Sunday, March 28, 2021

懐かしい顔付きと現代的な音 JBL 「4312MⅡ」で聴く「Shiro SAGISU Music from_SHIN EVANGELION」 - ダイヤモンド・オンライン

 スピーカーだけの写真を見てしまうと、「おやおや、この連載は小型スピーカーを紹介するのでは?」と、疑問を持たれる方もいるかもしれない。ご安心ください。往年のJBLのラージモニターのような顔付きだが、立派な小型スピーカーです。

JBLのモニタースピーカーのデザインを継承したコンパクトモニター

 冗談はさておき、JBLのコンパクトモニター「4312MⅡ」(定価:8万5800円/ペア)を紹介する。30cmウーファーを備えたモニタースピーカーの4312シリーズの高さと横幅をほぼ1/2としたモデルだ。

 木目のエンクロージャーに青いバッフルの組み合わせは、JBLのスタジオモニターが現代まで踏襲してきたデザインそのまま。それでいて使いやすいブックシェルフ型のサイズのため、初代の4312Mは当然ながら大ヒット。

 本機はその後継機で、最新のモニタースピーカーの設計や技術を採り入れて内容を一新したモデルだ。とはいえ、4312MⅡ自身も2008年発売のモデルなので、十分にロングセラーと言える。

 オーディオに関心のある人なら、JBLというアメリカのスピーカーメーカーはよくご存じだろう。アルテック・ランシングというメーカーの技術者であり、一時期は技術副社長でもあったジェームス・B・ランシングが起こした会社だ(創業当時の社名はジェームス・B・ランシング・サウンド)。数多くのスタジオで使われたラージモニター「4343」などは昭和期のオーディオマニアの憧れだったし、家庭用として美しいデザインを兼ね備えたパラゴン、K2シリーズ、エベレストシリーズといったハイエンドスピーカーはオーディオにあまり詳しくない人でも知っているかもしれない。

 現在でも、映画館などの大規模施設の音響設備や放送局や録音スタジオ向けの業務用機器を手掛けているし、民生用としては「EVEREST DD6700」「K2 S9900」などの高級スピーカーから、手頃な価格のスピーカーまで幅広くラインアップ。最近では、人気の高い完全ワイヤレスイヤホン、Bluetooth対応のコンパクトなアクティブスピーカーなども発売しており、国内でも人気の高いブランドのひとつとなっている。

 4312MⅡは今や小型スピーカーでは珍しい3ウェイ構成を採用。上部に高域用と低域用のアッテネーターが備わっているのもあまり見かけない装備だ。スタジオモニターらしさを感じる部分だ。ユニットを保護するサラウンネットはバッフル面の四隅にあるマジックテープで装着する。ややチープだが、価格を考えれば仕方のないところ。

前面の上部にあるアッテネーター。高音、低音のそれぞれで3段階の調整が可能になっている。

 エンクロージャーの形式はバスレフ型で、ポートも前面のバッフル面に備わっている。こうした基本的な構成はオリジナルモデルの4312シリーズを踏襲しているので、現代の小型スピーカーを見慣れている人には古いと感じるかもしれない。

 ウーファーの上に横並びでミッドレンジとトゥイーターが配置されているのも今ではあまり見かけない。この配置はミッドレンジ、トゥイーターともにウーファーになるべく近接させ、3つのユニットから出る音がバラバラにならず、点音源に近い鳴り方をするためのものだ。各ユニットが大きく、ユニット間の距離が離れてしまいやすいラージモニターならではの発想でもある。

[4312MⅡの主なスペック] ●形式:3ウェイ3スピーカー・バスレフ型●インピーダンス:6Ω●再生周波数帯域:55Hz~50kHz●出力音圧レベル:90dB 2.83V/1m●サイズ:幅181×高さ300×奥行き180mm●質量:4kg

伝統的なパルプコーン・ウーファー採用だが、専用に設計されたユニットを使用

4312MⅡの前面と背面。見た目の伝統的なデザインとなっており、ファンにとっては大きな魅力とも言える。

 白い振動板が特徴的なウーファーは、133mm口径のピュアパルプ・ホワイトコーン・ウーファー。補強のためのリブを加えた見た目はほぼ昔のJBLそのままだが、振動板や磁気回路を支えるフレームは独自設計のアルミダイキャスト製、エッジはアコーディオンプリーツ・クロスエッジだ。

