Tuesday, March 2, 2021

坂本龍一と木箱を包む“布”(後編)──『Ryuichi Sakamoto | Art Box Project 2020』制作リポートVol.06 - GQ JAPAN

“厨子”と見立てた木箱を大麻布で包むことで、『2020S』は完成する

現代に合わせたものづくりが、日本文化を後世に残すための手段となる

吉田と緒方は、それぞれ人間の生活に必要不可欠な“衣食住”に焦点を当て、日本文化の継承を目指すものづくりを行っている。それは何も、先人たちと同じことを繰り返すわけではない。吉田も緒方も、日本古来のものを、あくまで現代の技術や価値観を以て、再現することにこだわりを持っている。

「大麻布を江戸時代と同じ手法で再現する手段ももちろんありますが、昔と今では水や土も、雨も違います。同じ手法を取っても、同じ大麻布にはできません。だからこそ、今ある最新の技術を使って、縄文時代の風合いを目指すことが一番だと思っています」(吉田)

この1万年で、自然も人の生活も大きく変わってしまった結果、昔と同じ手法を取っても、古き良き魅力は引き出せない。次の世代に日本文化の魅力を伝えるには、現代の環境に合わせたものづくりが必要不可欠であり、それこそが日本文化を後世に残す手段へと繋がる。

縄文時代の風合いを再現するために工場生産される麻世妙

また、“日本文化を後世に残す”をテーマにものづくりをする緒方にとって、“神道”という思想が大きなキーワードとなる。神道とは、自然には神様が宿るという日本古来の考え方であり、『2020S』に取り入れている“厨子”、いわゆる神社は、神様と人を結ぶ聖域と位置付けられている。

「縄文時代から変わらず、日本人は自然を神様として生きてきた……ということが、僕のものづくりの背景にはあります。我々は、自然と共生しながら、有限のものを循環して生きてきたはずですし、この精神は時代が変わっても続いていくものだと思います」

環境問題が肥大化する中で、新型コロナウイルスによるパンデミックに直面し、人々は自然回帰を余儀なくされる状況にある。日本に古来からあるものを現代に活かすということは、人と自然の循環を促し、双方が共生する手立てとなるだろう。また、必要なものを必要な分だけ得て、ひとつのものをより長く大切に扱おうとする生活意識が芽生えるきっかけにも繋がるはずだ。

「2020年のパンデミックを経て、地球がリセットをしようとする今、これから人間がどのように自然と共生していくべきか考え、戻っていくしかありません。麻世妙をはじめとした日本のものづくりが、これからの世界の生き方に繋がれば良いなと思っています」(緒方)

自然と共に生きてきたことこそが、日本のルーツとなるのかもしれない

1万年の時を越えて繋がる想い

『2020S』を手にした人は、誰もがはじめに、麻世妙の大麻布に触れることになる。そのきめ細かな生地と、上質でなめらかな質感には、大麻布を知っている人はもちろん、柔らかい布の触感を知っている人までも驚くという。

柔らかい布を知っている人でも驚くほどのなめらかな手触り

また、日本では元来、“包む”という行為で、相手を敬う気持ちを表現してきた。そう考えると、『2020S』では、厨子となる木箱を、麻世妙の大麻布で包むことで、神様である自然と人との繋がりを尊く想うことの必要性を説いているのかもしれない。麻世妙が『2020S』の一部となることで、坂本をはじめ、現代を生きる人たちの記憶と、自然と共に生きてきた縄文時代の人々との記憶が繋がる奇跡の瞬間が生まれるのだ。

「麻世妙に触れてもらえれば、大麻繊維の不思議な風合いを感じると思います。そのことは、縄文人も知っていたはずです。1万年の時を越えて繋がる麻世妙の壮大なストーリーを感じ、楽しんでもらえたら嬉しいです」(吉田)

吉田真一郎 / Shinichiro Yoshida

エイベックス「麻世妙」顧問。1948年 京都府生まれ。美術家。近世麻布研究所所長として日本の自然布、主に江戸時代の大麻布、苧麻布の繊維と糸の研究を行っている。奈良県立民俗博物館、東近江市能登川博物館、愛荘町立歴史文化博物館、福島県からむし工芸博物館、新潟県十日町市博物館、San Francisco Craft & Folk Art Museum、国立民族学博物館などで展示と研究を発表。共著に「Riches From Rags」(San Francisco Craft & Folk Art Museum, 1994)、「別冊太陽 日本の自然布」(平凡社 2003)などがある。最近の美術活動としては、山口情報芸術センター(YCAM)で作品「白」を発表。

www.majotae.com

緒方 慎一郎 / Shinichiro Ogata

1998 年、SIMPLICITY設立。「現代における日本の文化創造」をコンセプトに、和食料理店「八雲茶寮」、和菓子店「HIGASHIYA」、プロダクトブランド「Sゝゝ[エス]」などを展開。自社ブランドのみならず、建築インテリア、プロダクト、グラフィックなど多岐に亘るプロジェクトにおいて、デザインやディレクションを手がける。2004年、由布院「山荘 無量塔」の建築・空間デザイン。2008年、紙の器「WASARA」の総合デザインおよびディレクション。2011年、東京大学総合研究博物館「インターメディアテク」の空間デザイン。2020年、パリに「OGATA Paris」を開店。著書に『HIGASHIYA』(青幻舎)、『喰譜』(東京大学出版会)、『拈華』(青幻舎)。

www.simplicity.co.jp
www.ogata.com

「2020S」オフィシャルサイトはこちら

Let's block ads! (Why?)


からの記事と詳細 ( 坂本龍一と木箱を包む“布”(後編)──『Ryuichi Sakamoto | Art Box Project 2020』制作リポートVol.06 - GQ JAPAN )
https://ift.tt/2Oi1qZH
Share:

0 Comments:

Post a Comment