかつヴィンテージな感覚を備える
Ref.5320 永久カレンダー
通常、永久カレンダーというと、いくつもの窓やインダイアルを装備し、これで日・曜日・月や閏年を表示するというのが常識になっている。しかし、パテック フィリップが生み出した「Ref.5320 永久カレンダー」では、このような常識に囚われることなく、新しい感覚によってきわめてシンプルで読み取りやすさにあふれた斬新な表示システムが採用されている。
曜日と月は12時位置にある小窓で並べて表示。日付は6時位置にあるサークルにおいて指針で表示する「ポインターデイト」と呼ばれるシステムが採用されている。
そして、このポインターデイトのインダイアルと同軸で月の満ち欠けを示すムーンフェイズ・インジケーターを搭載。閏年はそのインダイアルの右の丸窓で、昼夜はその左の丸窓で示される。
さらにクリーム色のダイアルには蓄光塗料をたっぷりと塗布した立体的なアラビア数字インデックスとこれに呼応する蓄光入りの針を装備することで夜間の視認性も確保。
ケースも、3つの段がついた立体的なラグを特徴とするモダン・ヴィンテージとも呼ぶべき新たな魅力に溢れている。
現代時計技術が生んだ新たな金字塔
、Ref.5208 ミニット・リピーター
ただでさえ作ることの難しい永久カレンダーとミニット・リピーター。これをひとつのタイムピースに同時に搭載することを実現したのがパテック フィリップの 「Ref.5208 ミニット・リピーター」である。
エボニーブラック・ソレイユのダイアルとローズゴールドのマッチングが美しい、このタイムピースには、719個の部品から構成されるCal.R CH 27 PS QIが搭載されている。
この超複雑なムーブメントには、時刻をチャイムで知らせるミニット・リピーター、ひとつのプッシャーで時間計測が行えるシングルプッシュボタン・クロノグラフ、タイムラグなしに日付が変更される瞬時日送り式窓表示永久カレンダーなどの機構が実装されたトリプルコンプリケーション・キャリバーである。
しかも、かつてこのような超複雑時計の多くが手巻きだったが、このモデルでは自動巻きを実現。中心をずらした位置に軸を持つマイクロローターのメカニズムを含め、精密かつ美しく仕上げられた稀有なムーブメントをサファイアクリスタルのケースバックを通してじっくり観察できる。
シンプルさに秘めた美しい音色
。時を鐘で知らせるRef.5078 ミニット・リピーター
一見すると、アラベスク模様の個性的な装飾が施されたシンプル・ウォッチにしか思えないが、実はケース左側面のレバーを操作することで時刻を分までチャイムの音色で知らせるミニット・リピーターというギャップが楽しい複雑モデル。
模様が刻まれたダイアルは高温で焼成されるグラン・フー・エナメル(本七宝)。これに繊細な技術を駆使してつや消しと光沢のポリッシュ仕上げによってアラベスク模様が施されている。
パテック フィリップの工房で開発から組み立て、調整まで一貫して製作されるCal.R 27 PSにはマイクロローター式の自動巻きが採用され、サファイアクリスタルのケースバックからその美しい姿を鑑賞できる。
【連載】「YOSHIDAで体験する、高級時計への旅」とは?
正規時計代理店YOSHIDA(ヨシダ)と、時計専門サイトGressive(グレッシブ)が、4名の執筆陣とともに送る連載企画。「なぜ、人は腕時計に惹かれるのか?」という普遍的なテーマのもと、名だたる一流ブランドの魅力に触れ、奥深い高級時計の世界へと誘う。
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