Saturday, November 21, 2020

アングル:混迷のレバノン、米仏の最後通牒でも進展しない理由 - ロイター

[ベイルート/パリ 17日 ロイター」 - 混乱に陥ったレバノン経済の救済を模索する西側有力諸国は、同国指導部に対して最後通牒を突きつけた。財政破綻した国家の全面改革を進める信頼性の高い政府が樹立されない限り、それも迅速に実現しない限り、今後の救済はない──と。

 混乱に陥ったレバノン経済の救済を模索する西側有力諸国は、同国指導部に対して最後通牒を突きつけた。財政破綻した国家の全面改革を進める信頼性の高い政府が樹立されない限り、それも迅速に実現しない限り、今後の救済はない──と。写真はベイルートの港湾地区で発生した大規模な爆発事故によって損壊した建物。8月8日撮影(2020年 ロイター/Hannah McKay)

1975─90年のレバノン内戦以来、フランス、米国をはじめとする支援国は、繰り返しレバノンに救いの手を差しのべてきた。だが、レバノンが経済危機に陥る間、政権を担当していた「おなじみの顔ぶれ」を多く含む同国の政界に対し、こうした諸国も愛想を尽かし始めている。

昨年来、レバノンでは支配層に対する大規模な抗議行動が発生している。抗議参加者たちは、国家債務が積み上がっていく一方で、支配層は自らの既得権ばかり追い求めていると非難。COVID-19のパンデミックにより、さらに国内のリソースは窮迫し、8月にベイルートの港湾地区で発生した大規模な爆発事故により、市街は大きな被害を被った。

外貨準備が減っていくなかで、一部の医薬品を含む基本的な商品の供給は不足し、貧困ライン以下に沈むレバノン国民も増加している。

かつての宗主国としてレバノンへの支援が当然視されるフランスは、爆発事故を受けてマクロン大統領が現地に駆けつけ、非常事態に対応するため、少なくとも部分的な改革を導入するよう現地の政治家らの説得に努めた。

だが、対立する党派が泥沼の勢力争いを続ける中で、爆発事故とその余波を受けて前政権が倒れて以来、レバノンでは新たな政府が成立していない。これまでも見られたこう着状態のときと同様に、各党派は組閣不能の責任をお互いに押しつけあっている。

ベイルートで先週行われた協議の席上、デュレル仏大統領補佐官(中東・北アフリカ担当)が、フランス政府はレバノンへの関与を続けるものの「改革が行われない限り救済はない」と明言した。協議に参加していた2人の関係者が明らかにした。「改革なしに救済が行われていた時代は終った」とデュレル補佐官は言った。

西側外交官の1人によれば、フランスは引き続きベイルート復興に関して予定されている会議を11月末までに開催しようと努めているが、なお予断を許さない状況だという。

「全く進展が見られない」と、この外交官は言う。「レバノンの政治家は従来通りの流儀に戻ってしまったし、憂慮すべきことに、国民のことは完全に視野に入っていない」──。

<「ただ乗りは不可」>

米国のシア駐レバノン大使は13日、ワシントンのシンクタンクCSISによるオンラインカンファレンスにおける発言で「(米国は)レバノンが重要」「国家の破綻を回避することが、何よりも最優先であると認識している」と語った。

だが、同大使は「現実には、レバノン自身が望む以上のことをわが国が望むわけにはいかない」とも述べている。

シア大使は、改革が行われなければ救済もないだろうと語った。「私たちは賢くなっている」と述べ「段階的な支援手法が採られ、ただ乗りは許さないことになるだろう」と言葉を添えた。

レバノンの各党派間での連立協定では、スンニ派のハリリ氏が次期首相とされているが、同氏による組閣は難航している。

一部の情報提供者によれば、米国が最近、アウン大統領の義理の息子であるバシル氏を制裁対象に加えたことで組閣が難しくなっているという。バシル氏は、レバノン最大のキリスト教政党である自由愛国運動(FPM)を率いている。

バシル氏に対する制裁の理由は、汚職の容疑とイランの支援を受けるシーア派民兵組織・ヒズボラとの関係である。ヒズボラはレバノンで最強の党派であり、イラン政府にとっては中東地域全体での実働部隊。米国政府はテロ組織と認定している。バシル氏は汚職の容疑を否認している。

複数の当局者からの情報によれば、主な障害となっているのは、アウン大統領とバシル氏が、18人で構成される政府の中に、キリスト教政党の閣僚を指名することにこだわっていることだという。ハリリ次期首相は、全ての閣僚を特定の政党に所属しない専門家で構成したいと望んでいる。

組閣協議に詳しい情報提供者によれば、一部の協議参加者は、組閣の主な障害として、バシル氏を名指ししているという。バシル氏は、他の政党も閣僚を指名することは可能であり、FPMも同じことをやる権利があるとして、自身が組閣の障害になっているとの批判を否定している。

ヒズボラの考え方に詳しい情報提供者によれば、デュレル仏大統領補佐官はヒズボラに対し、友好関係にあるバシル氏を説得して態度を軟化させるよう求めたが、ヒズボラはバシル氏への圧力を強めて同氏の立場をさらに弱めることに消極的だったという。

<厳しくなる状況>

複数の情報提供者は、外貨準備を急速に使い尽くしつつあるレバノンにとって、現在のようなこう着状態は自殺行為だと話している。現在のレバノンの外貨準備高は、わずか179億ドルと推定されている。

米国による制裁は、退任が迫っているトランプ政権による対イラン「最大の圧力」作戦の一環であることをシア駐レバノン大使が認めており、イラン政府及びその連携勢力は、トランプ大統領の退任まで時機を待つ姿勢を見せている。

だが、レバノンの当局者の間には、こうした模様眺めの戦術について懸念する声もある。

組閣協議に詳しいベテランの政界関係者は「今やフランスが発しているメッセージは明確だ。政権が樹立されず、改革も進まなければ、はい、さようならということだ」と語る。「フランスが手を引いてしまえば、誰がそれ以降、この国を気に掛けてくれるのか。湾岸諸国、米国も含めどこも期待できない」と話す。

「結局のところ、今日のような例外的な時期・課題にどう対応すべきか、分かっている国はない」「それなのに私たちは、平穏な時期と同じように組閣のゴタゴタを演じている」という。

シア大使は「(支援国が)強い信念を持たなければならない」と話す。さもなければ、レバノンの政治エリートは真剣になってくれないからだ。「政権確立を急がなければという切迫感を彼らが持ってくれなければ、どうやって圧力をかけられようか」とシア大使は言う。「彼らは私たちに向かって、我々に改革をさせるとは面白い。お手並み拝見だと言うだろう」と語った。

(翻訳:エァクレーレン)

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