白いコーンにリブ入りのデザインのウーファー。見た目は懐かしい感じだが、最新の技術で設計されている。

 ミッドレンジは50mm口径のピュア・パルプ・コーンを採用。トゥイーターとの音のつながりを重視して、センターキャップのドーム形状を最適化し、指向性も改善している。トゥイーターは、JBLのスピーカーでは定番とも言えるチタン振動板を採用。口径は19mmで、ピュアチタン振動板を窒素ガスで高温焼き入れ処理を行って表面硬度を高めた、テンパード・ピュアチタン・ドームとなっている。基本的な素材は伝統的な素材だが、それぞれ最新の技術を採用したユニットとなっている。これらは、他のスタジオモニターで採用される設計や技術を採り入れたものとなっている。

ウーファーの上部にあるミッドレンジ(写真左)とトゥイーター。現代では少々珍しい配置だ。

 木目が美しいエンクロージャーも、昔ながらの見た目だが、新設計されたユニットの性能を引き出すため、内部には補強のための桟を追加するなどして剛性を高め、箱鳴きによる音の濁りを徹底して抑えている。板厚も十分な厚みがあり、強度は高くしっかりとした強度を備えていることがわかる。

4312MⅡの側面。木目を活かしたシンプルな外観だ。塗装仕上げも光沢のない艶消し仕上となっている。
4312MⅡの天面。仕上げは側面とまったく同じ。底面もほぼ同じ仕上げだ。

 背面にあるネットワーク端子は金メッキ仕上げ。内蔵するネットワーク回路は、ウーファー用のローパスフィルター用コイルと内部配線材の線径を太くして損失を抑えているという。こうした部分も上位機となるモニターシリーズの技術やノウハウを受け継いだものになっている。

4312MⅡの背面のネットワーク端子。シングルワイヤリング仕様で、バナナプラグにも対応する。

[試聴曲1] Shiro SAGISU Music from_SHIN EVANGELION(CD)

Shiro SAGISU Music from_SHIN EVANGELION

 試聴に使った曲を紹介しよう。「Shiro SAGISU Music from_SHIN EVANGELION」は、ついに完結した「シン・エヴァンゲリオン劇場版:II」の音楽集。オリジナルサウンドトラックと考えていいものだが、実際に使われた長さに調整されたものではなく、録音された曲のまま収録している点が異なる。また、未使用曲や編曲の異なるバリエーションも豊富に含まれており、CD3枚組の充実した内容となっている。試聴では、CDをリッピングし、記録されたリニアPCM音源のまま16ビット48kHzのwavデータで保存したものを聴いている。

 まだ公開から1か月ほどなので、映画本編の内容にはなるべく触れないようにする。曲の紹介についても、ネタバレはなるべくしないようにするので、あまり詳しい紹介ができないのはご容赦いただきたい。

 鷺巣詩郎は、TVシリーズ、旧劇場版を通してエヴァの音楽を担当しており、本作も集大成的なものになっている。「EM20」と呼ばれるあまりにも有名な曲も、今までにもさまざまなアレンジで聴いてきたが、もちほん本作にも新しいアレンジで収録されている。また、本作は思った以上にボーカル曲が数多く収録されているのは意外だった。本編で使われていない曲もあるが、オーケストラ編成のシンフォニックな曲のコーラスだけでなく、歌詞のあるボーカル曲が多い。その理由については筆者も想像するしかないのだが、本編を見た後に曲を聴くとなんとなく理由がわかるような気がする。

 特筆したいのは、CDとは思えない音質の良さ。レコーディングなどはハイレゾで行われていると思うし、CDフォーマットへの変換やバランス調整などの作業が丁寧に行われているのがわかる。

[試聴曲2] 宇多田ヒカル/One Last Kiss(96kHz/24bit、FLAC)

宇多田ヒカル/One Last Kiss

 こちらは「シン・エヴァンゲリオン劇場版:II」の主題歌。この曲と一緒にエンドクレジットで流れる「Beautiful World (Da Capo Version)」に加え、「新劇場版:序」、「同:破」、「同:Q」の主題歌も2021Remastered版を収録。こちらも集大成的なミニアルバムとなっている。こちらはCDのほか、ハイレゾ版、アナログ版なども発売されているが、試聴ではハイレゾ版を使用している。

 試聴では、JBLの4312MⅡのほか、筆者の手持ちのスピーカーであるB&W 607でも聴いている。607と比較しながらのインプレッションとすることで、4312MⅡの特徴をわかりやすく紹介するいつもの手法だ。再生機器はMac miniで再生ソフトはAudirvana Plus。D/AコンバーターはCHORDのHugo2。Hugo2のボリュームを使用して、パワーアンプのアキュフェーズA-46に直接アンバランス接続している。

試聴するスピーカー。左がB&W 607で、右がJBL 4312MⅡ。こうして並べてみると、比較的コンパクトな607とほぼ同じサイズとわかる。
試聴中のJBL 4312MⅡの様子。小型スピーカーらしからぬ顔付きと雰囲気がなかなかユニーク。

オーソドックスな顔付きとはそぐわない現代のJBLの音

 これだけ往年のスタジオモニターの顔をしていると、音も往年のJBLのそれを期待しがちだが、豪快な鳴りっぷりや荒々しさもある高音域のエネルギーなどを予想していると肩透かしを食らう。

 現代のスタジオモニターとして磨き上げた現代的なJBLの音だ。明るいサウンドで勢いのある溌剌とした音になるのは、JBLらしさを感じる部分だが、前に迫ってくるような音像型の鳴り方ではなく、ステレオ空間の広がりや奥行き感もしっかりと描く、その意味では、洗練されたというか少し上品になったと感じる人もいるだろう。

 ボーカル曲などを聴くと、声はクリアーでスケール感も小型スピーカーとしては大きめ。ボーカルの爽快感のあるのびのびとした歌い方も小型スピーカーらしからぬおおらかさがある。それでいて細かなディテールがおざなりになるような荒っぽさもない。顔付きとはまったく逆と言っていいほど、現代のJBLの音だ。

 逆に低音のローエンドの伸びは不足気味に感じる。決して低音不足というわけではないのだが、やや軽い感触になりがちで、スケールの大きな音場からすると、もう少し低音が欲しくなる。このあたりは比較的手頃な価格の制約もあるかもしれない。ただし、低音の反応の良さ、リズム感の良さは大きな魅力だ。

おおらかで堂々とした鳴りっぷりと、溌剌とした反応の良さ

楽曲別のインプレッション:

1-01 Paris
 この曲はメランコリックなギターとラテン系を思わせるパーカッションの素早いリズムの曲で、徐々に編成を増しながら緊張感たっぷりに展開していく。手に汗を握るシークエンスで使われる曲ゆえのテンションの高さを4312MⅡはしっかりと伝えてくれる。明るく溌剌とした陽性の音ではあるが、こうした物悲しい情感もしっかりと伝えてくれる。音像の立つ鳴り方も音のリアリティーがあり、小型らしからぬスケールの大きさが劇場の大スクリーンを思わせる。
 B&W 607は対照的に緻密な再現だ。音場の広がりや深さは4312MⅡよりも優れるが、それにも関わらず緻密でギュッと詰まった感じの再現になる。テンションの高さというよりも緊迫感、物哀しいというよりも内省的な鳴り方で、実に対照的なサウンドだ。

1-13 m & r_piano
 ピアノ独奏による癒やし系の曲。ピアノの音色は粒立ちよく、細かな余韻まできちんと再現され、音の響きも美しい。優しいタッチの音も心地良く鳴るし、素早いパッセージも弾むようになる。
 B&W 607はまとまりのよい再現で、ピアノの低音パートの音が低音の深い響きまでしっかりと出るので、癒やし系の曲ながらも内に潜む内省的なムードがよく伝わる。ややクールな演奏にも感じる。

1-18 激突! 轟天対大魔艦
 特撮作品からの音楽で、オリジナルは「惑星大戦争」で使われた曲。壮大な船出を感じさせる導入から、ポップな曲調に転じ軽快なメロディーが展開する。こうした明るいムードの曲は4312MⅡとの相性がよく、反応のよい鳴り方と合わせてリズム感豊かな再現になる。この曲だけを聴いたら、王道の少年アニメのような胸が熱くなるような内容を想像してしまうほど。
 B&W 607はまとまりの良い再現で、音数も多いし、テンポの良さも正確な再現だ。ただし、どこか優等生的で4312MⅡの後だと元気のない感じになってしまう。熱気がやや足りない感じだ。

2-13 EM20 =wunder operation=
 お約束のEM20だ。導入こそはオリジナルを彷彿とさせるが、パーカッションによるリズムがどこか陽気で、いつもの緊張感に満ちたかっこよさだけでなく、勇ましい気持ちとともに出撃する感じがある。4312MⅡではそのパーカッションが軽快で、リズムはなかなかに重厚。低音はやや不足もあるが、軽快によく弾むこと、中低域がしっかりとしていて十分な厚みや力感が伝わるので案外物足りなさはない。おそらくは小型スピーカーということで低音はいさぎよく諦め、そのぶん、中低音域の厚みと反応の良さを狙ったものと思われる。なかなか充実感のある演奏だ。
 B&W 607では、ドラムの音がよりパワフルで迫力のある鳴り方になる。軽快なパーカッションとの対比もいい。精密感のある鳴り方は緊迫感と勇ましさのバランスも良好だ。この曲はどちらがよいかの判断に迷う。リズム感がよく、テンポ感の良さが際立つ4312MⅡは今までにない威勢の良さがあるし、607はこれまでたくさん聴いてきてEM20のイメージがよく出ていて、まさに集大成という感じを味わえる。

2-16 citation from joy to the world
 誰もが一度は聴いたであろう「もろびとこぞりて」だ。歌詞も日本語。庵野秀明監督の選曲の巧みさにうならされる曲。子供の頃に誰でも歌う曲だが、2番の歌詞ではずばり神と悪魔の戦いを歌っていて、不穏当な曲のようにも感じてしまった(西洋の賛美歌としてはよくあること)。賛美歌らしい荘厳で広々としたステージがよくわかる。この開放的な感じは4312MⅡの長所だ。そして、天使の歌声のような子供達の合唱は一人一人の音像がよく立ち、ボーイソプラノによるソロがぐっと前に出る。B&W 607と比べると、往年のJBLらしさというか、少し古い時代の鳴り方に感じるところもあるが、ボーカルが前に出てくる再現はやはり気持ちがいい。
 607は、より整然とした鳴り方。音場は広く、天井の高さまでも感じる。そして合唱隊は並んでいる様子までわかるような写実的な再現で、コーラスのハーモニーとひとりひとりの声の粒立ちの良さは見事なもの。伴奏のオーケストラの演奏もきめ細かい再現で、特に弦の艶やかな音色がいい。緻密さを感じる演奏だ。

2-18 ave verum corpus
 モーツァルトの「ave verum corpus ニ長調、K,618」。生体賛美歌と呼ばれるもので、静謐なメロディーが心に染みる曲。ネタバレは避けるが使いどころも絶妙だ。4312MⅡの明るい音調もあって、天井から光が差し込むような清々しい気持ちになる音だ。その場の広々とした感じはやや足りないが、コーラスの声の美しい響きや演奏の音の余韻はきれいに鳴る。
 B&W 607では、より静かで荘厳な感じになる。音場というか、録音場所の空間の広さは見事なもので、教会で録音したと言われたら信じてしまうほど。人々のために自ら犠牲となった救世主を称える感謝に満ちた優しい音色と、包まれるような豊かな音の広がりが素晴らしい。こうした表現で607の出来の良さがよくわかる。

宇多田ヒカル/One Last Kiss
 これで締めくくりである。宇多田ヒカル本人もエヴァファンを公言していたと思うし、作詞や作曲にあたっては庵野秀明監督との話し合いもしているに違いないが、「シン・エヴァンゲリオン劇場版:II」としての主題歌がラブソングというのは見事なマッチングだ。4312MⅡのボーカルは音像がしっかり立つことや声の明瞭さもあって、実にニュアンスの豊かな再現になる。陽気さだけでなく、ありのままの心情を吐露するような歌い方の妙もよく伝わる。味わい深い再現だ。
 B&W 607は細かな音の再現性や音場の奥行きの豊かさ、リズムを刻む低音の伸びなど、実力の高さがよくわかる再現だ。強いていえば、完成度の高い演奏と歌ではあるが、歌に込めた熱では4312MⅡの方がやや優れる印象。

JBLらしさをどこに求めるかで評価が分かれるかも

 JBLと言えばジャズという人は多いと思うが、往年のJBLの音を求めるならば4312MⅡは目的にはそぐわないと思う。しかし、4312MⅡがJBLらしくないというとそんなことはない。紛れもなく現代のJBLのスピーカーだ。

 こういうことを言うと怒られてしまうかもしれないが、筆者は昔のJBLの音が好みではなく、現代のK2 S9900やエベレストDD6700なども過小評価していた。ずいぶん前にK2 S9900の音をじっくりと聴く機会があり、その音の素晴らしさに愕然とし、一時は真剣にJBLのスピーカーを手に入れようかと迷ったことがあるほどだ。

 そんな筆者の感覚からすると、4312MⅡは絶対的なクオリティーは別にして、K2 S9900寄りの現代的な表現力に近い鳴り方をするスピーカーだ。小型サイズに加えて価格的な制約もあって、JBLの良さのひとつである力強い低音を含めて諦めている部分もあるが、それでも中低域の反応の良さや弾むような鳴り方はよく出来ているし、中域の密度感や若々しい勢いの良さを感じるところはJBLの良さをきちんと受け継いでいると思う。要するにJBLの良さをどこに求めるかで、4312MⅡの評価は大きく分かれると思う。

 見た目のイメージが往年のJBLなので誤解されてしまいそうなところもある。けれども、ある種の風格を感じさせる顔付きは今見ても魅力的だと思う。どれも優秀な現代のスピーカーが、みんな同じような2ウェイ構成になってしまっている今、こうした目に見えてわかる強い個性は貴重な存在と言いたい。

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